不動産

宅建業行政処分①指導監督基準

2021.11.16

 

 

 宅地建物取引業法(以下、宅建業法乃至は法といいます)は「宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする。」法律です(法1条)。

  そのため、宅建業法には、様々な規制が定められており、一般的にはどのような規制があるかという点から解説されることが多いですが、今回は「その規制に違反したらどのような処分がされるのか」といった視点から、宅建業法を眺めてみます。方法としては、大阪府がHPで公開している平成27年8月から令和3年6月(以下、検討期間といいます。)までの宅建業法違反による行政処分例(事務所・業者不確知、業者・役員の欠格等、必要的免許取消の場合を除きます。)を整理する形で、現実的にはどのような規制で処分されることが多いのか、また、処分される具体的な違反行為を紹介します。

2 大阪府では、宅建業法違反による行政処分について、違反行為類型ごとに指導監督基準(以下、監督基準といいます。)を設けています(詳細は、20211101shidoukanntokukizyun.pdf (osaka.lg.jp))。中でも「別表第1」が判り易く整理されており、村上・新村法律事務所の方で以下のとおり番号を付し、次回以降、検討期間の中で行政処分がされた違反行為について、整理紹介していきます。

 

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別表第1(第4関係)

 

違反行為の概要

適用

条文

標準

処分例

1

変更の届出義務違反

法第9条の規定に違反して、商号、役員の氏名、事務所の所在地等変更の届出をしなかった場合

65条

①,③

指示

2

営業を目的とした名義貸し

法第13条第1項の規定に違反して、他人の営業のために名義貸しをした場合

65条

②2,④2

90日

3

表示又は広告を目的とした名義貸し

法第13条第2項の規定に違反して、他人の表示又は広告のために名義貸しをした場合

65条

②2,④2

15日

 

 

 

 

4

営業保証金の供託等に関する義務違反

① 法第25条第5項(法第26条第2項において準用する場合を含む。)、法第28条 第1項、法第64条の15前段又は法第64条の23前段の規定に違反して、必要な営業保証金を供託しなかった場合

② 法第64条の9第2項の規定に違反して、必要な弁済業務保証金分担金を納付しなかった場合

③ 法第64条の10第2項の規定に違反して、必要な還付充当金を納付しなかった場合

④ 法第64条の12第4項の規定に違反して、必要な特別弁済業務保証金分担金を納付しなかった場合

65条

②2

30日

5

業務処理の原則違反

法第31条の規定に違反して、業務処理を行った場合

65条

①,③

指示

 

 

6

専任宅地建物取引士の設置義務違反

(1)法第31条の3第3項の規定に違反して、専任宅地建物取引士の設置に関し必要な措置をとらなかった場合

65条

②2,④2

7日

(2)(1)の場合において、知事が指摘したにもかかわらず業者が違反状態を是正しなかった場合

30日

 

 

 

7

誇大広告等の禁止違反

(1)法第32条の規定に違反して、誇大広告等をした場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

7日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合((3)の場合を除く。)

15日

(3)(2)の場合において、当該関係者の損害の程度が大であると認められる場合

30日

 

8

広告開始時期の制限違反

法第33条の規定に違反して、工事に関し必要とされる開発許可、建築確認その他の処分を取得する前に、広告をした場合

65条

①,③

指示

 

 

9

自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限違反

(1)法第33条の2の規定に違反して、自己の所有に属しない宅地又は建物について、売買契約(予約を含む。)を締結した場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

10

取引態様の明示義務違反

法第34条の規定に違反して、取引態様の別を明示しなかった場合

65条

②2,④2

7日

 

 

11

 

媒介契約締結時における書面の交付義務違反

① 法第34条の2第1項(法第34条の3において準用する場合を含む。②において同じ。)の規定に違反して、媒介契約の締結時に書面を交付しなかった場合

② 法第34条の2第1項の書面について、同項各号に掲げる事項の一部を記載せず、又は虚偽の記載をした場合

65条

②2,④2

7日

 

12

価額について意見を述べる際の根拠の明示義務違反

法第34条の2第2項(法第34条の3において準用する場合を含む。)の規定に違反して、宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額について意見を述べるときに、その根拠を明らかにしなかった場合

65条

②2,④2

7日

 

13

専任媒介契約に関する義務違反

法第34条の2第3項から第9項までの規定に違反して、専任媒介契約に係る指定流通機構への登録、登録書の依頼者への引渡し又は依頼者に対する業務の処理状況の報告をしなかった場合等

65条

①,③

指示

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14

重要事項説明義務違反

(1)次のいずれかに該当する場合((2)の場合を除く。)

① 法第35条第1項、第2項又は第3項の書面に、同条第1項各号、第2項各号又は第3項各号に掲げる事項の一部を記載せず、又は虚偽の記載をした場合

② 法第35条第1項、第2項又は第3項の書面は交付したものの、説明はしなかった場合

③ 宅地建物取引士以外の者が、法第35条第1項、第2項又は第3項までの規定による重要事項説明をした場合

65条

②2,④2

7日

(2)(1)①から③までのいずれかに該当する場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合((3)の場合を除く。)

15日

(3)(2)の場合において、当該関係者の損害の程度が大であると認められる場合

30日

(4)法第35条第1項、第2項又は第3項の規定に違反して、同条第1項、第2項又は第3項の書面を交付しなかった場合((5)の場合を除く。)

15日

(5)(4)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合((6)の場合を除く。)

30日

(6)(5)の場合において、当該関係者の損害の程度が大であると認められる場合

60日

15

供託所等に関する説明義務違反

法第35条の2の規定に違反して、供託所等に関する説明を行わなかった場合

65条

①,③

指示

 

 

16

 

契約締結等の時期の制限違反

(1)法第36条の規定に違反して、工事に関し必要とされる開発許可、建築確認その他の処分を取得する前に、売買契約の締結等をした場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

 

17

売買契約等の締結時における書面の交付義務違反

法第37条第1項又は第2項の書面に、同条第1項各号又は第2項各号に掲げる事項の一部を記載せず、又は虚偽の記載をした場合

65条

②2,④2

7日

法第37条第1項又は第2項の規定に違反して、同条第1項又は第2項の書面を交付しなかった場合

15日

 

18

法第37条第1項又は第2項の書面への宅地建物取引士の記名押印義務違反

法第37条第3項の規定に違反して、法第37条第1項又は第2項の書面に宅地建物取引士をして記名押印させなかった場合

65条

①,③

指示

 

19

クーリングオフに関する制限違反

法第37条の2第3項の規定に違反して、事務所以外の場所での買受けの申込みの撤回又は売買契約の解除にあたり手付金その他の金銭の返還をしなかった場合

65条

①,③

指示

20

損害賠償額の予定等の制限違反

法第38条第1項の規定に違反して、売買代金の10分の2を超える損害賠償額の予定等を定めた場合

65条

①,③

指示

21

 

手付額の制限違反

法第39条第1項の規定に違反して、10分の2を超える手付金の受領した場合

65条

①,③

指示

22

担保責任についての特約の制限違反

法第40条第1項の規定に違反して、民法の規定より買主に不利な特約をした場合

65条

①,③

指示

 

 

23

手付金等の保全義務違反

(1)法第41条第1項又は第41条の2第1項の規定に違反して、必要な保全措置を講じずに手付金等を受領した場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

24

 

割賦販売の契約の解除等の制限違反

 

法第42条第1項の規定に違反して、必要な催告をせずに賦払金の支払の遅滞を理由として契約を解除した場合等

65条

①,③

指示

 

 

 

25

所有権留保等の禁止違反

(1)法第43条第1項若しくは第3項の規定に違反して、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなかった場合、又は、同条第2項若しくは第4項の規定に違反して、担保の目的で宅地若しくは建物を譲り受けた場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

26

不当な履行の遅延

法第44条の規定に違反して、宅地若しくは建物の登記若しくは引渡し又は取引に係る対価の支払いを不当に遅延させた場合

65条

②2,④2

30日

27

 

秘密を守る義務違反

法第45条の規定に違反して、秘密を他に漏らした場合

65条

②2,④2

15日

28

限度額を超える報酬の受領

法第46条第2項の規定に違反して、限度額を超えて報酬を受領した場合

65条

②2,④2

15日

29

報酬額の掲示義務違反

法第46条第4項の規定に違反して、報酬額を掲示しなかった場合

65条

①,③

指示

 

30

重要な事項に関する故意の不告知等

法第47条第1号の規定に違反して、重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げた場合

65条

②2,④2

90日

31

不当に高額の報酬の要求

法第47条第2号の規定に違反して、不当に高額な報酬を要求した場合

65条

②2,④2

30日

 

 

32

手付の貸与等による契約締結の誘因

(1)法第47条第3号の規定に違反して、手付の貸与等により契約の締結を誘引した場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

 

33

契約締結の勧誘時における将来利益に関する断定的判断の提供

(1)法第47条の2第1項の規定に違反して、契約の締結の勧誘をするに際し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供した場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

 

34

契約締結等を目的とした宅地建物取引業者の相手方等に対する威迫

(1)法第47条の2第2項の規定に違反して、契約の締結等を目的として、業者の相手方等を威迫した場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

 

 

35

契約締結の勧誘時における将来の環境又は利便に関する断定的判断の提供

(1)法第47条の2第3項及び規則第16条の12第1号イの規定に違反して、契約の締結の勧誘をするに際し、将来の環境又は交通その他の利便について誤解させるべき断定的判断を提供した場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

 

 

36

契約締結の勧誘時における判断に必要な時間の付与拒否

(1)法第47条の2第3項及び規則第16条の12第1号ロの規定に違反して、契約の締結の勧誘をするに際し、契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒んだ場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

 

37

勧誘に先立つて宅地建物取引業者名、担当者名、勧誘目的を告げずに勧誘

法第47条の2第3項及び規則第16条の12第1号ハの規定に違反して、契約の締結の勧誘をするに際し、勧誘に先立って、宅地建物取引業者名、担当者名、勧誘目的を告げずに勧誘を行った場合

65条

②2,④2

7日

 

 

38

相手方等が契約を締結しない旨等の意思を表示した場合の再勧誘

(1)法第47条の2第3項及び規則第16条の12第1号ニの規定に違反して、契約の締結の勧誘をするに際し、業者の相手方等が契約を締結しない旨等の意思を表示したにもかかわらず、勧誘を継続した場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

 

39

迷惑を覚えさせるような時間の電話又は訪問による勧誘

(1)法第47条の2第3項及び規則第16条の12第1号ホの規定に違反して、契約の締結の勧誘をするに際し、迷惑を覚えさせるような時間に電話勧誘又は訪問勧誘を行った場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

 

40

私生活又は業務の平穏を害する方法による契約の締結の勧誘

(1)法第47条の2第3項及び規則第16条の12第1号ヘの規定に違反して、契約の締結の勧誘をするに際し、私生活又は業務の平穏を害するような方法によりその者を困惑させた場合((2)の場合を除く。)

65条

②2,④2

15日

(2)(1)の場合において、当該違反行為により関係者の損害が発生した場合

30日

 

41

契約申込みの撤回時における預り金の返還拒否

法第47条の2第3項及び規則第16条の12第2号の規定に違反して、預り金を返還することを拒んだ場合

65条

②2,④2

15日

 

42

正当な理由のない契約解除の拒否等

法第47条の2第3項及び規則第16条の12第3号の規定に違反して、正当な理由なく、契約の解除を拒み、又は妨げた場合

65条

②2,④2

30日

 

43

証明書不携帯時における従業者の業務従事

法第48条第1項の規定に違反して、証明書を携帯させずに、従業者をその業務に従事させた場合

65条

②2,④2

7日

 

44

従業者名簿の不備

法第48条第3項の規定に違反して、従業者名簿を備えず、又は規則第17条の2第1項各号に掲げる記載事項の一部を記載しなかった場合

65条

②2,④2

7日

45

従業者名簿の閲覧拒否

法第48条第4項の規定に違反して、従業員名簿を閲覧させなかった場合

65条

①,③

指示

46

帳簿の備付け義務違反

法第49条の規定に違反して帳簿を備え付けなかった場合

65条

①,③

指示

47

標識の掲示義務違反

法第50条第1項の規定に違反して、標識を掲示しなかった場合

65条

①,③

指示

48

事務所、案内所等の届出義務違反

法第50条第2項の規定に違反して、事務所等の届出をしなかった場合

65条

①,③

指示

49

指示に従わない場合

法第65条の規定による指示に従わない場合

65条

②3,④3

15日

50

取引の関係者に損害を与える行為等

業務に関し取引の関係者に損害を与えたとき、又は損害を与えるおそれが大であるとき

65条

①1,③

指示

51

取引の公正を害する行為等

業務に関し取引の公正を害する行為をしたとき、又は公正を害するおそれが大であるとき

65条

①2,③

指示

52

他法令違反

業務に関し他の法令に違反し、宅地建物取引業者として不適当であると認められるとき

65条

①3,③

指示

53

業者の責めに帰すべき理由がある宅地建物取引士の処分

宅地建物取引士が監督処分を受けた場合において、業者の責めに帰すべき理由があるとき

65条

①4,③

指示

 

54

不正不当行為

(1)業に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき((2)の場合を除く。)

65条

②5,④5

30日

(2)(1)の場合において、関係者の損害の程度又は社会的影響が特に大きい場合

60日

 

55

報告命令、立入検査の拒否等

法第72条1項の規定による、報告提出命令に対する報告・資料提出の拒否若しくは虚偽の報告・資料の提出、又は立入検査に対する拒否等をした場合

65条

②4,④4

15日

 

56

履行確保法違反(業務停止相当の違反を除く。)

履行確保法の規定に違反した場合(履行確保法第11条第1項、第13条又は第16において読み替えて準用する第7条第1項の規定に違反した場合であって、違反内容が業務停止相当の場合を除く。)

65条

①,③

指示

 

57

履行確保法の規定に基づく保証金の供託に関する義務違反

履行確保法第11条第1項の規定に違反して、必要な住宅販売瑕疵担保保証金の供託を行わなかった場合で、違反内容が業務停止相当の場合

65条

②2

7日

 

58

履行確保法の規定に基づく新築住宅の売買契約の締結禁止違反

履行確保法第13条の規定に違反して、基準日の翌日から起算して50日を経過した日以降において、新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結した場合で、違反内容が業務停止相当の場合

65条

②2

15日

 

59

履行確保法の規定に基づく不足額の供託に関する義務違反

履行確保法第16条において読み替えて準用する第7条第1項の規定に違反して、不足した住宅販売瑕疵担保保証金の供託を行わなかった場合で、違反内容が業務停止相当の場合

65条

②2

7日

 

投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

賃貸住宅管理業法④マスターリース契約における重要事項説明

2021.10.31

1 はじめに

 管理業法30条は、マスターリース契約(オーナーとの契約)締結に際し、特定転貸事業者(サブリース業者)に対し、重要事項説明書(以下、重説書といいます)を交付して説明を行うことを義務付けています。今回は、この点について解説します。

 

2 宅建業法の重説と管理業法30条の重説

 宅建業法では、宅建業者は「宅地若しくは建物の…貸借の相手方…に対して、その者が…借りようとしている宅地又は建物に関し…貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面…を交付して説明をさせなければならない」とされています(宅建業法35条1項)。しかし、宅建業法では業者自身が借主となる場合は含まれておらず、業者自身が借主となる賃貸借契約には、いわゆる重説(重説書を交付して説明すること)は不要でした。そのため、業者が、オーナーから物件を借り上げ、これを転貸する形で行われるサブリース契約では、重説は要求されてきませんでした。
 しかし、管理業法が施行され、令和2年12月15日以降、特定転貸事業者がサブリース契約をする場合には、重説が義務付けられることとなりました。
 業者が借主となる場合に宅建業法上の重説が義務付けられていないのは、宅建業法が借りる側を保護する法律であり、業者が借主であれば保護の必要性が乏しいためと考えられます。これに対し、管理業法は貸す側であるオーナーを保護することを目的としています。そのため、業者が借主となる場合でも、管理業法による重説が義務付けられているのです。

 以上のように、たとえば宅建業者が特定転貸事業者に当たる場合には、これまでと異なり、前記のようなサブリース契約の際に、管理業法30条に基づき、重説を行うことが必要となったのです。

 

3 重説が義務付けられた理由

 前記のとおり、管理業法により、特定転貸事業者が特定賃貸借契約を締結しようとするときには、オーナーに対し、重説が義務付けられました。では、なぜこのような義務が課されるようになったのでしょうか。

 サブリース事業におけるオーナーの中には、賃貸住宅経営に関する経験や専門知識に乏しい者が増えてきたことから、サブリース業者との間で大きな格差が生じてきていました。このような格差を背景として、従前は、契約内容をオーナーに十分説明せずに契約を締結する業者が存在し、オーナーとの間で大きなトラブルとなることが多発していました。

 そこで、管理業法は、重説を義務付け、オーナーが契約内容を理解したうえで契約を締結するかどうかの判断を行うことができるようにしました。

 

4 説明を行う者及び説明の時期

 このようにオーナーに契約内容を理解させるため重説を行うのですが、法律には、誰が重説書の説明をするかについては、なんら規定もありません。しかし、契約内容を理解させるという管理業法30条の目的からすれば、説明をする者も専門的な知識・経験を有していることが望ましいといえます。そのような観点から、同条の重説は、賃貸不動産経営管理士(一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会の賃貸不動産経営管理資格制度運営規定に基づく登録を受けている者)などにより行われることが望ましいとされています。

 また、重説書の交付時期についても、法律上の規定はありません。しかし、重説を受けてからその内容を十分に理解するためには、ある程度の時間が必要です。そのため、重説から契約締結までには1週間程度の期間をおくのが望ましいとされています。重説から契約締結までの時間を短くせざるを得ないときは、事前に重説書を送っておくなどの方法をとるとよいでしょう。
 なお、マスターリース契約に加えて管理受託契約も締結する場合、管理受託契約についての規制もかかることとなりますので、賃貸住宅管理業に関する記事も参考にしてください( https://m2-law.com/blog/2818/ )。

 

5 重説書記載事項

 以下には、重説書に記載しなければならない事項を示します。

 

① マスターリース契約を締結するサブリース業者の商号、名称又は氏名及び住所

② マスターリース契約の対象となる賃貸住宅

③ 契約期間に関する事項

④ マスターリース契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日、支払方法等の条件並びにその変更に関する事項

⑤ サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法

⑥ サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項

⑦ マスターリース契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項

⑧ 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項

⑨ 責任及び免責に関する事項

⑩ 転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項

⑪ 転借人に対する⑤の内容の周知に関する事項

⑫ マスターリース契約の更新及び解除に関する事項

⑬ マスターリース契約が終了した場合におけるサブリース業者の権利義務の承継に関する事項

⑭ 借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要

 

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賃貸住宅管理業法③不当勧誘規制

2021.10.18

 

1 管理業法29条

次のとおり特定転貸事業者等による不当勧誘などが禁止されています。

法第二十九条 

特定転貸事業者等は、次に掲げる行為をしてはならない。

一 特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し、又はその解除を妨げるため、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者に対し、当該特定賃貸借契約に関する事項であって特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

二 前号に掲げるもののほか、特定賃貸借契約に関する行為であって、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるもの

 

規則第四十四条 法第二十九条第二号の国土交通省令で定める行為は、次に掲げるものとする。

一 特定賃貸借契約を締結若しくは更新させ、又は特定賃貸借契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者(以下「相手方等」という。)を威迫する行為

二 特定賃貸借契約の締結又は更新について相手方等に迷惑を覚えさせるような時間に電話又は訪問により勧誘する行為

三 特定賃貸借契約の締結又は更新について深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法により相手方等を困惑させる行為

四 特定賃貸借契約の締結又は更新をしない旨の意思(当該契約の締結又は更新の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示した相手方等に対して執ように勧誘する行為

 

 

2 管理業法29条1号について

(1)背景事情

オーナーに対する勧誘の際、事実でなかったり、断定できないにもかかわらず「サブリース家賃が下がることはない。入居率は確実である。家賃収入は将来にわたって確実に保証される。」、「原状回復費用・維持修繕費用はサブリース会社が全て負担する。」、「周辺相場よりも当社は高く借り上げることができる。」等の文句が使われ、多くのトラブルが発生していました。そこで、1号は、不実告知等を禁止しました。

前回ブログで指摘した誇大広告規制( https://m2-law.com/blog/2927/ )の背景事情も同様ですが、誇大広告規制に違反した場合の罰則が三十万円以下の罰金であるのに対し、不当勧誘規制の罰則は六月以下の懲役若しくは(or)五十万円以下の罰金又は、これの併科(懲役+罰金)となっており、規制の程度は強くなっています(管理業法42条2号、44条10号)。それは、一層被害を発生させやすい危険な行為と考えられるからでしょう。

(2)問題となる場面

①「勧誘をするに際し」とは

ここで「特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し」とは、特定賃貸借契約の相手方となろうとする者がいまだ契約締結の意思決定をしていないときに、特定転貸事業者又は勧誘者が、特定賃貸借契約を締結することを目的として、又は契約を締結させる意図の下に働きかけることをいいます。なお、その後実際に契約が締結されたか否かは問いません。

  ②「解除を妨げるため」とは

ここで「解除を妨げるため」とは、特定賃貸借契約の相手方の特定賃貸借契約を解除する意思を翻させたり、断念させたりするほか、契約の解除の期限を徒過するよう仕向けたり、協力しない等、その実現を阻止する目的又は意図の下に行うことをいいます。なお、実際に契約解除を妨げられたか否かは問いません。

(2)禁止される行為

   故意による事実を告げない行為・不実の告知が禁止されています。

  ② 管理業法29条1号にいう「当該特定賃貸借契約に関する事項であって特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」とは、当該事項に関して告げなかったり、事実と違うことを告げることが、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の不利益に直結するものをいいます。

  ③ 管理業法29条にいう「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」については、特定転貸事業者であれば当然に知っていると思われる事項を告げないような場合には、故意の存在が推認されることになると考えられます。

 

3 管理業法29条2号・規則44条について 

不実告知等以外にも、相手の正常な意思決定を困難にさせるような勧誘がトラブルを多く生んでおりました。そこで、2号では規則44条に定められる次のような行為を禁止しています。

(1)「威迫する行為」の禁止(規則44条1号)

ここで「威迫する行為」とは、相手方等に不安の念を抱かせる行為をいいます。脅迫と異なり、相手方等に恐怖心を生じさせることまでは要しません。

(2)「迷惑を覚えさせるような時間」における電話・訪問による勧誘の禁止(2号)

ここで「迷惑を覚えさせるような時間」とは、相手方等の職業や生活習慣等に応じ個別に判断されます。一般的には、相手方等に承諾を得ている場合を除き、特段の理由なく午後9時から午前8時までの時間帯に電話勧誘又は訪問勧誘を行うことは、本号に該当します。

(3)「相手方等を困惑させる行為」の禁止(3号)

ここでの「その者を困惑させる行為」も、個別事案ごとに判断されます。深夜勧誘や長時間勧誘のほか、例えば、相手方等が勤務時間中であることを知りながら執ような勧誘を行って相手方等を困惑させたり、面会を強要して相手方等を困惑させる行為などが該当します。

(4)「執ように勧誘する行為」の禁止(4号)

ここにいう「執ように勧誘する行為」とは、相手方等が特定賃貸借契約の締結又は更新をしない旨を意思表示した以降、又は勧誘行為そのものを拒否する旨の意思表示をした以降、再度勧誘することをいいます。一度でも再勧誘を行えば本号違反になるとされています。また、勧誘方法や勧誘場所は問いません。

投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

賃貸住宅管理業法②誇大広告規制

2021.10.04

 

 

1 はじめに

  管理業法28条では、特定転貸業者等による誇大広告等が禁止されています。条文は、次のようになっています。

第28条(誇大広告等の禁止)
 特定転貸事業者又は勧誘者(特定転貸事業者が特定賃貸借契約の締結についての勧誘を行わせる者をいう。以下同じ。)(以下「特定転貸事業者等」という。)は、第2条第5項に規定する事業にかかる特定賃貸借契約の条件について広告をするときは、特定賃貸借契約に基づき特定転貸事業者が支払うべき家賃、賃貸住宅の維持保全の実施方法、特定賃貸借契約の解除に関する事項その他の国土交通省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

 長くてわかりづらいですよね。詳しくはこれから解説しますが、おおまかにいうと、業者がサブリースの広告をするときには、実際よりも著しく優良であると誤認させるような広告をしてはならないということが規定されています。

 

2 特定転貸事業者とは

(1)ちなみに、前提として「特定転貸事業者」とは、特定賃貸借契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者をいいます(管理業法2条5項)。

(2)そして「特定賃貸借契約(マスターリース契約)」とは、賃貸住宅の賃貸借契約(賃借人が賃貸人と密接な関係を有する者として国土交通省令で定めるものを除く-賃貸人が、個人である場合の親族・法人である場合の親子会社等)であって、賃借人が当該賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結されるものをいいます(管理業法2条4項)。

 老人ホームやデイケアホームを利用契約という形で運営する場合は「賃貸住宅の賃貸借契約」に関するものではなく、特定賃貸借契約にあたりません(FAQ1(3)5)。また、個人が賃借した賃貸住宅について、事情により、一時的に第三者に転貸するような場合は「事業を営むことを目的」とするものではなく、特定賃貸借契約にあたりません(FAQ1(3)1)。

(3)ここも、少しわかりにくいですが「賃貸住宅」をサブリースする「業者」は「特定転貸事業者」に該当すると考えられます。

 

3 誇大広告等

管理業法28条のタイトルは、誇大広告「等」の禁止です。ここから、実際の条件より優良であるとみせる「誇大広告」が禁止されていることがわかります。では「等」には、何が含まれるのでしょうか。この等には、「虚偽広告」が含まれるとされています。「誇大広告」と「虚偽広告」を併せて、「誇大広告等」と表現されているのです。

ここでいう広告とは何でしょうか。広告と言えば、新聞の折込チラシやテレビCM等が思い浮かびます。最近は、インターネットでも広告を見かけることも多くなりました。管理業法28条が対象とする広告は、その媒体が限定されておらず、すべての媒体でされる広告が対象となります。

 

4 誇大広告等をしてはならない事項

  誇大広告等をしてはならない事項として、管理業法28条では、①賃料に関する事項、②物件の維持等に関する事項、③維持費の分担に関する事項、④解除に関する事項及び⑤その他国土交通省令で定める事項が規定されています。

 

5 「著しく事実に相違する表示」

  管理業法28条では「著しく事実に相違する表示」が禁止されています。どのような場合に「著しく」といえるかは、個別の表示に即して判断されることとなりますが、一般論としては、オーナーとなろうとする者が事実の相違を知ればサブリース契約を締結しようと思わないような場合に「著しく」にあたると考えられています。

 

6 「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」

 管理業法28条では、「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」が禁止されています(具体例については後述します。)。誤認するかどうかは、オーナーの知識にもよるのでは?とも考えられそうです。しかし、ここでのオーナーには、サブリース契約の内容等につき、専門的知識や情報を有していないオーナーが想定されています。したがって、専門的知識のないオーナーを誤認させるような表示は、同条の「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」に該当すると考えられています。

 

7 記載の具体例

 以下では、いくつかの具体的な記載を紹介しながら、解説を行います。ここで紹介しきれなかった具体例については、「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」をご参照ください。

(1)具体例1

 記載例

・「○年家賃保証!」「支払い家賃は計約期間内確実に保証!」

 解説

  判例上、サブリース契約にも借地借家法の適用があるとされています。そして、借地借家法32条では、賃料減額請求が規定されています。賃料減額請求とは、一定の場合に、賃借人(サブリース業者)から賃料の減額を請求できる権利です。家賃保証との記載があるとしても、実際には、賃料が減額される可能性があるのです。したがって、上記の内容のみでは、管理業法28条に違反するものと考えられます。

 管理業法28条に違反しないためには、上記の記載に加え、その記載と隣接する箇所に、「定期的な見直しがあること」等のリスク情報についても表示することが必要になるのです。さらに、実際には、記載の文字の大きさにも注意しなければなりません。

 

(2)具体例2

 記載例

 ・「いつでも自由に解約できます」

 解説

  前述したとおり、サブリース契約にも借地借家法の適用があります。借地借家法では、貸主(オーナー)側から契約を解除するには、「正当な理由」が必要です。そのため、サブリース契約は、オーナーがいつでも自由に解除できるわけではありません。

 

(3)具体例3

 記載例

 ・「30年一括借り上げ」「建物がある限り借り続けます」

 解説

  広告では上記のような記載をしていても、実際には、一定の場合には業者側から解約できる場合があります。業者側からの解約の可能性があるのに、その旨を記載しないことは、管理業法28条に違反すると考えられます。
 この場合、一定の場合には業者側から解約できることを表示しなければなりません。

 

6 まとめ

  以上のように、管理業法では、誇大広告等が禁止されています。管理業法28条の対象となる広告は、チラシやインターネット等媒体の如何を問わないので、広告媒体ごとに注意すべきポイントもあります。
 記載例もいくつか紹介しましたが、これらはあくまでも例であり、実際には広告を見たうえで具体的に検討することが必要になります。

 

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投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

賃貸住宅管理業法①賃貸住宅管理業

2021.09.21

 

1 はじめに

(1)背景事情

 近年、賃貸住宅管理業務を、建物のオーナー自らが行う割合は大幅に減少し、業者に委託するケースが増えています(平成4年度:25%→令和元年度:81.5%)。これは、オーナーの高齢化、相続等に伴う兼業化の進展とそれに伴うアマチュア化、管理内容の高度化などに起因すると考えられています。ただ、賃貸住宅に管理業者が介在することにより、オーナー・管理業者・入居者の三者間でのトラブルも増加してきました。

 これまでも、管理業者の任意登録制度と登録業者のみに課されるルールは存在しましたが、それだけではトラブルを十分に防ぐことが困難となってきたので、不良業者を排除し、業界の健全な発展・育成を図るため、「賃貸住宅の管理業務の適正化に関する法律(以下、管理業法といいます。)」が制定され、その中で新しく賃貸住宅管理業に関する規定が設けられました。

(2)賃貸住宅管理業とは

 管理業法2条2項において「賃貸住宅管理業」は、賃貸住宅の賃貸人から委託を受け事業として行う、以下の①、②の業務と定義されています。

① 賃貸住宅の維持保全業務(点検・清掃・修繕及びそれに係る契約締結の媒介・取次ぎ・代理を含む)

➡ 玄関・通路・階段等の共用部分、居室内外の電気設備・水道設備、エレベーター等の設備等について、点検・清掃等の維持を行い、これら点検等の結果を踏まえた必要な修繕を一貫して行うこととされていて、以下の場合を含みません(FAQ1(2)3)。

Ⅰ 定期清掃業者・警備業者・リフォーム工事業者等が、維持又は管理の「いずれか一方のみ」を行う場合

Ⅱ エレベーターの保守点検・修繕を行う事業者等が、賃貸住宅の「部分のみ」について維持から修繕までを一貫として行う場合

Ⅲ 入居者からの苦情対応のみを行い維持及び修繕(維持・修繕業者への発注等を含む)を行っていない場合

② 賃貸住宅の家賃、敷金、共益費等の管理業務(上記①と併せて行うものに限る。)

2 概要

(1)登録制度(管理業法3条~9条関係)

 賃貸住宅管理業を営もうとする者は、国土交通大臣の登録を受けなければなりません。なお、管理戸数が200戸未満の者の登録は任意ですが(規則3条)、登録すると以下に述べる賃貸住宅管理業者の義務も課せられ、監督処分や罰則の対象にもなることに留意しましょう(FAQ2(1)11、(3)1)。

(2)賃貸住宅管理業者の義務

① 営業所又は事務所ごとに「業務管理者」の配置(管理業法12条)

 なお「業務管理者」になるにあたっての要件は規則14条に規定されており、実務経験の有無、宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士資格の有無によって「業務管理者」になるまでの流れが異なります。

② 管理受託契約の締結前の書面交付(重要事項説明書・管理業法13条)

 管理業務においてオーナーが期待している対応がなされないというトラブルが多いことから「契約を締結するまでに」業務内容等を明確にするための重要事項を記載した書面を交付して説明しなければならないとされました。

 管理業者は、具体的な管理業務の内容・実施方法、一部の再委託に関する事項等を説明する必要があります(規則31条)。この説明は「業務管理者」によって行われることは必ずしも要しませんが「業務管理者」又は一定の実務経験を有する者など専門的な知識及び経験を有する者が行うことが推奨されています。なお、重要事項説明は、オーナーから委託を受けようとする賃貸住宅管理業者自らが主体として行うものであることに留意してください(国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方(以下、考え方といいます)」15頁)。

 なお、重要事項説明については、オーナーが契約内容を十分に理解した上で契約を締結できるよう、説明から契約締結までに1週間程度の期間をおくことが望ましいとされており、説明から契約締結までの期間を短くせざるを得ない場合には、事前に重要事項説明書を送付し、その送付から一定期間後に、説明を実施するなどして、管理受託契約を委託しようとする者が契約締結の判断を行うまでに十分な時間をとることが推奨されています(考え方15頁)。

③ 管理受託契約の締結時の書面交付(管理業法14条)

 賃貸住宅管理業者は、管理受託「契約を締結したときは」オーナーに対し、確定した契約条件を当事者同士で確認できるよう、遅滞なく、必要事項を記載した書面を交付しなければなりません。適正化法13条の重要事項説明書は、契約締結に先立って交付する書面であり、ここでいう締結時の書面とは交付するタイミングが異なる書面ですから、両書面を一体で交付することはできないとされていますので注意しましょう(FAQ3(2)3)。

④ 再委託の禁止(管理業法15条)

 再委託のせいで管理業者の責任内容が不明確になるという例が多かったので、管理業務の再委託は原則禁止になりました。

 管理受託契約に管理業務の一部の再委託に関する定めがあるときは、一部の再委託を行うことができますが、自らで再委託先の指導監督を行わず、全ての管理業務を他者に再委託すること、又は、管理業務を複数の者に分割して再委託して自ら管理業務を一切行わないことは、本条に違反します。

 なお、契約によらずに管理業務を自らの名義で他者に行わせる場合には、禁止されている名義貸し(管理業法11条)に該当する場合があるため、再委託は契約を締結して行う必要があります(以上、考え方19頁)。

⑤ 分別管理(管理業法16条)

 管理業者からの賃料・敷金等の入金の遅れ・不入金のトラブルが多かったことから、事業者の自己の固有の財産等と入居者等から受領する金銭を「分別」する義務が定められました。分別等の方法については、管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭を管理する口座と賃貸住宅管理業者の固有財産を管理する「口座を別」とした上で、管理受託「契約毎」に金銭の「出入を区別した帳簿を作成」する等により勘定上も分別管理する必要があるとされています(規則36条、考え方19頁)。

⑥ 定期報告(管理業法20条

 管理業務の実施状況の不透明や入居者の意見が反映されにくいという問題があったことから、業務の実施状況や入居者からの苦情の発生・対応状況について、オーナーに対して定期報告の義務が課されました。規則40条1項によれば、それは「契約を締結した日から一年を超えない期間ごと」とされています。 

 

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位置指定道路

2021.08.27

というのは、聞きなれない言葉かもしれませんが、建築基準法(以下、単に「法」といいます。)42条1項5号により、接道義務を充たすための道路として取り扱われるものです(接道義務については、https://m2-law.com/blog/2450/ )。例えば、広い土地を分譲して複数の建築物を建てようとした場合、道路に接していない建築物の敷地が発生することがありますが、その場合に広い土地の一部に位置指定道路を設置することで分譲後の建築物の敷地が接道義務を果たすことができるようにするものです。

ところで、ここで道路とされる「広い土地の一部」というのが、共有地を含む私有地であることが多いことから、道路の敷地所有者と通行者との間で通行方法や通行妨害に関する紛争が生じやすいので、これらの紛争に関する裁判所の基本的考え方(最1小判平成9年12月18日、以下、本件最高裁判決といいます。)について説明したいと思います。

なお、図面画像は、本件最高裁判決の「判例解説民事篇・法曹会」からの引用です。

1 事案の概要

 位置指定道路の所有者以外の者(Ⅹら)が位置指定道路所有者(Yら)に対し通行妨害排除・妨害予防請求をした事案です。

 昭和33年頃に分譲住宅団地が開発された際に各分譲地に至る通路として、幅員4mの私道が位置指定道路として指定されました(以下、本件私道といいます。)。30年以上Xらを含む近隣住民等の徒歩及び自動車による通行の用に供されてきており、自動車を利用するXらにとっては、その居住地から公道へ出るには、本件私道の通行が不可欠でした。しかし、YらがXらの自動車通行を図面(A)の近辺に簡易ゲートを置いて妨害するので、原告らは妨害排除及び妨害予防を求めました((A)とは別のもう一方の端は階段状になっていて、仮に平面上の道にしても勾配が急であるため自動車は通行できません。)。第1審はⅩらの請求を認め、第2審もYらの控訴を棄却したところ、Yらが最高裁に上告しました。

2 最高裁の判断

ア 判断枠組み

 最1小判平成9年12月18日(以下、本件最高裁判決といいます。)は「建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。」という判断枠組みを示しました。そして、Xらが位置指定道路を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しており、YらがXらの通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情があるということはできないとして、Ⅹの請求を認めた第2審の判断を支持しました。

イ 理由

 ちなみに、本件最高裁判決が理由とするのは、次の点です。即ち「道路位置指定を受け現実に開設されている道路を公衆が通行することができるのは、本来は道路位置指定に伴う反射的利益にすぎず、その通行が妨害された者であっても道路敷地所有者に対する妨害排除等の請求権を有しないのが原則であるが、生活の本拠と外部との交通は人間の基本的生活利益に属するものであって、これが阻害された場合の不利益には甚だしいものがあるから、外部との交通についての代替手段を欠くなどの理由により日常生活上不可欠なものとなった通行に関する利益は私法上も保護に値するというべきであり、他方、道路位置指定に伴い建築基準法上の建築制限などの規制を受けるに至った道路敷地所有者は、少なくとも道路の通行について日常生活上不可欠の利益を有する者がいる場合においては、右の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、右の者の通行を禁止ないし制限することについて保護に値する正当な利益を有するとはいえず、私法上の通行受忍義務を負うこととなってもやむを得ないものと考えられるからである。」というものです。

 

3 解説

 本件最高裁判決は、Xらの妨害予防・排除請求権を人格的権利として認めるべきである考えたものです。ただ、人格的権利について示された「日常生活上不可欠」という要件は、相当程度厳しいもので、妨害排除請求が必要以上に認められることを防ぐ機能を果たしています。本件のポイントは「自動車を利用するXらにとっては、その居住地から公道へ出るには、本件私道の通行が不可欠」という点にあります。例えば、他に外部の道路への通路がある場合には、係争の道路を通行する方が便利であっても「日常不可欠」とはいえないことが多いでしょう。ところが一旦、通行が日常生活上不可欠であると判断された場合には、道路敷地所有者側にそれを上回る損害が発生しているとして請求が棄却されることはあまり多くないでしょう(「特段の事情のない限り」原則として「敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する」という本件最高裁判決の判断枠組みがそのことを示しています。)。従って、通行者の請求が棄却されるのは、通行者の通行態様が乱暴であるとか、道路の維持管理費用が看過し得ないほど高額にのぼるのに通行者が応分の負担をしようとしないなどの場合に限られるでしょう。

 

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接道義務

2021.08.02

1 はじめに

 今回から暫く、不動産関連ブログの連載です。下手へた画像で申し訳ありません(笑)。ただ、ないよりあった方がマシかと思い、恥を忍んで書いて載せました。絵心があれば、フリーハンドでも、もう少しアジがでるのですが、、、

 さて、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図る法律として、建築基準法(以下、単に「法」といいます。)があります。法では、上記目的から建築物に関し様々な義務が定められており、これから説明する接道義務もそのひとつです。

 

2 接道義務(法43条)

 法43条1項は「建築物の敷地は、道路(省略。)に二メートル以上接しなければならない」と定めており、敷地までの幅員(ふくいん)が連続して2m以上であることが必要と解されています。

 建築基準法施行(昭和25年)以前に存在し若しくは工事中であった建築物の敷地に上記規定は適用されません(法3条2項、既存不適格)。他方、例えば、工事の着手が法の施行後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物の敷地については接道義務の規定が適用されます(同3項3号)ので、接道義務に反する工事を行うことができません。ちなみに、大規模の修繕や模様替とは、建築物の「主要構造部」(法2条5号)の一種以上について過半に行う場合です(同14・15号)。

 

3 建築基準法上の「道路」(法42条)

 それでは「道路」とはどのようなものかというと、それは法42条に規定されていて、1項では「道路」としては幅員4メートル以上が必要な場合を、2項は幅員4メートル未満の道でも「道路」とみなされる場合を規定しています。

 

4 位置指定道路(法42条1項5号)

 法42条1項の「道路」とは、同1号の定める道路(高速道路、国道、都道府県道、市町村道といった公道)や同3号の定める道(公道、私道を含む)等があります。

 また、位置指定道路といって「土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法によらないで築造(上記3号参照)する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの」もあります。例えば、広い土地を分譲して複数の建築物を建てようとした場合、道路に接していない建築物の敷地が発生することがあり、その場合に広い土地の一部に位置指定道路を設置することで分譲後の建築物の敷地が接道義務を果たすことができるようにするものです。

 位置指定道路の所有関係は、面する敷地の所有者らが共有したり分筆所有したりしている場合や、元の地主個人や土地を分譲した業者が所有している場合等様々です。そして、位置指定道路とされた土地の所有者は、位置指定の適法な廃止・変更がされない限り、位置指定道路内に建築物や擁壁を建築できない等の制限を受けます(法44条、45条)。

 

5 みなし道路(2項道路)

 建築基準法の施行時などに既に存在していた幅員4m未満の道は、前述のとおり原則として接道義務における道路にあたりません。しかし、道の幅員のみを理由に過度な建築制限を受けないよう建築の自由に配慮して、一定の場合には道路とみなす規定もあります。

 接道義務の規定ができた昭和25年に現に建築物が立ち並んでいる道で、特定行政庁が指定したものを、法が定める「道路」とみなすのが法42条2項です。このような道は2項道路と呼ばれています。

 2項道路に指定されると、当該道が「道路」とみなされ、道の中心線から水平距離2m後退した線が道路境界線とみなされます。その結果、その境界線よりも道路側には建築物を建てることができなくなります(法44条1項柱書)。これをセットバック義務といいます。なお、2項道路に指定されていなければ、単なる既存不適格物件に過ぎないですから、たとえセットバックをしたとしても、建築物の増築、改築、大規模修繕等は許されません(法3条2項、3項3号)。

 

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不動産関連⑤賃貸業と改正民法・借主債務の保証

2021.06.02

 

 

1 借主債務の保証に関連する改正民法の概要は、以下のとおりです。

(1)個人根保証契約

 

 民法第5款 保証債務 第2目 個人根保証契約

 465条の2

  1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負 う。

  2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

  3 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。

 

① ここで「個人根保証契約」とありますが、典型例は借主の賃料債務等の保証だとされています。

  ポイントは、2項の極度額を定めなければ効力を生じないとする点と3項です。3項で準用する446条2項、3項は、保証契約は書面等でしなければならないとされています。

  注意が必要なのは、1項が「元本、利息…その他云々について、その全部に係る極度額」とされている点です。例えば「極度額元本100万円」など、元本のみに極度額が定められていても無効となります。

② 一番の問題は「極度額」の上限はいくらかという点です。民法には極度額の上限についての規定はなく、解説書などでも抽象的に高額すぎる場合には、公序良俗に反して無効となる場合があるとしか書いておらず、明確な上限は明らかではありません。

  これと関連して、国交省が「極度額に関する参考資料」という資料を公開しており、国交省のHPからダウンロードできますが、この資料では、関係当事者間の協議にあたって参考としてくださいということが書かれているだけで、明確な基準が示されているわけではなく、家賃債務保証業者が負担した額や貸主が最終的に借主から回収できなかった金額、裁判所の判決で保証人が負担すべきとされた金額などをまとめているだけです。

 

  ただ、その中で参考になるものとして、裁判所の判決において、連帯保証人の負担として確定した金額について、最小値が賃料月額の2か月分、中央値が12か月分、平均が13.2か月分、最高値が33か月分という数字がありますが、この最高値が今後も大丈夫かどうかはよく分かりません。

  もう1つ、参考になるものとして、家賃滞納発生にかかる調査結果があり、そこでは最終明渡しまでの平均的な期間・金額として、

  ア 家賃滞納が3.1か月で合意解約の提案を行い合意解約ができたケース

家賃滞納から4.5か月経過後で明渡し、未回収家賃4.1か月分

イ 明渡しの裁判を行うケース

  家賃滞納から4.0か月経過後で訴え提起、判決確定までが7.3か月

 A 任意退去

   その後任意退去時の未回収家賃が7.2か月分

 B 強制退去

   明渡しまでに家賃滞納から9.1か月経過で、未回収家賃が9.7か月分、強制執行費用の平均が50.7万円というものがあります。

 

 ちなみに、不動産管理業者に対するアンケート調査によれば、家賃5万円と仮定した場合の極度額を、120万円以下とするもの(2年分、29.7%)と60万円以下とするもの(1年分、25.5%)が、多いようです。前者は強制退去までを見据えた数字、後者は保証人の平均的な負担額を参考にした数字といえるでしょう。

 

(2)個人根保証契約の元本確定事由

民法465条の4

1 次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
 二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
 三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。

2 前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。

一 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。

二 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

 

注意すべきは、個人根保証契約については、個人貸金等根保証契約(465条の4-2項)と異なり、借主に対する強制執行や借主の破産の場合は確定しないという点です。そもそも、家賃は居住用建物等を使用するための対価であるところ、その性質上、借主の経済状態が悪化したとしても直ぐに建物等を明渡すことにはならず、借主が破産したような場合にこそ、保証人に保証してもらう場面が生じてくるからとされています。

 

(3)債務の履行状況に関する情報提供義務

 

民法458条の2

保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

 

保証人は、必ずしも主債務者の履行状況を知り得る立場にはないので、保証人を保護するために、保証人が負担しなければならない債務について債権者が情報を提供することが求められます。

 

(4)改正附則

 

民法施行附則21条1項は「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。」としています。

 

 ① そうすると、

  ア 2020年4月1日より前に極度額の定めなく締結された連帯保証契約は有効、

  イ 2020年4月1日以降に極度額の定めなく締結された連帯保証契約は無効となります。

 ② 更新後の保証契約については、

  ア 2020年4月1日以降に賃貸借契約が更新された場合

    → 従前、極度額の定めなく締結された連帯保証契約が継続。

  イ 連帯保証人も更新契約書に署名押印した場合

    → 新たな保証契約と認定されると、極度額の定めがない場合は無効となる可能性がある。

③ 一応、このように整理しておきますが、この更新後の保証契約に関しては、議論のありうるところです。

  上記の見解は、神奈川県弁護士会で平成31年3月12日に法務省の担当者より示された見解であり、「①改正法の施行後である2020年4月1日以降に賃貸借契約が合意更新され、②この更新契約書に連帯保証人が署名押印したことにより新たな保証契約が締結されたと評価される場合には、改正民法が適用され、更新契約では連帯保証人の極度額を定めなければならない。」とされています。

  そうしますと、契約書に基づいて自動更新される場合、更新契約をせずに法定更新された場合は、新たな保証契約がないので、従前の保証が生きてきて、極度額の定めがなくても有効ということになります。そして、新たに連帯保証の契約を締結したり、更新契約に保証人が署名・押印するような場合は、新たな保証契約があるということで新報が適用され、極度額の定めがなければ無効ということになります。

  一方で、法務省の立法担当者が執筆した「一問一答民法(債権関係改正)法務商事」という本では、「契約更新について当事者の黙示の合意を根拠とするもの(例えば民法619条1項)と当事者の意思に基づかないもの(例えば借地借家法26条)に分かれ、前者は新法適用、後者は旧法適用となる。」と書かれております。民法619条1項は「賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用または収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借したものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。」という賃貸借の更新を推定した規定です。この書きぶりからすると、合意更新後の賃貸借契約には、新法が適用されるようにも読めます。ただ、保証契約は合意によって更新されていないということで、保証契約は別だとの考え方もあり得るので、そのような考え方が、前述しました法務省の見解かと思います。

  更新時に、保証人の極度額の定めをするのが一番安心でありますが、法務省の見解を前提とすると、上記のとおりとなります。

 

2 保証関連事項を契約書で定める場合の検討

(1)標準契約書における保証関連事項条項は、頭書部分に連帯保証人の住所・氏名・電話番号、極度額の記載欄があり、以下のとおりになっています。

 

(連帯保証人)

第17条 連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。

2 前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。

3 丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。

4 丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。

 

(2)1項については、賃貸借契約が更新された後、保証人が更新後の借主の債務についても責任を負うのかについては議論がありましたが、最高裁平成9年11月13日は、特段の事情がない限り、責任を負うとしています。これを契約書上明記しているものです。

   3項については、確定事由を、民法465条の4の1項3号に定める事由(借主又は保証人の死亡)のみとしています。民法の他の確定事由(保証人の財産に対する強制執行、保証人の破産、同条項1、2号)を排除する趣旨であるかは、解釈の余地があると思います。

 

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不動産関連④賃貸業と改正民法・敷金

2021.05.18

 

 

1 敷金関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

  民法622条の2

 1 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

一 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき。

二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借契約に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

 (1)改正前民法では、敷金の定義や敷金に関する基本的な規定がありませんでした。ただ、敷金に関し形成されていた判例法理や従来の一般的な理解があったので、これを明文化した規定となります。

 (2)敷金の定義(1項括弧書)

 ここで「いかなる名目によるかを問わず」というのは、実質が賃借人の金銭債務を担保する目的であれば、この法律による「敷金」ということになるということで、例えば、関西でよく使われる「保証金」という名目でも内容としては敷金になるという意味です。逆に、「礼金」「権利金」「建設協力金」など、債務の担保として交付されるものではない金銭は、敷金とはなりません。

 (3)敷金返還債務の発生時期(622条の2第1項)

    敷金の発生時期は、賃貸借が終了し「かつ」賃貸物の返還を受けたとき等とされています。これらの返還時期についても、判例法理や従来の一般的な理解を明文化したものですが、①についていうと、賃貸借が終了しても、明渡しが完了するまでは、敷金返還債務が発生しないということ、また、明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にならないということが明らかにされました。

 (4)敷金による優先弁済(当然控除)(622条の2第1項)

    賃貸人は「敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額」を返還する義務を負うとされています。これは、別段「相殺の意思表示を要せず」他の債権者に優先して賃借人に対する債権の弁済を受けることができるということです。

 (5)敷金返還債務の発生前における敷金の効力(622条の2第2項)

   622条の2第2項は、1項により賃借人に敷金返還債務が具体的に発生する前の段階における敷金の効力の規定です。それゆえ、その段階で敷金について、賃貸人が期待できること(賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てること)と賃借人が期待できないこと(賃借人が敷金をその債務の弁済に充てること)を示しています。

 

2 敷金関連事項を契約書で定める場合の検討

(1)標準契約書における敷金関連事項条項は、以下のとおりです。

 

(敷金)

第6条 乙は、本契約から生じる債務の担保として、頭書(3)に記載する敷金を甲に交付するものとする。

2 甲は、乙が本契約から生じる債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって当該債務の弁済に充てることを請求することができない。

3 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を乙に返還しなければならない。ただし、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第15条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引いた額を返還するものとする。

4 前項ただし書の場合には、甲は、敷金から差し引く債務の額の内訳を乙に明示しなければならない。

 

 

 ア 契約条項第6条1項、2項

    この規定は、前述した改正民法の内容に文言を合わせてあります。具体的な敷金の金額については、頭書(3)に記載しておくということになります。

    滞納賃料・原状回復費用以外に「本契約から生じる債務」とは、契約期間中の修繕条項に基づく債務(修繕ブログ参照https://m2-law.com/blog/1644/。標準契約書9条)や借主の債務不履行に基づく損害賠償債務を意味します。

  イ 第6条3項、4項)

   4項は、改正民法と同じく、特段の意思表示なく、当然に賃借人の金銭債務を差し引くということが規定されております。5項は、特に民法の規定があるわけではないのですが、敷金の返還額をめぐるトラブルを防止するために内訳を明示するようにすると規定されています。

(2)敷引特約

   ちなみに、上記下線部と異なり、一定額を控除し残額を返還するという敷引特約を交わしていた場合に、これが消費者契約法10条に違反しないかが問題になります。

この点、最1小判平成23年3月24日民集65巻2号903頁(以下、平成23年判決といいます。)は「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」と一般論を述べました。

ただ、平成23年判決の敷引特約は「契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって、本件敷引金の額が、契約の経過年数や本件建物の場所、専有面積等に照らし、本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また、本件契約における賃料は月額9万6000円であって、本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。」としました。

 

上記判例を参考にすると、賃貸人としては、通常損耗・経年変化について、原状回復義務の範疇で拡張するよりも敷引の範疇で対応する方が幾分容易に思えるところがあります(原状回復ブログ参照、https://m2-law.com/blog/1798/)。その理由は何処にあるのかを詰めて考え、またそれはどこまで許されるのか検討することが、原状回復関連で述べたところと同様、弁護士の力量が試される場面と思われます。

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不動産関連③賃貸業と改正民法・原状回復

2021.05.10

 

 

1 原状回復関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

  民法621条

   賃借人は、賃貸物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃貸物の損耗並びに賃貸物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

(1)賃借人は、期間満了後、賃貸物の返還義務を負い(616条、597条1項)その内容として原状回復義務を負うとされています(598条は、賃借人からみた収去「権」と位置付けます。)。

(2)ただ、その際の通常損耗や経年変化の取り扱いが明確ではありませんでした。判例上は、通常損耗や経年変化について、賃借人は原状回復義務を負わないとされ、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも同様の考え方がとられていました。改正民法では、これらを明文化しました。

 

2 原状回復関連事項を契約書で定める場合の検討

 

(1)標準契約書における原状回復関連事項は、以下のとおりです。

 

(明渡し時の原状回復)

第15条 乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年変化を除き、本物件を原状回復しなければならない。ただし、乙の責めに帰することができない事由により生じたものについては、原状回復を要しない。

2 甲及び乙は、本物件の明渡し時において、契約時に特約を定めた場合は当該特約を含め、別表第5の規定に基づき乙が行う原状回復の内容及び方法について協議するものとする。

 

そして、上記別表には、原則的な「原状回復条件」が定められた上で「例外としての特約」を記載することができるよう空欄が設けられています。

 

 1項は、改正民法の規定に従った原則的な取扱いを示します。ちなみに、別表で貸主の負担されている主なものは、以下のとおりです。一般的に、通常損耗とされているものを水色経年変化とされているものを紫色で示します

① 床

   畳の表替え等(次の入居者確保のためのもの)

   フローリングのワックスがけ

   家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡

   畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥により発生)

② 壁・天井

   テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気やけ)

   壁等の画鋲、ピン等の穴

   エアコン設置による壁のビス穴、跡

   クロスの変色(日照などによるもの)

③ 建具等、ふすま、柱等

    網戸の張替え(次の入居者確保のため)

    網入りガラスの亀裂(構造による自然発生)

④ その他

    専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常清掃を実施)

    エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭い付着なし)

    消毒(台所・トイレ)

    浴槽、風呂釜等の取替え(次の入居者確保のため)の

    鍵の取替え(鍵紛失等のない場合)

    設備機器の故障、使用不能(機械の寿命) 

 

(2)民法621条は任意規定であり、特約による変更は可能ですが、公序良俗や消費者契約法等に違反しないこと必要であることは、修繕等や一部滅失等による賃料減額のところで、述べたとおりです。そして、例えば、標準契約書において「例外としての特約」を交わす場合の注意点は、以下の点です。

 

  ア 明確な合意

最2小判平成17年12月16日判タ1200号127頁(以下、平成17年判決といいます。)は「賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。」とした上で、建物の賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるには「少なくとも、賃借人が補修費用を負担することとなる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(通常損耗補修特約)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」と判断しました。

平成17年判決の事案は「賃借人が住宅を明け渡すときは…負担区分表に基づき修補費用を賃借人の指示により負担しなければならない」という特約があった場合において、入居説明会が開催「すまいのしおり」も配布され、1時間半かけて契約条項の重要部分の説明等がされて、負担区分表の説明がされましたが、このような場合でも、原状回復費用に関する明確な合意がないと判断されました。

なお、平成17年判決の当事者は、賃貸人大阪府供給公社、賃借人一般人でしたが、消費者契約法施行の前の事案であったことに注意する必要があります。

 

 イ 消費者契約法10条

次に、特約が、消費者契約法に違反しないということが必要になります。消費者契約法第10条は、消費者に不利な特約で、その程度が信義誠実原則に反する程度のものについては無効とすると規定しています。例えば、大阪高裁平成16年12月17日判決判時1921号61頁は、住宅の賃借人に通常損耗の原状回復費用を負担させる特約を消費者契約法10条に該当して無効であると判断しています。

参考になるものとしては、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン再改訂版」が示す、特約が有効と認められるための要件です。

 ① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

 ② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

 ③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 

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