2022.03.25
1 はじめに
今回は、所有者不明土地関連法の一つとして制定された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」について解説します(以下「法」と言います。)また、この法に基づく制度を「相続土地国庫帰属制度」といいます。なお、法の施行は、令和5年4月27日からです(「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の施行期日を定める政令」(令和3年12月14日閣議決定))。
2 制度の概要及び制定理由
(1)制度概要
今回創設された相続土地国庫帰属制度は、相続により取得した土地を手放し、国庫に帰属させるための制度です。相続財産等を手放す仕組みとしては、相続放棄(民法939条)も考えられるところです。しかし、今回創設された相続土地国庫帰属制度は、相続放棄と比較すると、その土地のみを手放すことができるという点に特色があります。すなわち、相続放棄をすると初めから相続人とならなかったものとみなされるため、被相続人の財産の全てを取得することができません。しかし、相続土地国庫帰属制度では、取得した財産のうちで当該土地だけを手放すことができるのです。
(2)制定理由
以上のように「土地を手放すための制度」として創設された相続土地国庫帰属制度ですが、なぜこの制度が作られたのでしょうか。
その理由は、主に次の2つです。
ア 土地を手放したいと考える人の増加
まず、1つめとしては、土地を手放したいと考える人が増加していることです。
例えば、既に地元を離れて生活している場合、相続によって地元の土地を取得したとしても今後活用することが見込めなければ、土地所有者としての管理の負担ばかりがかかるということもあります。このような場合には、土地を手放すニーズがあります。
イ 所有者不明土地及び管理不全土地の発生予防
次に、所有者不明土地や管理不全土地の発生予防という理由があげられます。法1条にも、「所有者不明土地の発生の抑制を図ることを目的とする」と明記されているところです。
総論( https://m2-law.com/blog/4048/ )の記事でも述べましたが、所有者不明土地問題の解決のためにアプローチとして、発生予防の視点と利用円滑化の視点が必要です。欲しくもない土地を手放せずに所有し続ける場合について考えると、例えばそのような土地について相続登記をしようとは考えないでしょうし(相続登記がされないことは所有者不明土地の発生原因の一つです。)また、管理も積極的に行いたいとは考えないでしょう。その土地が放置されたまま、さらに相続が繰り返されると、所有者不明土地が発生してしまうことになります。
相続人が土地を手放すことができれば、このような事態を回避することができることになります。
3 要件
では、相続等により取得した土地であればどのような場合でも相続土地国庫帰属制度を使うことができるかといえば、そうではありません。この制度を使うためには、以下の要件を満たす必要があります。
(1)主体に関する要件
まず、「誰が」この国庫帰属制度を利用できるのかという点についてみていきます。
この制度を利用できるのは、原則として、相続又は遺贈により土地所有権の全部又は一部を取得した者です(法2条1項)。
(2)土地に関する要件
次に、「どのような土地」であれば、相続土地国庫帰属制度が使えるのかについてみていきます。
法には、この制度を利用できるための土地の要件として、
①土地上に建物がないこと
②担保権・用益物権が設定されてないこと
③通路など他人による使用が予定されている土地でないこと
④土壌汚染がないこと
⑤境界が不明でなく、所有権の存否、帰属又は範囲の争いがないこ
と
⑥管理・処分に過分の費用・労力を要するような崖地でないこと
⑦通常の管理・処分を阻害するような工作物、車両又は樹木等がな
いこと
⑧通常の管理・処分を阻害するような埋設物がないこと
⑨隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常
の管理又は処分をすることができない土地として政令で定める
もの
⑩その他管理・処分に過分の費用・労力を要しないこと
の10個の要件が定められています(法2条3項、5条1項)。
したがって、相続土地国庫帰属制度を使うためには、当該土地が、上記10個の要件を満たしている必要があります。
4 手続き
それでは、実際には、どのような手続きにより相続土地国庫帰属制度を利用できるのでしょうか。
この制度により土地を手放すための手続きの流れは、①承認申請(法3条)→②法務大臣(法務局)による審査(法5条)→③負担金の納付となっています(法10条)。
負担金というものが出てきました。実は、相続土地国庫帰属制度を利用して土地を手放すのは無料ではないのです。負担金の額は、10年分の土地管理費相当額とされています。負担金の具体的な額や計算方法については、今後政令で定められることとなりますが、目安として、現在の国有地の管理費用が参考になります。
国有地の標準的な管理費用10年分の額は、粗放的な管理で足りる原野で約20万円、市街地の宅地 (200㎡) で約80万円となっています。
したがって、上記負担金の額を考えるにあたっても、この額が一応の目安になると思われます。
また、上記①の承認申請時に、審査手数料も必要となります。
5 まとめ
今回は、新しく制定された相続土地国庫帰属制度につき解説しました。相続土地国庫帰属には、管理に手間のかかる土地を手放し、管理等の負担から解放されるというメリットがあります。しかし、予納金等の費用もかかるなど、全くデメリットがないとはいえないところです。
国相続土地国庫帰属制度は新しい制度で、要件等についてまだまだ様々な議論があるところです。そのため、今後の利用状況が注目されています。実際にこの制度を利用するかどうかを考えるにあたっては、今後の運用状況も参考にしつつ、メリット・デメリット等を考慮して検討する必要があります。
以上
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