2022.03.08
第1 はじめに
所有者不明土地が共有地であることは少なくないですが、共有制度に起因して問題が生じている場面が指摘されていたため、共有物の管理・変更規定を見直し、共有物の管理者に関する規定の整備、共有状態の解消を促進する制度が設けられました。以下、それぞれについて、解説します。
第2 共有物の変更・管理規定の見直し
1 民法は、共有物に対する変更・管理・保存といった行為に応じて、単独で出来るのか一定程度の共有者の同意(価格の過半数・全員)が必要なのかを定めています(共有物全体の処分には全員の同意が必要と解釈されています。)。ただ、必ずしもその概念・内容・範囲が明確ではなく、実務上慎重を来す意味で、共有者全員の同意を必要と解した結果、共有者の一部の反対あるいは所在不明によって当該行為を断念せざるをえないという事態が発生していました。それと関連し、以下のような規定の見直しがされました。
2 共有物の変更・管理規定の整理
(1)旧民法と比較しながら新民法を整理すると以下のとおりになります。
旧民法 新民法
変更 全員の同意 251条 全員の同意(軽微変更を除く)251条1項
管理 過半数の同意 252条本文 過半数の同意(軽微変更・管理) 251条1項、252条1項
保存 他の共有者の同意不要 252条但書 他の共有者の同意不要 252条5項
(2)軽微変更
軽微変更とは「形状・効用の著しい変更を伴わないもの」とされています(新民法251条1項)。重要なのは「費用の多寡」が基準とされていない点で、費用が多額になりやすいもの(例えば、砂利道のアスファルト舗装、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事)も「軽微変更」として、過半数の同意で可能な場合があるとされていることです(とはいえ、軽微変更か否かは事後的客観的に裁判所が判断する解釈問題なので、慎重な対応が必要です。)。
(3)管理
従前から、共有物の賃貸については議論がありましたが、新民法252条4項では、短期賃貸借は「管理」行為とされました(例えば、山林等以外の土地賃貸借等は5年、建物の賃貸借等は3年。ただ、借地借家法が適用される場合は別といわれています。)。
(4)所在等不明共有者について
新民法251条2項は、共有物の「変更」について「共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。」としています。
また、新民法252条2項は、共有物の「管理」について「裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。」としています。
第3 共有物の管理に関する規定の整備
1 共有物を使用する一部共有者に対する明け渡し
(1)従前、無断で、共有物を使用する一部共有者に対する明け渡しであったとしても、他の共有者全員の同意を得てしなければならないとする見解が有力でした。しかし、例えば、共有物の賃貸借がされている場合であったとしても、管理行為の一環であれば、過半数の同意で可能な筈です。
(2)そこで、新民法251条1項は、第1文で「共有物の管理に関する事項…は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」とした上、第2文で「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。」としました。
このように改正された結果、原則として、共有者の過半数の同意で一部共有者に対する明け渡しをすることができると解釈されています。ただ、一部共有者の利益にも配慮し、新民法251条3項は「前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」としました。特別の影響を及ぼす場合とは、例えば、一部共有者が共有物を利用できる定めがあるときに、使用者を変更したり、使用条件(期間)を変更したり、使用目的(店舗営業・住居専用)を変更したりする場合とされています(部会資料40・3頁)。
2 共有物の管理者
(1)共有物の管理者の選任についても、過半数で決することができるのか議論があったことから、新民法251条1項括弧書は、これが可能であることを明示し「共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み…)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」としました。
(2)共有物の管理者に関する規定は、以下のとおりです。
第二百五十二条の二
1 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
ア 管理者は、決定された管理事項に従ってその職務を行わなければなりませんが(新民法252条の2-3項)、特段の定めをしていない場合には、共有者の意見を聞くなどしながら、自己の判断で、共有物を適宜管理することになります。
イ 4項では、3項違反の行為は、「共有者に対してその効力を生じない」ことと、「これをもって善意の第三者に対抗することができない」ことが定められており、第三者保護の要件としては善意のみで足りることとなっています。
第4 共有状態の解消を促進する制度
1 裁判による共有物分割
(1)裁判による共有物分割に関する新民法258条の規定は、以下のとおりです。
第二百五十八条
1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(2)ポイントは、以下の点です。
ア 1項では、分割請求できる場合について、「共有者間に協議が調わないとき」のほかに「協議をすることができないとき」が加えられました(従前も、前者に後者が含まれると解されていました。)。
イ 2項2号では、これまで判例が認めてきた価格賠償が新たに明文化されました(最大判昭和62年4月22日参照)。現物分割と価格賠償分割が並列に挙げられており、これらには優劣関係はなく事案に応じて裁判所が適切な方法を選択できます。
ただ、全面的価格賠償が認められるための要件の明文化は見送られましたので、今後も判例(最1小判平成8年10月31日)を参考にする必要があります。ちなみに、上記最高裁判例では「当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される」とされています。
ウ 3項では、競売による代金分割が現物分割・価格賠償分割に劣後するとされています。
エ 4項では、給付命令の内容が明文化されましたが「裁判所は…できる」とされているだけなので、引き換え給付を必要と考えるのであれば、裁判所の職権を促す等の対応が必要な場合があります。
2 所在等不明共有者の持分の取得・譲渡
(1)持分取得の裁判
ア 共有者が他の共有者から持分を取得しようとしても、共有者の一部が特定できない場合には裁判による共有物分割を用いることができません。また、裁判による共有物分割が可能な場合も、裁判では一定の時間がかかることや具体的な分割方法が裁判所の裁量的判断事項でその結果を予測しにくいという問題がります。
そこで、所在等不明共有者の持分を取得しようとする場合、裁判所にその請求ができるようになりました(新民法262条の2)。
イ 新民法262条の2の規定は、以下のとおりです。
第二百六十二条の二
1 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第258条第1項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ 、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。
4 第1項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2)持分譲渡権限付与の裁判
不動産の共有持分のみを売却して得る代金よりも、不動産全体を売却して持分に応じて受け取る代金の方が高額になりやすいことから、所在等不明共有者がいる場合にその持分についての譲渡権限を他の共有者が持てることは重要です。
また、不動産全体を売却する前提として共有物分割や上記持分取得制度を用いる方法では迂遠で手間や費用を要するという問題もありました。
新民法では、これらの問題を解消するため、上記(1)の持分取得の裁判に類似する形で、持分の譲渡権限付与の裁判手続についての規定が設けられました(新民法262条の3)。
以上
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