不動産

接道義務

2021.08.02

1 はじめに

 今回から暫く、不動産関連ブログの連載です。下手へた画像で申し訳ありません(笑)。ただ、ないよりあった方がマシかと思い、恥を忍んで書いて載せました。絵心があれば、フリーハンドでも、もう少しアジがでるのですが、、、

 さて、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図る法律として、建築基準法(以下、単に「法」といいます。)があります。法では、上記目的から建築物に関し様々な義務が定められており、これから説明する接道義務もそのひとつです。

 

2 接道義務(法43条)

 法43条1項は「建築物の敷地は、道路(省略。)に二メートル以上接しなければならない」と定めており、敷地までの幅員(ふくいん)が連続して2m以上であることが必要と解されています。

 建築基準法施行(昭和25年)以前に存在し若しくは工事中であった建築物の敷地に上記規定は適用されません(法3条2項、既存不適格)。他方、例えば、工事の着手が法の施行後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物の敷地については接道義務の規定が適用されます(同3項3号)ので、接道義務に反する工事を行うことができません。ちなみに、大規模の修繕や模様替とは、建築物の「主要構造部」(法2条5号)の一種以上について過半に行う場合です(同14・15号)。

 

3 建築基準法上の「道路」(法42条)

 それでは「道路」とはどのようなものかというと、それは法42条に規定されていて、1項では「道路」としては幅員4メートル以上が必要な場合を、2項は幅員4メートル未満の道でも「道路」とみなされる場合を規定しています。

 

4 位置指定道路(法42条1項5号)

 法42条1項の「道路」とは、同1号の定める道路(高速道路、国道、都道府県道、市町村道といった公道)や同3号の定める道(公道、私道を含む)等があります。

 また、位置指定道路といって「土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法によらないで築造(上記3号参照)する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの」もあります。例えば、広い土地を分譲して複数の建築物を建てようとした場合、道路に接していない建築物の敷地が発生することがあり、その場合に広い土地の一部に位置指定道路を設置することで分譲後の建築物の敷地が接道義務を果たすことができるようにするものです。

 位置指定道路の所有関係は、面する敷地の所有者らが共有したり分筆所有したりしている場合や、元の地主個人や土地を分譲した業者が所有している場合等様々です。そして、位置指定道路とされた土地の所有者は、位置指定の適法な廃止・変更がされない限り、位置指定道路内に建築物や擁壁を建築できない等の制限を受けます(法44条、45条)。

 

5 みなし道路(2項道路)

 建築基準法の施行時などに既に存在していた幅員4m未満の道は、前述のとおり原則として接道義務における道路にあたりません。しかし、道の幅員のみを理由に過度な建築制限を受けないよう建築の自由に配慮して、一定の場合には道路とみなす規定もあります。

 接道義務の規定ができた昭和25年に現に建築物が立ち並んでいる道で、特定行政庁が指定したものを、法が定める「道路」とみなすのが法42条2項です。このような道は2項道路と呼ばれています。

 2項道路に指定されると、当該道が「道路」とみなされ、道の中心線から水平距離2m後退した線が道路境界線とみなされます。その結果、その境界線よりも道路側には建築物を建てることができなくなります(法44条1項柱書)。これをセットバック義務といいます。なお、2項道路に指定されていなければ、単なる既存不適格物件に過ぎないですから、たとえセットバックをしたとしても、建築物の増築、改築、大規模修繕等は許されません(法3条2項、3項3号)。

 

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事業譲渡⑥破産手続

2021.07.28

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1 破産手続による事業再生 

 破産手続は、清算型手続であり、本来、事業再生を予定していません。ただ、債務者の事業自体が採算の取れる優良なものであれば、債務者・負債から切り離して譲渡換価することで、破産債権者を満足させる一方、事業そのものの再生存続も図れます。一見矛盾するようですが、これが破産手続による事業再生というものです。破産手続における事業譲渡を理解するには、事業譲渡の「時期」を意識する必要があります。

 

2 破産手続申立前の事業譲渡

 これは、事業譲渡が破産手続申立前にされ、破産手続開始決定後、債務者の管理処分権が破産管財人に引き継がれるケースです。その後、管理処分権を引き継いだ破産管財人が、破産手続申立前の事業譲渡が適正かどうかについて判断します。この場合のメリットとデメリットは、以下のとおりです。

(1)メリット(事業価値毀損が避けられる)

 破産手続申立前に事業譲渡を行う場合の大きなメリットは、事業価値を保ったままでの事業譲渡がより行いやすいという点です。

① 先ず「破産」という事実は、債務者の顧客にとっても、従業員にとってもイメージが悪く、破産手続申立により、事業価値が急速に劣化する可能性があります。

② 次に、破産手続開始決定によって、一旦、その事業は停止するのが原則と考えられていることから、事業停止による事業価値毀損のリスクもあります。

③ そして、破産手続開始決定後の事業譲渡は、破産管財人により行なわれます。ところが、破産管財人は、通常弁護士が選任されるところ、必ずしも経営の専門家ではないことから、事業を継続し譲渡するという局面で適切な判断を下せない可能性があり、結果として事業価値の最大化という目的を果たせないことが考えられます。

④ なお、破産手続申立前の事業譲渡については、裁判所の許可等(破産法78条2項3号)が不要で迅速に行えることから、より事業価値毀損を避けることが可能です。

(2)デメリット(否認権行使のリスク)

   破産手続申立前に事業譲渡を行う場合の大きなデメリットは、破産管財人により否認権を行使されるリスクです。

  ① 先ず、事業譲渡後に破産手続申立がされ、破産手続開始決定が出た場合、裁判所から選任された破産管財人としては、事業譲渡の内容が価額の面も含め、適正であったか検討します。そして、破産管財人が、事業譲渡について、債権者を害する行為と判断した場合には否認権が行使されます。例えば、東京地決平成22年11月30日金商1368号54頁では、破産手続開始決定前に行われた事業譲渡が破産管財人によって否認され、その結果、事業を譲り受けた会社が、約20億円という巨額の支払いを命じられています。

  ② また、破産手続申立前の事業譲渡では、債権者の意見聴取手続等もされず、債権者の視点から事業譲渡が適正に行われたかについて疑問を持たれる可能性があります。そのため、債権者の不満が事業譲渡先会社にいくこともありえます。

 

3 破産手続申立後・破産手続開始決定前の(保全管理人による)事業譲渡

 破産手続申立後の事業譲渡は、破産手続開始決定前は保全管理人により、破産手続開始決定後は破産管財人により、行われます。

(1)保全管理の必要性

  破産手続は、破産手続開始決定により始まりますが、破産手続開始の原因となる事実があるか審理されることから、申立後直ちに開始決定がされるとは限りません(特に、債権者申立事案では添付書類を十分に備えることが難しい場合もあり、開始決定は遅れがちです、破産法20条2項参照)。

  しかし、裁判所の審理中に、債務者が財産の隠匿を図り、または、財産を散逸させてしまっては、後に破産管財人が選任されても、債務者に本来存在するべき財産を確保できないという事態が発生しかねません。

 また、破産手続開始決定により債務者の免許が取り消されるなどして事業の継続が困難になる場合がありますが、それを避けようとすれば、債務者の事業を継続しながら債務者の財産を確保し、財団を増殖する必要性があります。

(2)保全管理命令

  そこで、破産法91条1項は、破産手続開始の申立があった場合において、債務者が法人の場合、裁判所は、債務者の財産の管理及び処分が失当であるとき、その他債務者の財産の確保のために特に必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、債務者の財産に関し、保全管理人による管理を命ずる処分をすることができる旨を定めています。

(3)保全管理人による事業譲渡の要件

  破産法93条1項に基づき、債務者が営業を継続している場合には、保全管理人は財産管理の一環として営業を継続することもできます。なお、保全管理人の判断と裁判所の許可だけで、事業譲渡(破産法78条2項3号)をし得るかについては争いがあります。

  立法担当者の見解は、例えば債務者が株式会社である場合、株主総会の決議も必要というものです(小川ほか・新破産実務と理論33頁、会社法467条1項、309条2項11号)。理由としては、保全管理命令が発せられたといっても、債務者について破産手続が開始されている訳ではないという点にありますが、その当否については争いもあり、例えば、東京地裁の運用では、株主総会決議は不要とされているようです。

 

4 破産手続開始決定後の(破産管財人による)事業譲渡

(1)事業継続要件

 破産手続開始決定後の事業譲渡は破産管財人が行いますが、破産手続開始決定により、原則として債務者の事業は廃止されることから、事業譲渡を実現するためには破産管財人による事業継続の必要性が生じます。そこで、破産法36条は、破産管財人が裁判所の許可を得て、破産者の事業を継続することができる旨を定めています。

  事業継続の必要性を判断する要素としては、抽象的には、破産財団の増殖、維持等の観点から事業継続が必要ないし有益か、事業継続に伴う支出が可能か、事業継続する体制が確保できるか、事業継続する期間が明確になっているか等とされています。具体的には、以下のような場合、破産管財人による事業継続が認められています。

① 破産財団の増殖が見込まれる場合(仕掛品等の半製品が多く、事業の継続によってその製品化を行えば、当該製品を有利に換価できる)

② 破産財団価値の維持を図る又は破産財団に生じる損害を防止する場合(事業を継続しなければ多額の損害賠償や違約金の支払義務が発生する)

③ 直ちに事業を廃止することが社会的に相当でない場合(入院患者の多数いる病院、予約が多数ある旅行業者やホテル業者、多数の生徒が在学中の学校)。

 ④ その他、管財人が事業譲渡をしようとする場合

(2)事業譲渡要件

   続いて、破産法が定める事業譲渡の要件は以下のとおりです。

  ① 破産管財人が事業譲渡をするには、裁判所の許可を得なければなりません(破産法78条2項3号)。許可申請に際しては、譲渡の対象となる事業等の特定、譲渡の相手方、譲渡の条件、譲渡の必要性等を明記し、裁判所は、下記②、③の関係者の意見を聴取したうえ、諸般の事情を総合的に判断して許可するかどうかを決定します。

 ② 破産管財人は、事業譲渡をしようとするときは、遅滞を生ずるおそれのある場合を除き、破産者(破産者が法人の場合はその元代表者)の意見を聞かなければなりません(破産法78条6項)。これは、破産者は、破産手続開始後も、破産財団に属する財産の所有者であり続けること、また破産債権に対する配当額が多くなることに利害関係と関心を有していること、破産財団の実情をもっともよく知る立場にもあることという理由からです。

 ③ 裁判所は、事業譲渡の許可をする場合には、労働組合等の意見を聞かなければなりません(破産法78条4項)。なお、ここでいう労働組合等とは、破産者の使用人その他の従業員の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、ないときは破産者の使用人その他の従業員の過半数を代表する者をいいます(破産法32条3項4号)。

 ④ 破産者が株式会社である場合、本来であれば、事業譲渡は株主総会の特別決議事項です(会社法467条1項、309条2項11号)が、破産手続開始によって、破産者の財産の管理処分権は破産管財人に専属しているので(破産法78条1項)、事業譲渡につき株主総会決議等は不要であり、破産管財人は会社法上の手続を経ずに事業譲渡ができます。

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事業譲渡⑤民事再生

2021.07.14

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1 民事再生における事業譲渡の意義

債務者の事業について、民事再生手続では、破産手続と異なり、申立後あるいは再生手続開始後も管財人が選任されず、債務者の管理処分権が認められています(DIP型 民再法38条1項)。したがって、民事再生手続は、債務者自身が引き続き事業を継続しながら、主体的に再建を図る手続といえます。

しかし、債務者の一部の事業(ノンコア事業等)を売却すれば残りの事業を維持・存続することが可能な場合等、債務者自身の再建のため民事再生手続にて事業譲渡を行うことが有益な場合があります。更に、今後の運営を債務者自身に任せたままだと事業が劣化したりする場合は、事業全部を譲渡することで事業そのものの再生を図ることができます。民事再生法が会社としての存続・再建というより「事業の再生」を目的としているため(民再法1条)、事業譲渡により事業自体が生き残れるのであれば、その後、例えば債務者たる会社が清算に至っても民事再生法の目的には反しません。この場合、事業譲渡代金を主な財源として債権者に早期に一括乃至は短期間での分割弁済を実行することで、破産手続移行のリスクを回避することができます。このとおり、民事再生手続における事業譲渡は、債務者自身の再生のみならず、事業そのものの再生を図る有効なスキームとして実務上広く利用されています。

 

2 民事再生手続における事業譲渡の特徴

(1)事業譲渡の許可制度

   民事再生法上、事業譲渡は、再生債務者のみならず、債権者その他の利害関係人にも重大な影響を及ぼすため、民事再生法42条により、「事業の全部又は重要な一部の譲渡」をする場合、裁判所による事前の許可が求められています。もっとも、逆にかかる許可を得れば、再生計画によらずに、事業譲渡を実施することが可能であり、債権者の承認手続を経る必要がないことから、早期の事業譲渡が可能となります。

(2)株主総会承認決議の代替許可制度

   民事再生手続では、再生債務者が株式会社である場合において、株主が手続に参加することを予定していないため、事業譲渡は、原則として、会社法467条1項1号、2号に定める株主総会の特別決議によって、その承認を受ける必要があります。もっとも、事業価値の棄損を防ぐために、早期に事業の譲渡を行う必要がある場合もあることから、債務超過の株式会社の場合には、株主総会の承認を省略して、早期に事業譲渡を行うことができます(民再法43条1項、代替許可)。

(3)計画外事業譲渡と再生計画による事業譲渡

   上述した手続によれば、再生計画によらず、計画外で事業譲渡を行うことも可能であり、この場合、再生計画の作成・成立をまたずに、開始決定後、直ちに事業譲渡をすることが可能です(計画外事業譲渡)。他方、民再法上、明文の規定はないものの、再生手続の目的である事業の再生は、本来的には、再生計画の決議、認可決定により実施されるべきであると考えられていることから、再生計画によって事業譲渡を行うことも可能とされています(計画内事業譲渡)。

   再生計画による、或いは、再生計画外の事業譲渡については、以下3で詳細します。

(4)担保権消滅許可制度の利用による事業用資産の譲渡

  事業用資産に担保権が付着していた場合でも、それが、債務者の事業の継続に欠くことができない資産であれば、債務者は、裁判所に対し、当該資産の価格に相当する金銭を納付して、当該資産に存在するすべての担保権を消滅させることの許可申立をすることができます(担保権消滅許可制度 民再法148条)。かかる制度の存在により、担保権の付着した事業資産でもこれを解除して事業と共に譲渡することができます。

 

3  再生計画内事業譲渡

(1)民事再生手続上、事業譲渡を定めた再生計画を作成し、裁判所に提出したうえで、債権者による法定の決議を経て、事業譲渡を行うことができます。この場合、再生計画案についての決議や裁判所の認可という通常の手続に加えて、譲渡について、裁判所の許可等(民再法42条)を必要とするかについては見解が分かれています。再生計画案は、裁判所の付議決定を経た上で債権者に諮られその同意を得て裁判所がこれを認可します(民再法169条、172条の3、174条)。また、労働組合等も再生計画案等に意見を述べることができます(民再法168条、174条3項)。つまり、民事再生法42条で必要とされる関係者全ての関与が認められていることからすれば、これに加えて、同条の許可を得る必要はないと解する見解も有力です。実際に、東京地裁では、この見解に従った運用がされているようです。

   ただ、このような場合とはいえ債務者が株式会社の場合、株主総会の特別決議(会社法467条1項2号)かこれに代わる裁判所の代替許可(民再法43条1項)を得る必要があります。また、このような事業譲渡の契約は、再生計画案の認可を条件として事前に行われることが多いですが、事業譲渡が監督委員の同意事項として指定(民再法54条2)されている場合にはその同意も必要になります。

(2)再生計画にて事業譲渡を行う場合としては、時の経過による資産の劣化が軽微な事案において、債権者等の利害関係人の保護を考慮に入れたような場合です。また、債権者が主導する形で、事業譲渡を行う場合には、債権者が作成した再生計画案(民再法163条2項)の中に事業譲渡を定め、再生計画の認可を得て、譲渡を行うこと等も考えられます。 

 

2 再生計画外の事業譲渡

(1)また、民再法42条に定める裁判所の許可を得て、再生計画外にて、事業の全部または重要な一部の譲渡をすることができます。この場合、再生計画での事業譲渡と比べ、債権者の承認を得る必要がないため、事業劣化を防ぐスキームとして有益で早期に事業を譲渡することが可能です。

(2)もっとも、事業譲渡については債権者が強い利害関係を有していることは計画外譲渡においても異ならないため、裁判所が民再法42条1項に定める許可をする場合には、知れている債権者の意見を聞かなければなりません(同条2項)。裁判所は、民再法42条1項に定める許可をするかどうかにつき、短期間で適切に判断するため、事業譲渡に最も利害を有する債権者の意見を重視しており、例えば、債権者の多くが事業譲渡に反対している場合においては、原則として許可が出されないと考えられます。したがって、多くの債権者の反対が予想される場合には、事業譲渡の許可を求める前に、債権者に事業譲渡の必要性・妥当性などについて適切に説明する必要があります。なお、意見聴取の方法は、裁判所の裁量に委ねられており、裁判所は適宜の方法で意見を聞けば足ります。ただ、その運用は比較的厳格で、例えば、東京地裁では、債権者の規模にもよるものの、事業譲渡許可申立があった場合には、その2週間程度後に意見聴取期日を開催し、原則として全再生債権者の意見を直接聴くという運用がされています。なお、裁判所により承認された債権者委員会がある場合には、当該委員会の意見を聴けば足り、各債権者から個別に意見を聴く必要はありません。

(3)民再法42条1項の裁判所の許可に基づき事業譲渡を行う場合、監督委員が許可手続において、裁判所からの求めに応じて調査報告書(意見書)を提出するという運用がとられています。監督委員が調査報告書(意見書)において許可の要件を満たすかどうかについて意見を述べるため、許可申請の際には、許可要件を充足することについて監督委員を十分に説得できるだけの材料を揃え、手続を行うことが必要となります。

(4)なお、債務者が株式会社の場合には、株主総会の特別決議(会社法467条1項2号)か、代替許可(民再法43条1項)を得る必要があることについては、計画内譲渡の場合と同様です。 

 

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事業譲渡④第二会社方式

2021.06.28

1 意義

(1)第二会社方式とは、会社の事業のうち再生見込みのある事業について、事業譲渡等の手法を利用して別会社(第二会社)に承継させるスキームです。事業の一部を移転させれば、旧会社は不採算部門のみ残ることになり、事業の全部を移転させれば、旧会社は空っぽになります。旧会社の債権者からすれば、旧会社が破産、特別清算等の手続で消滅することが望ましいのでしょうが、現実には、そのまま旧会社が放置されたままという場合も珍しくありません。

(2)事業再生を考えるには収支の改善が必須ですが、幾ら改善しても合理的な期間に負債を完済できないのであれば、払えない部分の債権をどのようにするかが問題になります。

   これが私的整理であれば、債権放棄を求めることになりますが、政府系金融機関や地域金融機関では十分な対応が出来ないことがあります。その際、第二会社方式を採り、併せて旧会社を破産等させれば、間接的な形であるが事実上、債権者に債権放棄してもらうのと同じ効果をもたらします。

   また、これが再建型倒産手続であれば、払えない部分は法的に債権カットできますが、例えば、民事再生手続の場合、①公租公課や労働債権はカットの対象にならないばかりか、再生手続開始決定後も引き続き支払っていかなければなりません。免除益課税の問題もあり、それらが事業再生の足枷になることもあります。②再生債権であれば法的カットが出来るといっても、そのためには、再生債権者の頭数過半数及び債権額2分の1以上の同意が必要であり(民再法172条の3-1項)、そもそもそのための予納金等も馬鹿になりません(負債額が1億円以上5億円未満であったとしても、東京地裁の場合、その額は400万円とされています。)。前者①の問題を回避すべく、再建型倒産手続の中で第二会社方式が採られることもありますし、後者②の問題を回避する方法として第二会社方式が採られることもあり、これが破産手続と併せて行われるのであれば、簡易な法的整理としての意義を有します。

 

2 長所

(1)免除益課税を回避できる可能性が高い

   事業再生後も払えない債務(債権者からみれば債権)については、その放棄乃至は法的カットが必要になり、その反面として免除益課税が問題になりますが、第二会社方式をとる場合、それらは旧会社の処理としてなされるので、その問題を限りなく回避できます。

   併せて、旧会社について破産・民事再生その他の法的整理手続が採られるのであれば、債権者にとっても無税償却が容易に可能となり、その協力が得易いというメリットが加わります。

(2)スポンサーの支援が受け易い

   第二会社方式では、新たな会社を利用するので、簿外債務や過去の法令違反の問題を回避することができ、その結果スポンサーによる資金援助が受けやすくなるという長所があります。新たな会社を利用するということは、旧会社と事業を継続する第二会社とを明確に区別するということなので、それが私的整理の中で行われるのであれば、債権放棄に比べて金融機関の支援を受け易いというメリットも加わります。旧会社の整理を伴うのであれば、スポンサーから提供を受けた事業譲渡等の対価を債権者が一括で取得できるという点もメリットといえます。

 

3 注意点

(1)問題の所在

  ① 第二会社方式が、私的整理の一環として行われるのであれば、旧会社を破産・特別清算により消滅させるという点も含め、全金融機関等の同意の下で行われるので問題はありません。債務者は第二会社において事業再生を果たせます、金融機関は事業譲渡・会社分割による対価によって不良債権処理を果たせます、その対価は事業価値の毀損を避けるべく秘密裏に行われた結果として最大価値を有するものです、事業に関する取引先は何ら影響を受けずそのまま継続した取引を営めます、正に「三方良し」といえます。

    また、第二会社方式が、債務者主導下で行われたとしても、これが再建型倒産手続の中で行われるのであれば、債権者集会等債権者が関与する機会があり、ある程度の保障はあります。また、旧会社が破産手続を経る場合は、管財人と裁判所の目が光るので、ギリギリ大丈夫かもしれません。

② 問題なのは、債務者主導の下、第二会社方式による事業再生が行われたものの、旧会社がそのままの状態になっている場合です。事業譲渡等により資産移転はされているので、正当な対価が旧会社に入っていればいいのですが、そのようなものもないまま、放ったらかしにされている場合は意外と多いように思います。このような場合の債権者としては踏んだり蹴ったりでしょう。ただ、大人しい債権者ばかりではありません。旧会社が破産しないまま債権が残っているのであれば、中には様々な行動をする債権者もいます。

(2)商号続用責任

   このような場合、債権者としては様々な対応が考えられますが、ここでは商号続用責任について、簡潔に述べます(その他、取締役の第三者責任の追及-会社法429条、法人格否認の法理、債権者破産により管財人に否認権行使を促すといった方法も考えられます。)。

   事業譲渡により事業再生を図る場合、旧会社から顧客その他を譲り受けることが多いです。では顧客はどこについているかといえば、それは様々で、契約関係のみならず、人そのものや、場所、商品、看板、中には電話番号やメールアドレスであったりもします。従って、これらの承継も併せてされることも多いです。

   この点、新会社が旧会社の商号を続用している場合は、債務弁済責任を負うという規定があります(会社法22条1項)。ただ、その類推適用という解釈手法は進んでいて、例えば、新設分割によりゴルフ場の経営が旧会社から新会社に移転したものの、同じクラブ名称を用いていた場合に、同条項を類推して新会社に旧会社の預託金債権者に対する責任を認めたものがあります(最3小判平成20年6月10日集民228号195頁)。

 

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事業譲渡③事業再生・私的整理での有用性/会社分割との比較

2021.06.23

 

 

1 はじめに

 会社全体としては、著しい債務超過であっても、採算性の高い事業部門があれば、当該事業を出来る限り活用することが望ましいです。事業譲渡では、不採算部門の事業を処分し採算性のある事業を残すことができるため、事業再生にとって有用です。特に、これを私的整理の中で行うなら、風評被害等による事業価値毀損のリスクを可能な限り減らすことができ、コロナ禍での事業再生スキームとして、注目されているところです(コロナ不況の特徴については、https://saimu-law.jp/column/info2297/ を参照)

 

2 事業再生での事業譲渡の有用性/会社分割との比較

  事業譲渡と会社分割の違いは様々ですが、以下の点が重要と思います。

(1)期間の見通し

   事業譲渡は、当該事業を譲渡する旨の契約ですから、互いに合意了解さえすれば、直ちに実現できます(但し、事業の全部譲渡等であれば、株主総会等の手続が必要)。ただ、以下の注意が必要です。

① 譲渡スキームとして、売買等でなく現物出資・事後設立を選択する場合には、検査役の選任・調査といった手続が必要とされますが、その手続が何時終了するかは、検査役次第のところがあり、確実な予測が立ちません。

② 後述しますが、資産・負債・契約関係・従業員の移転は、個々に対応せざるを得ませんので、その点手間取れば時間を要します。

会社分割の場合、そのための手続期間は法定されていますので、期間の見通しは確実といえます。ただ、必ずその期間は必要なので省略できません。その意味で、一般的には、事業譲渡の方が、迅速性を有するとされています。

(2)資金の準備

   事業譲渡の場合、上記(1)①で述べたとおり、現物出資等による譲渡スキームには問題があるので、譲渡対価は金銭であることが多いでしょう。その意味で、資金が必要となります。他方、会社分割により事業再生を行う場合、分割対価は、新設会社乃至は吸収会社の株式であることが多いので、その意味で、資金を準備する必要はありません。

(3)資産・負債・契約関係の移転方法

  ① 事業譲渡の場合、個々の資産・負債等について移転手続を取る必要があります。この点、会社分割における資産・負債等の移転は、一般承継です。分割計画等に記載した資産や負債が分割効力発生日に新設会社に移転することになるため、特に債務の免責的移転(免責的債務引受)について債権者の個別同意を得る必要がない点はメリットといえます。ただし、債権者保護手続が必要な場合があります。

  ② 逆にいえば、会社分割の場合、特定の事業に関する債務が一般承継されるため簿外債務の承継を回避できない点がデメリットになります。この点、事業譲渡であれば譲渡契約で債務の範囲を特定することができるので、簿外債務・偶発債務の承継を回避できるのは利点です。

  ③ 事業譲渡の場合、改めて事業譲渡後に、譲受会社が許認可を取得し直さなければなりません。他方、会社分割では、分割会社が有する許認可が新設会社に承継されることが多いことはメリットといえます。

(4)従業員の移転

  事業譲渡の場合、従業員の移転(労働契約の承継)については、譲渡会社、譲受会社及び労働者の三者の同意が必要であるため、このうちいずれかの当事者が同意しなければ、労働契約は譲渡会社に残存することになります。他方、会社分割では、労働契約承継法により、承継事業に主として従事していた労働者の労働契約は原則として新設会社に移転することになります。

 

3 私的整理での事業譲渡の有用性/会社分割との比較

(1)私的整理とは、金融機関等のみを対象に、その全員の同意を要件として、リスケ・債務カット等をすることです(私的整理の概要は、https://m2-law.com/blog/1216/ を参照)。私的整理は、秘密裏に行われるため(密行性)、事業価値が棄損される程度は低いです。他方、法的整理と比較して、債務遮断効が弱く、商取引債務・簿外債務はカットの対象外です。また、債務のカットには全金融債権者の同意が必要であることから、金融債務のカット自体も低額しかできないことも多いです。このような点について、事業譲渡がどのように役立つかという視点から、会社分割と比較して、検討してみましょう。

(2)事業譲渡・会社分割のメリット

  ① 事業譲渡は、個々の取引行為として、簿外債務リスクを大幅に軽減できます。この点が一般承継である会社分割との違いです(上記2(3)②)。一般的に債務カットの範囲と程度が少ない私的整理において、この点は一つのメリットといえます。

  ② 事業譲渡を行う場合は、資産・負債等の移転は、個々の手続が必要で一見煩雑ですが、実務上早急に対応すれば短時間で処理できる場合が多いと思われます。一方、会社分割の場合、会社法上の手続が必要で、ある程度の時間を要する点で大きな違いがあります(上記2(1)②)。私的整理の密行性をどのように理解するかによりますが、事業譲渡が短時間で実現可能という点からすれば、密行性に資するといえるでしょう。

  ③ 会社分割は、一般承継なので、資産・負債・契約関係・従業員の移転は、相手方と交渉することなく簡略に実施できます(上記2(3)①)。多数の交渉が不要という意味で、私的整理の密行性には資するといえるでしょう。

 

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事業譲渡②意義・法的性質・手続

2021.06.16

1 意義

(1)判例の立場

   会社法・商法上、事業譲渡に関する定義規定がなく、解釈に委ねられています。

この点、会社法制定前の「営業譲渡」に関するものですが、最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁は「①一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、②これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に〔平成17年改正前商法〕25条〔現行商法16条、会社法21条に相当〕に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいう」としています。

そして、この解釈は「営業譲渡」が「事業譲渡」に改められた会社法の下でも生きていると考えられていて、①有機的一体性のある財産、②譲受人による事業の承継、③譲渡人の競業避止義務の3要件を満たす場合が、株主総会決議の必要な事業譲渡にあたると考えられています。

(2)競業避止義務について

言い換えると、最高裁の考え方では上記3要件を充足しない場合、株主総会の特別決議は必要でなく、例えば、要件③競業避止義務を特約によって排除した場合には株主総会決議は不要となります。

しかし、最高裁の立場には異論があり、少なくとも要件③譲渡人の競業避止義務は、不要とするのが学説の多数です。このように事業譲渡の意義に関する見解は流動的ですので、単に要件③を外せば総会決議は不要と短絡的に考えるのは危険です。後に最高裁が学説に従って見解を変え要件③は不要と解すると、結果的にそれは株主総会が必要な事業譲渡であったということになり、総会決議を経ていない以上事業譲渡は無効という結果になりかねないからです。そこで、事業譲渡にあたるか否か即ち総会決議が必要か否かは、慎重に検討すべきように思います。

(3)有機的一体性のある財産

要件①で述べたとおり、事業譲渡とは「一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」の譲渡であり、単なる事業用財産または権利義務の集合の譲渡はこれにあたりません。

有機的一体性のある財産の譲渡というためには、譲渡会社の製造・販売等に係るノウハウ等の譲受人による承継が必要であり、単に承継動産・不動産等を用いて同種の事業が行われているだけでは足りません(旭川地判平成7年8月31日判時1569号115頁)。

  ちなみに、会社分割の対象は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」とされていて、事業との有機的一体性は求められておらず、その範囲は事業譲渡の場合より広くなります(会社法2条29号、30号)

(4)事業の一部の譲渡とは、たとえば、食品事業とアパレル事業を営んでいる会社が、食品事業だけを譲渡するような場合をいいます(伊藤外「LQ会社法第5版」有斐閣458頁)。  

 

2 法的性質

(1)取引上の行為

事業譲渡は、個々の資産負債や契約上の地位を移転・承継すること(特定承継)を目的とする取引上の行為です。その結果、事業譲渡は、原則として当事者間の合意のみによって行うことができます。この点が、組織再編行為である会社分割では、原則として、株主総会の特別決議が必要とされていることとの違いです。

もっとも、単なる事業譲渡を超えて「事業の全部又は重要な一部を譲渡」する場合には、株主の重大な利害に関わることから株主保護の必要性があり、株主総会の特別決議による承認(会社法467条1項)や反対株主の株式買取請求権(会社法469条1項)が必要になります。

(2)財産の移転や債務の承継

事業譲渡は、個別の資産負債や契約上の地位を移転・承継する取引上の行為という法的性質から、個別資産の譲渡、免責的な債務の移転に関する債権者の承諾、契約上の地位の譲渡に関する相手方の承諾、労働者の移転に関する労働者の同意などについて個々の手続が必要です。この点が、組織再編行為である会社分割では、これらが一般承継として原則不要とされることと違っています(反面、会社分割では、債権者保護手続や労働契約承継法の定めに従わなければなりません。)。

ただ、個別資産の譲渡(会社分割の場合は分割契約に基づく資産承継)の対抗要件具備については、事業譲渡の場合は当然に個々に備える必要がありますが、この点は会社分割も同様です。例えば、個別資産が不動産の場合、別途対抗要件としての登記を具備しなければ第三者(事業譲渡会社・吸収分割会社から、不動産の二重譲渡を受けた者)に対抗することができません。

なお、行政上の許認可については、事業譲渡では原則として許認可の再取得が必要となるため、譲受会社が許認可を取得し直さなければなりません。

 

3 手続

(1)覚書の締結

  会社法467条1項1乃至3号に定める事業譲渡(以下、単に「事業譲渡」といいます。)を行う場合、先ず譲渡会社は譲受会社との間で、事業譲渡の対象となる事業の範囲、事業譲渡の対価、譲渡時期、労働契約の承継の有無等について協議を行います。そして、重要点につき合意に至った場合には、事業譲渡契約の締結前に、覚書を交わすことが多いでしょう。

(2)事業譲渡及び株主総会招集に関する取締役会決議

  ① 重要な財産の処分及び譲受けに該当する可能性

事業譲渡とは、単なる事業用財産・権利義務の集合の譲渡を超えて「一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」を譲渡することです。したがって、当該会社にとって当然「重要な財産の処分及び譲受け」(会社法362条4項1号)に該当する場合が多いでしょう。すると、事業譲渡契約を締結する場合、取締役会設置会社ではその承認決議が必要になります。

  ② 株主総会の招集

   譲渡会社・譲受会社は、事業譲渡について、上記事業譲渡契約締結に関する取締役会の承認決議と併せて、株主総会の招集も決めることになるでしょう。  

(3)事業譲渡契約の締結

  譲渡会社・譲受会社は、総会決議が必要な事業譲渡であったとしても、上記取締役会の承認が得られた段階で事業譲渡契約を締結するのが通常です。但し、それは総会決議の承認を条件としたものになります。その際に作成される事業譲渡契約書は、会社法上要求されているものではありませんが、事後の紛争を防止することを目的として作成されます。この点、組織再編行為たる会社分割の場合は、法定事項を定めた組織再編契約や組織再編計画の作成・備置等が求められることが違いです。

(4)株主総会決議

  ① 招集手続

   事業譲渡に関する株主総会を行う場合には、原則として株主総会の2週間(非公開会社においては原則1週間)前までに、株主にその招集通知を発しなければなりません(会社法299条1項)。

  ② 株主総会決議を必要とする場合

   原則として株主総会の特別決議により承認を受けなければならない事業譲渡は、以下の場合です(会社法309条2項11号)。

  ア 事業の全部又は重要な一部の譲渡(会社法467条1項1号、2号)

  イ 他の会社の事業の全部の譲受け(会社法467条1項3号)

   譲渡会社と譲受会社とで違いがあるので、注意してください(事業の重要な一部を譲渡する場合の株主総会決議は、譲渡会社では必要ですが譲受会社では不要です。)

(5)反対株主の株式買取請求権

  事業譲渡をする場合、反対株主は、事業譲渡をする会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法469条1項)。事業譲渡が行われた場合、会社の財産状態が大きく変動し、株主の地位に重大な影響を及ぼすことがあるからです。

(6)その他

  事業譲渡の効力は、事業譲渡契約で定められた効力発生日に生じます。株主総会決議の承認が条件とされているのであれば、その日ということになるでしょう。もっとも、事業譲渡は特定承継ですから、譲渡会社の有するその他の資産、負債を引き継ぎ、従業員を雇うのであれば、個々に移転等の手続をとる必要があります。

 

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不動産関連⑤賃貸業と改正民法・借主債務の保証

2021.06.02

 

 

1 借主債務の保証に関連する改正民法の概要は、以下のとおりです。

(1)個人根保証契約

 

 民法第5款 保証債務 第2目 個人根保証契約

 465条の2

  1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負 う。

  2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

  3 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。

 

① ここで「個人根保証契約」とありますが、典型例は借主の賃料債務等の保証だとされています。

  ポイントは、2項の極度額を定めなければ効力を生じないとする点と3項です。3項で準用する446条2項、3項は、保証契約は書面等でしなければならないとされています。

  注意が必要なのは、1項が「元本、利息…その他云々について、その全部に係る極度額」とされている点です。例えば「極度額元本100万円」など、元本のみに極度額が定められていても無効となります。

② 一番の問題は「極度額」の上限はいくらかという点です。民法には極度額の上限についての規定はなく、解説書などでも抽象的に高額すぎる場合には、公序良俗に反して無効となる場合があるとしか書いておらず、明確な上限は明らかではありません。

  これと関連して、国交省が「極度額に関する参考資料」という資料を公開しており、国交省のHPからダウンロードできますが、この資料では、関係当事者間の協議にあたって参考としてくださいということが書かれているだけで、明確な基準が示されているわけではなく、家賃債務保証業者が負担した額や貸主が最終的に借主から回収できなかった金額、裁判所の判決で保証人が負担すべきとされた金額などをまとめているだけです。

 

  ただ、その中で参考になるものとして、裁判所の判決において、連帯保証人の負担として確定した金額について、最小値が賃料月額の2か月分、中央値が12か月分、平均が13.2か月分、最高値が33か月分という数字がありますが、この最高値が今後も大丈夫かどうかはよく分かりません。

  もう1つ、参考になるものとして、家賃滞納発生にかかる調査結果があり、そこでは最終明渡しまでの平均的な期間・金額として、

  ア 家賃滞納が3.1か月で合意解約の提案を行い合意解約ができたケース

家賃滞納から4.5か月経過後で明渡し、未回収家賃4.1か月分

イ 明渡しの裁判を行うケース

  家賃滞納から4.0か月経過後で訴え提起、判決確定までが7.3か月

 A 任意退去

   その後任意退去時の未回収家賃が7.2か月分

 B 強制退去

   明渡しまでに家賃滞納から9.1か月経過で、未回収家賃が9.7か月分、強制執行費用の平均が50.7万円というものがあります。

 

 ちなみに、不動産管理業者に対するアンケート調査によれば、家賃5万円と仮定した場合の極度額を、120万円以下とするもの(2年分、29.7%)と60万円以下とするもの(1年分、25.5%)が、多いようです。前者は強制退去までを見据えた数字、後者は保証人の平均的な負担額を参考にした数字といえるでしょう。

 

(2)個人根保証契約の元本確定事由

民法465条の4

1 次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
 二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
 三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。

2 前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。

一 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。

二 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

 

注意すべきは、個人根保証契約については、個人貸金等根保証契約(465条の4-2項)と異なり、借主に対する強制執行や借主の破産の場合は確定しないという点です。そもそも、家賃は居住用建物等を使用するための対価であるところ、その性質上、借主の経済状態が悪化したとしても直ぐに建物等を明渡すことにはならず、借主が破産したような場合にこそ、保証人に保証してもらう場面が生じてくるからとされています。

 

(3)債務の履行状況に関する情報提供義務

 

民法458条の2

保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

 

保証人は、必ずしも主債務者の履行状況を知り得る立場にはないので、保証人を保護するために、保証人が負担しなければならない債務について債権者が情報を提供することが求められます。

 

(4)改正附則

 

民法施行附則21条1項は「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。」としています。

 

 ① そうすると、

  ア 2020年4月1日より前に極度額の定めなく締結された連帯保証契約は有効、

  イ 2020年4月1日以降に極度額の定めなく締結された連帯保証契約は無効となります。

 ② 更新後の保証契約については、

  ア 2020年4月1日以降に賃貸借契約が更新された場合

    → 従前、極度額の定めなく締結された連帯保証契約が継続。

  イ 連帯保証人も更新契約書に署名押印した場合

    → 新たな保証契約と認定されると、極度額の定めがない場合は無効となる可能性がある。

③ 一応、このように整理しておきますが、この更新後の保証契約に関しては、議論のありうるところです。

  上記の見解は、神奈川県弁護士会で平成31年3月12日に法務省の担当者より示された見解であり、「①改正法の施行後である2020年4月1日以降に賃貸借契約が合意更新され、②この更新契約書に連帯保証人が署名押印したことにより新たな保証契約が締結されたと評価される場合には、改正民法が適用され、更新契約では連帯保証人の極度額を定めなければならない。」とされています。

  そうしますと、契約書に基づいて自動更新される場合、更新契約をせずに法定更新された場合は、新たな保証契約がないので、従前の保証が生きてきて、極度額の定めがなくても有効ということになります。そして、新たに連帯保証の契約を締結したり、更新契約に保証人が署名・押印するような場合は、新たな保証契約があるということで新報が適用され、極度額の定めがなければ無効ということになります。

  一方で、法務省の立法担当者が執筆した「一問一答民法(債権関係改正)法務商事」という本では、「契約更新について当事者の黙示の合意を根拠とするもの(例えば民法619条1項)と当事者の意思に基づかないもの(例えば借地借家法26条)に分かれ、前者は新法適用、後者は旧法適用となる。」と書かれております。民法619条1項は「賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用または収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借したものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。」という賃貸借の更新を推定した規定です。この書きぶりからすると、合意更新後の賃貸借契約には、新法が適用されるようにも読めます。ただ、保証契約は合意によって更新されていないということで、保証契約は別だとの考え方もあり得るので、そのような考え方が、前述しました法務省の見解かと思います。

  更新時に、保証人の極度額の定めをするのが一番安心でありますが、法務省の見解を前提とすると、上記のとおりとなります。

 

2 保証関連事項を契約書で定める場合の検討

(1)標準契約書における保証関連事項条項は、頭書部分に連帯保証人の住所・氏名・電話番号、極度額の記載欄があり、以下のとおりになっています。

 

(連帯保証人)

第17条 連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。

2 前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。

3 丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。

4 丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。

 

(2)1項については、賃貸借契約が更新された後、保証人が更新後の借主の債務についても責任を負うのかについては議論がありましたが、最高裁平成9年11月13日は、特段の事情がない限り、責任を負うとしています。これを契約書上明記しているものです。

   3項については、確定事由を、民法465条の4の1項3号に定める事由(借主又は保証人の死亡)のみとしています。民法の他の確定事由(保証人の財産に対する強制執行、保証人の破産、同条項1、2号)を排除する趣旨であるかは、解釈の余地があると思います。

 

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事業譲渡①コロナ不況の特徴

2021.06.01

1 令和2年に入って、新型コロナの影響から、日本経済も大打撃を受けています。

2 事業種が偏っているのが特徴で、令和3年5月までの倒産で整理すると、飲食店(250件)、建設・工事業(140件)、ホテル・旅館(89件)、アパレル小売(76件)、食品卸(70件)と続きます(本稿における日付・数字のデータは、TDB『速報「新型コロナウィルス関連倒産」動向調査2021/5/26』によります。)。簡単に分析すると、飲食店は、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置(両者の違いについては、https://m2-law.com/blog/1694/)の直接的な影響を受け、それに伴う外出自粛要請から、ホテル・旅館、アパレル小売も大きな影響を受けています。そこから、取引先へと間接的に広がり、食品卸や中小・零細規模の工務店・電気工事業者が建設・工事業として倒産しています。最近では、テナントビルも苦しみだしているところもあるようです。

しかも、通常の不況であれば、業種内でも強い弱いといった差がありますが、コロナ不況の場合は特定事業種の会社が軒並み影響を受けているのが特徴です。

3 ただ、国が、持続化給付金、納税猶予の特例、政策公庫のコロナ対策貸付・信用保証協会のセーフティーネット、雇用調整助成金といった制度を充実させたことから、倒産件数の増加は、当初それほどではありませんでした(令和2年2月26日の第1号倒産から500件までは195日、1000件までは150日)。

ところが、休業外出自粛要請が続いた結果、資金が尽きていくのか、1000件から1500件(令和3年5月26日)までの日数は110日と発生ペースが加速しだしてきています。最近(本稿アップ時の令和3年6月1日)では、休業要請の担保である休業要請支援金の給付も遅れていることから、更に当該事業種を圧迫させることになっている上、ワクチン接種が進んできとはいえ、まだ先行きは不透明です。

通常の不況であれば、融資不可→商取引サイトの伸長→税金保険料滞納→給与遅滞→倒産へと徐々に向かいますが、コロナ不況の場合は、急激な金融負債の増加→一気に倒産という形が散見されます。

4 以上が、コロナ不況の特徴ですが、要約すると、飲食を始めとする特定事業種の中でも強みはある(業種内での競争力がある)ものの、多額の金融負債を抱え(ただ、税金保険料・給与の遅れは少ない)、先行き不透明な中で、資金が尽きて倒産しようとしている会社が多いことになります。

 これを事業再生という視点から眺めた場合、いわゆる倒産初期症状の段階といえます(但し、金融負債は事業規模に比較し、格段に多いです。この状態が更に進んで税金保険料給与の遅れがでてくると、事業再生の大きな負担になります。例えば、民事再生であれば、これらは一般優先債権とされるので、カットの対象にならないからです。このような場合には、破産・事業譲渡型の手法を採らざるを得ませんが、後述する意味での事業譲渡とでは、その手段を採る目的が違っている点に注意する必要があります。)。従って、相応の資金を有するスポンサーの下で一定期間を乗り越えることさえできれば、事業再生は有望ということになります。

 スポンサー型の再生手法といえば、株式譲渡(当該会社の株式の譲渡、狭義のM&Aといわれるものです。)や第三者割当増資(最近の例としては、旅行大手HIS、ロイヤルホスト等を経営するロイヤルHD、ワタベウェディングなど)がありますが、株式譲渡では金銭の遣り取りは新旧株主間でなされるだけで直ちに当該会社に資金提供はされません。他方で、第三者割当増資では直ちにスポンサーが100%株主となり当該会社の支配権を取得できません(その上、資本金として出資する以上、原則としてその返還を求めることはできず、本来ならスポンサーとしては、流動性の高い貸金としての資金提供を望むことが多いでしょう。)。ましてや、何れの手法も多額の金融負債の問題を解消するものではありません。

そうなると、特に中小企業については、迅速に金融負債と当該事業を切り離しスポンサー会社に当該事業を譲渡した上で、先行きの不透明さをスポンサー資金により補い、当該事業の再生を図るという手法が有望視されているところです(「新型コロナと私的整理・法的整理」事業再生と債権管理172号11頁)。ちなみに、この場合に事業譲渡が注目されるのは、例えば民事再生では、再生債権確定その他で一定程度の日数を必要としますが、再生計画外での事業譲渡も許されるため、迅速性を図って事業価値の棄損を防ぐことができるからです(私的整理における事業譲渡・第二会社方式によれば、より迅速に事業価値の棄損を防げます。)。

ただ、一般的にスポンサーは同業種であることが多いのですが、同事業種一斉不況というコロナ不況の特徴から、スポンサーを見つけるのが大変だという点は意識しておかなければなりません(特に令和2年度は財布の紐が締まり、市場が冷え込んでいるようでした。)。

5 そこで、村上・新村法律事務所としては「事業再生・債務整理サイト」の開設企画の1つとして、次回以降、現在注目を浴びている「事業譲渡による事業再生」に関する連載をしようと思います。ご期待ください。

 

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事業再生・債務整理サイト

2021.05.27

村上新村法律事務所の得意とする、事業再生・債務整理・破産専門サイト、オープンしました。

リスケ、私的整理、ガイドラインに基づく保証解除等、最新情報満載で、よくできていると思いますので、関心ある方は、ご覧ください。

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不動産関連④賃貸業と改正民法・敷金

2021.05.18

 

 

1 敷金関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

  民法622条の2

 1 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

一 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき。

二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借契約に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

 (1)改正前民法では、敷金の定義や敷金に関する基本的な規定がありませんでした。ただ、敷金に関し形成されていた判例法理や従来の一般的な理解があったので、これを明文化した規定となります。

 (2)敷金の定義(1項括弧書)

 ここで「いかなる名目によるかを問わず」というのは、実質が賃借人の金銭債務を担保する目的であれば、この法律による「敷金」ということになるということで、例えば、関西でよく使われる「保証金」という名目でも内容としては敷金になるという意味です。逆に、「礼金」「権利金」「建設協力金」など、債務の担保として交付されるものではない金銭は、敷金とはなりません。

 (3)敷金返還債務の発生時期(622条の2第1項)

    敷金の発生時期は、賃貸借が終了し「かつ」賃貸物の返還を受けたとき等とされています。これらの返還時期についても、判例法理や従来の一般的な理解を明文化したものですが、①についていうと、賃貸借が終了しても、明渡しが完了するまでは、敷金返還債務が発生しないということ、また、明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にならないということが明らかにされました。

 (4)敷金による優先弁済(当然控除)(622条の2第1項)

    賃貸人は「敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額」を返還する義務を負うとされています。これは、別段「相殺の意思表示を要せず」他の債権者に優先して賃借人に対する債権の弁済を受けることができるということです。

 (5)敷金返還債務の発生前における敷金の効力(622条の2第2項)

   622条の2第2項は、1項により賃借人に敷金返還債務が具体的に発生する前の段階における敷金の効力の規定です。それゆえ、その段階で敷金について、賃貸人が期待できること(賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てること)と賃借人が期待できないこと(賃借人が敷金をその債務の弁済に充てること)を示しています。

 

2 敷金関連事項を契約書で定める場合の検討

(1)標準契約書における敷金関連事項条項は、以下のとおりです。

 

(敷金)

第6条 乙は、本契約から生じる債務の担保として、頭書(3)に記載する敷金を甲に交付するものとする。

2 甲は、乙が本契約から生じる債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって当該債務の弁済に充てることを請求することができない。

3 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を乙に返還しなければならない。ただし、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第15条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引いた額を返還するものとする。

4 前項ただし書の場合には、甲は、敷金から差し引く債務の額の内訳を乙に明示しなければならない。

 

 

 ア 契約条項第6条1項、2項

    この規定は、前述した改正民法の内容に文言を合わせてあります。具体的な敷金の金額については、頭書(3)に記載しておくということになります。

    滞納賃料・原状回復費用以外に「本契約から生じる債務」とは、契約期間中の修繕条項に基づく債務(修繕ブログ参照https://m2-law.com/blog/1644/。標準契約書9条)や借主の債務不履行に基づく損害賠償債務を意味します。

  イ 第6条3項、4項)

   4項は、改正民法と同じく、特段の意思表示なく、当然に賃借人の金銭債務を差し引くということが規定されております。5項は、特に民法の規定があるわけではないのですが、敷金の返還額をめぐるトラブルを防止するために内訳を明示するようにすると規定されています。

(2)敷引特約

   ちなみに、上記下線部と異なり、一定額を控除し残額を返還するという敷引特約を交わしていた場合に、これが消費者契約法10条に違反しないかが問題になります。

この点、最1小判平成23年3月24日民集65巻2号903頁(以下、平成23年判決といいます。)は「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」と一般論を述べました。

ただ、平成23年判決の敷引特約は「契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって、本件敷引金の額が、契約の経過年数や本件建物の場所、専有面積等に照らし、本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また、本件契約における賃料は月額9万6000円であって、本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。」としました。

 

上記判例を参考にすると、賃貸人としては、通常損耗・経年変化について、原状回復義務の範疇で拡張するよりも敷引の範疇で対応する方が幾分容易に思えるところがあります(原状回復ブログ参照、https://m2-law.com/blog/1798/)。その理由は何処にあるのかを詰めて考え、またそれはどこまで許されるのか検討することが、原状回復関連で述べたところと同様、弁護士の力量が試される場面と思われます。

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投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

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