2021.07.14
1 民事再生における事業譲渡の意義
債務者の事業について、民事再生手続では、破産手続と異なり、申立後あるいは再生手続開始後も管財人が選任されず、債務者の管理処分権が認められています(DIP型 民再法38条1項)。したがって、民事再生手続は、債務者自身が引き続き事業を継続しながら、主体的に再建を図る手続といえます。
しかし、債務者の一部の事業(ノンコア事業等)を売却すれば残りの事業を維持・存続することが可能な場合等、債務者自身の再建のため民事再生手続にて事業譲渡を行うことが有益な場合があります。更に、今後の運営を債務者自身に任せたままだと事業が劣化したりする場合は、事業全部を譲渡することで事業そのものの再生を図ることができます。民事再生法が会社としての存続・再建というより「事業の再生」を目的としているため(民再法1条)、事業譲渡により事業自体が生き残れるのであれば、その後、例えば債務者たる会社が清算に至っても民事再生法の目的には反しません。この場合、事業譲渡代金を主な財源として債権者に早期に一括乃至は短期間での分割弁済を実行することで、破産手続移行のリスクを回避することができます。このとおり、民事再生手続における事業譲渡は、債務者自身の再生のみならず、事業そのものの再生を図る有効なスキームとして実務上広く利用されています。
2 民事再生手続における事業譲渡の特徴
(1)事業譲渡の許可制度
民事再生法上、事業譲渡は、再生債務者のみならず、債権者その他の利害関係人にも重大な影響を及ぼすため、民事再生法42条により、「事業の全部又は重要な一部の譲渡」をする場合、裁判所による事前の許可が求められています。もっとも、逆にかかる許可を得れば、再生計画によらずに、事業譲渡を実施することが可能であり、債権者の承認手続を経る必要がないことから、早期の事業譲渡が可能となります。
(2)株主総会承認決議の代替許可制度
民事再生手続では、再生債務者が株式会社である場合において、株主が手続に参加することを予定していないため、事業譲渡は、原則として、会社法467条1項1号、2号に定める株主総会の特別決議によって、その承認を受ける必要があります。もっとも、事業価値の棄損を防ぐために、早期に事業の譲渡を行う必要がある場合もあることから、債務超過の株式会社の場合には、株主総会の承認を省略して、早期に事業譲渡を行うことができます(民再法43条1項、代替許可)。
(3)計画外事業譲渡と再生計画による事業譲渡
上述した手続によれば、再生計画によらず、計画外で事業譲渡を行うことも可能であり、この場合、再生計画の作成・成立をまたずに、開始決定後、直ちに事業譲渡をすることが可能です(計画外事業譲渡)。他方、民再法上、明文の規定はないものの、再生手続の目的である事業の再生は、本来的には、再生計画の決議、認可決定により実施されるべきであると考えられていることから、再生計画によって事業譲渡を行うことも可能とされています(計画内事業譲渡)。
再生計画による、或いは、再生計画外の事業譲渡については、以下3で詳細します。
(4)担保権消滅許可制度の利用による事業用資産の譲渡
事業用資産に担保権が付着していた場合でも、それが、債務者の事業の継続に欠くことができない資産であれば、債務者は、裁判所に対し、当該資産の価格に相当する金銭を納付して、当該資産に存在するすべての担保権を消滅させることの許可申立をすることができます(担保権消滅許可制度 民再法148条)。かかる制度の存在により、担保権の付着した事業資産でもこれを解除して事業と共に譲渡することができます。
3 再生計画内事業譲渡
(1)民事再生手続上、事業譲渡を定めた再生計画を作成し、裁判所に提出したうえで、債権者による法定の決議を経て、事業譲渡を行うことができます。この場合、再生計画案についての決議や裁判所の認可という通常の手続に加えて、譲渡について、裁判所の許可等(民再法42条)を必要とするかについては見解が分かれています。再生計画案は、裁判所の付議決定を経た上で債権者に諮られその同意を得て裁判所がこれを認可します(民再法169条、172条の3、174条)。また、労働組合等も再生計画案等に意見を述べることができます(民再法168条、174条3項)。つまり、民事再生法42条で必要とされる関係者全ての関与が認められていることからすれば、これに加えて、同条の許可を得る必要はないと解する見解も有力です。実際に、東京地裁では、この見解に従った運用がされているようです。
ただ、このような場合とはいえ債務者が株式会社の場合、株主総会の特別決議(会社法467条1項2号)かこれに代わる裁判所の代替許可(民再法43条1項)を得る必要があります。また、このような事業譲渡の契約は、再生計画案の認可を条件として事前に行われることが多いですが、事業譲渡が監督委員の同意事項として指定(民再法54条2)されている場合にはその同意も必要になります。
(2)再生計画にて事業譲渡を行う場合としては、時の経過による資産の劣化が軽微な事案において、債権者等の利害関係人の保護を考慮に入れたような場合です。また、債権者が主導する形で、事業譲渡を行う場合には、債権者が作成した再生計画案(民再法163条2項)の中に事業譲渡を定め、再生計画の認可を得て、譲渡を行うこと等も考えられます。
2 再生計画外の事業譲渡
(1)また、民再法42条に定める裁判所の許可を得て、再生計画外にて、事業の全部または重要な一部の譲渡をすることができます。この場合、再生計画での事業譲渡と比べ、債権者の承認を得る必要がないため、事業劣化を防ぐスキームとして有益で早期に事業を譲渡することが可能です。
(2)もっとも、事業譲渡については債権者が強い利害関係を有していることは計画外譲渡においても異ならないため、裁判所が民再法42条1項に定める許可をする場合には、知れている債権者の意見を聞かなければなりません(同条2項)。裁判所は、民再法42条1項に定める許可をするかどうかにつき、短期間で適切に判断するため、事業譲渡に最も利害を有する債権者の意見を重視しており、例えば、債権者の多くが事業譲渡に反対している場合においては、原則として許可が出されないと考えられます。したがって、多くの債権者の反対が予想される場合には、事業譲渡の許可を求める前に、債権者に事業譲渡の必要性・妥当性などについて適切に説明する必要があります。なお、意見聴取の方法は、裁判所の裁量に委ねられており、裁判所は適宜の方法で意見を聞けば足ります。ただ、その運用は比較的厳格で、例えば、東京地裁では、債権者の規模にもよるものの、事業譲渡許可申立があった場合には、その2週間程度後に意見聴取期日を開催し、原則として全再生債権者の意見を直接聴くという運用がされています。なお、裁判所により承認された債権者委員会がある場合には、当該委員会の意見を聴けば足り、各債権者から個別に意見を聴く必要はありません。
(3)民再法42条1項の裁判所の許可に基づき事業譲渡を行う場合、監督委員が許可手続において、裁判所からの求めに応じて調査報告書(意見書)を提出するという運用がとられています。監督委員が調査報告書(意見書)において許可の要件を満たすかどうかについて意見を述べるため、許可申請の際には、許可要件を充足することについて監督委員を十分に説得できるだけの材料を揃え、手続を行うことが必要となります。
(4)なお、債務者が株式会社の場合には、株主総会の特別決議(会社法467条1項2号)か、代替許可(民再法43条1項)を得る必要があることについては、計画内譲渡の場合と同様です。
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