不動産

追い出し条項

2022.12.14

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1 今回は先日下された、いわゆる「追い出し条項」に関する最高裁の判断の解説速報です(最1小判令和4年12月12日、以下「令和4年最高裁判決」といい、そこで問題となった事案を「本件」といいます。)。

2 本件の契約書(以下「本件契約書」といいます。)は、賃貸人と賃借人及び賃借人の保証会社(以下、保証会社といいます。)に関するもので、次のような条項(以下、追い出し条項といいます。)がありました。

即ち「保証会社は、賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。」というものです。保証会社によれば、追い出し条項は、賃貸人と賃借人との契約(以下「原契約」といいます。)が終了していない場合であっても、追い出し条項の適用がある旨を主張しています。

ところが、追い出し条項は、消費者契約法(以下、法といいます。)10条に規定する消費者の利益を一方的に害する消費者契約の条項に当たると主張して、大阪の適格消費者団体(通称KC’s)が、追い出し条項の排除を求めた事案です。ポイント部分は、色付けしています。

ちなみに、法10条は「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他法令中の公の秩序に関しない規定(任意規定)の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と定めています。

3 大阪高裁は、要旨次のとおり判断して、KC’sの請求を棄却していました。即ち、追い出し条項は「①賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠ったこと、②保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡が取れない状況にあること、③電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められること、④本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存することという四つの要件(以下「本件4要件」といいます。)を満たすことにより、賃借人が本件建物の使用を終了してその占有権が消滅しているものと認められる場合に、賃借人が明示的に異議を述べない限り、保証会社が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であり、原契約が継続している場合は、これを終了させる権限を保証会社に付与する趣旨の条項であると解するのが相当である。そうすると、本件4要件を満たす場合、賃借人は、通常、原契約に係る法律関係の解消を希望し、又は予期しているものと考えられ、むしろ、追い出し条項が適用されることにより、本件建物の現実の明渡義務や賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を受けるのであるから、本件建物を明け渡したものとみなされる賃借人の不利益は限定的なものにとどまるというべきであって、追い出し条項が信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。」としていました。

 ところが、令和4年最高裁判決は、大阪高裁判決の判断を是認できないとしました。その理由は、次のとおりです。即ち「追い出し条項には、原契約が終了している場合に限定して適用される条項であることを示す文言はないこと、保証会社が、本件訴訟において、原契約が終了していない場合であっても、追い出し条項の適用がある旨を主張していること等に鑑みると、追い出し条項は、原契約が終了している場合だけでなく、原契約が終了していない場合においても、本件4要件を満たすときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、保証会社が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であると解される。 そして、追い出し条項には原契約を終了させる権限を保証会社に付与する趣旨を含むことをうかがわせる文言は存しないのであるから、追い出し条項について大阪高裁判決の判断した趣旨の条項(賃借人が建物の現実の明渡義務や賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を受ける条項)であると解することはできないというべきである。」としました。

4 そして、令和4年最高裁判決は、追い出し条項が法10条に規定する消費者契約の条項に当たるか否かについて検討したところ「ア 保証会社が、原契約が終了していない場合において、追い出し条項に基づいて本件建物の明渡しがあったものとみなしたときは、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が消滅していないのに、原契約の当事者でもない保証会社の一存で、その使用収益権が制限されることとなる。そのため、追い出し条項は、この点において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである。 そして、このようなときには、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が一方的に制限されることになる上、本件建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、 賃貸人が賃借人に対して本件建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれるのであって、著しく不当というべきである。」としました。

   確かに、本件4要件のうち、要件④(建物を再占有しない賃借人の意思が客観的に看取できる場合)に、賃借人には異議を述べる機会があることを加味すると、それが「一方的に消費者の利益を害する」といえるかが問題になるところ、令和4年最高裁判決は、要件④については「内容が一義的に明らかでないため、賃借人は、いかなる場合に追い出し条項の適用があるのかを的確に判断することができず、不利益を被るおそれがある。」としました。また、賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではないから、賃借人の不利益を回避する手段として十分でない。」としました。

その結果として、令和4年最高裁判決は、追い出し条項は「消費者である賃借人と事業者である保証会社の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるとい うべきである。」として、KC’sの主張を認めました。

 

 

 

投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

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