企業法務

警備業法の欠格事由・最高裁判決解説速報

2026.03.24

1 はじめに

  今回は、警備業法の「欠格条項」の合憲性が争われた事案で、先日下された最高裁大法廷判決の解説速報です(最判令和8年2月18日、以下「令和8年判決」といい、そこで問題となった事案を「本件」といいます。)。

2 事案の概要(判決だけでなく参考文献から推測できる事実を含みます。)

  A氏は、「B2」に区分される軽度の知的障害があり、平成22(2010)年に療育手帳の交付を受けた様です。しかし、平成26(2014)年に雇用される際、医師の診断書を提出して、警備業法3条7号に明記されている欠格要件の事由に該当しないことが確認されています。なお、雇用契約には、警備業法上の欠格要件の事由が該当した場合には契約が終了する解除条件が記載されていました。その上で、A氏は、交通誘導警備業務に従事していました。

  A氏は、平均して月に20日程度シフトに入り、担当した警備業務において判断ミスに起因する事故等を起こしたことはなく、雇用主の警備業者も「特に問題なく、作業をこなせている」と評価していたといいます。

  しかし、平成28(2016)年11月に、A氏の実父が、無断でA氏の名義で自動車のローンを組む等の手続をした様です。そこで、A氏自ら保佐開始の申し立てをしたところ、岐阜裁は、平成29(2017)年2月にA氏への保佐開始の審判をし、保佐人を選任しました。その結果、A氏は被保佐人になったのです。

  ところが、A氏が被保佐人になったことで、旧警備業法3条1号と14条(以下「本件規定」といいます。)の欠格要件の事由に該当するとして、平成29(2017)年3月に警備業者はA氏に本件雇用契約上の解除条件成就を理由に本件雇用契約の当然終了を通知し、A氏は退職することになりました(この時点を「本件退職時」といいます。)。

そこで、A氏は、平成30(2018)年1月、国に対して、本件規定が憲法14条1項及び22条1項等に違反すると主張し、100万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。

その後、令和元(2019)年6月、本件規定を含む成年後見等に係る欠格条項の大半は削除されましたが、本件退職時には本件規定は存在していたことから、警備業者が法令順守の対応をしたことには理解を示した様です。A氏は、警備業者に対して責任追及や損害賠償の請求は行っていません。

なお、本件規定の削除に先立ち、警備業法を所管する警察庁は、平成30(2018)年2月、政策的評価を行い、心身の障害がある者の適格性に対する個別的・実質的な審査によって警備業務の特性に応じた必要な能力の有無を判断する「3条7号規定」がすでに設けられているため、特段の影響はないとしていました。

※旧警備業法

 第三条 次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない。
一 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの

七 心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの

第十四条 十八歳未満の者又は第三条第一号から第七号までのいずれかに該当する者は、警備員となつてはならない。
2 警備業者は、前項に規定する者を警備業務に従事させてはならない。

3 下級審の判断

  • 第一審 一部認容・一部棄却(岐阜地裁令和3年10月1日)

➡「国会の立法不作為」を不法行為として慰謝料10万円の支払いを命じる

  • 控訴審 控訴棄却、原判決一部変更(名古屋高裁令和4年11月15日)

➡「国会の立法不作為」を不法行為として慰謝料50万円の支払いを命じる

4 最高裁判所の判断

  上告認容(原判決破棄、請求棄却)

  ➡ 本件退職時における本件規定の存在は違憲と評価したが、多数意見は「国会の立法不作為」を違法と評価せず、A氏の請求を認めなかった。

5 解説

  本件の解説は、本件規定が、法の下の平等(憲法14条1項)職業選択の自由(憲法22条1項)に違反し、違憲かという点を中心とします。令和8年判決のロジックに照らせば、本件規定を削除しない国会の立法不作為が裁量を逸脱する時点と理由について解説します(国会の立法不作為を不法行為と考え損害賠償が認められるには更なる時間の経過が必要とされており、この点に関する裁判官の意見は複雑に別れていますが、この点は割愛します。)。

  先ず、令和8年判決は、本件規定の合憲性を肯定するには「規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」としました。そして、この点に関する「立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱したと認められる場合には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反する」としました。

その上で、判決理由によれば、警備業法は、警備業務の実施の適正を図る目的で制定されましたが、警備業の活動領域の拡大に伴い、警備業者による法令違反や警備員の非行等の問題が多発したことを受け、昭和57年改正が行われることになり、準禁治産者が欠格事由者として定められたものです。

この点について、令和8年判決は、「警備業務は、警備員の有形又は無形の影響力によって他人の生命、身体、財産等を守ることを内容とする業務であり、その性質上、他人の権利や自由を侵害しかねず、不適切な警備業務の実施によって国民生活に大きな不安と混乱を与えるおそれがあるという側面を有している。そのため、警備員には、警備業務の実施に伴って発生する様々な事象に対し、適法、妥当かつ臨機応変に対応することが求められ、これに必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行う能力が要求される。…準禁治産の制度は、精神能力の不完全な者の財産を保護するための制度であることからすると、準禁治産宣告において審査される判断能力は、上記のような警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力と完全に一致するものではないものの、準禁治産宣告を受けた心神耗弱者については、精神障害による判断能力の低下が公的機関である家庭裁判所によって確認されているのであるから、当時の知見の下では、警備業務の適正な実施を期待することができないとみることには相応の合理性があったということができる。」としました。その上で、準禁治産宣告をするには医師等に鑑定をさせなければならないことから、専門的で信頼性の高い判断であること、警備業者は中小零細の企業が圧倒的多数を占め、法令違反等の問題が多発していた状況の下では、警備員の資質につき自発的な維持管理の期待は困難であったことを踏まえ、昭和57年当時、準禁治産者を一律に欠格事由者としたことは、合理的裁量権の範囲を逸脱しないとしました。

  ただ、平成11年民法改正で成年後見制度が導入され、警備業法の準禁治産者を欠格事由者とする規定は本件規定に改められたものの、成年後見制度の導入と利用促進の中で、保佐を含む成年後見制度は、主として財産の処分等に関する判断能力に着目したものとして理解され、成年被後見人等に係る欠格条項は制度利用を阻害するものとして、見直しが求められるようになりました。そして、平成23年以降、障害者権利条約の批准やこれに伴う国内法の整備等の一連の動きとあいまって、徐々に 障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が 大きく変容し、障害者の労働、雇用との関係でも、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するに至ったと説示しました。

  これらを踏まえて、令和8年判決は、「遅くとも本件退職時点までには、被保佐人のうち警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力を備えた者が本件規定により一律に警備業務から排除されることによる不利益は、もはや看過し難い」とし「立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていた」として、その時点での本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたと判示しました。このように、令和8年判決は、障害者権利保障の進展に伴う社会認識の変化を理由として、本件規定が違憲である旨判示したといえます。

6 参考文献

  田中智仁「警備業法の論点」現代人文社228頁

  山下洋子「警備業法の欠格条項が憲法22条1項等に違反するとした岐阜地裁令和3年10月1日判決の概要と意義」実践成年後見96号95頁

 

法律相談は、弁護士法人村上・新村法律事務所まで

大阪オフィス

https://g.page/murakamishinosaka?gm

川西池田オフィス

https://g.page/murakamishin?gm

福知山オフィス

https://g.page/murakamishinfukuchiyama?gm

投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

ARTICLE

SEARCH

ARCHIVE

お客さまのお話に耳を傾け
問題解決に向けて
ベストの選択をご提案します

営業時間
平日 9:00~17:30
定 休 日
土曜/日曜/祝日 ※事前予約で対応可能
TOP