事業再生法人破産

事業譲渡①コロナ不況の特徴

2021.06.01

1 令和2年に入って、新型コロナの影響から、日本経済も大打撃を受けています。

2 事業種が偏っているのが特徴で、令和3年5月までの倒産で整理すると、飲食店(250件)、建設・工事業(140件)、ホテル・旅館(89件)、アパレル小売(76件)、食品卸(70件)と続きます(本稿における日付・数字のデータは、TDB『速報「新型コロナウィルス関連倒産」動向調査2021/5/26』によります。)。簡単に分析すると、飲食店は、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置(両者の違いについては、https://m2-law.com/blog/1694/)の直接的な影響を受け、それに伴う外出自粛要請から、ホテル・旅館、アパレル小売も大きな影響を受けています。そこから、取引先へと間接的に広がり、食品卸や中小・零細規模の工務店・電気工事業者が建設・工事業として倒産しています。最近では、テナントビルも苦しみだしているところもあるようです。

しかも、通常の不況であれば、業種内でも強い弱いといった差がありますが、コロナ不況の場合は特定事業種の会社が軒並み影響を受けているのが特徴です。

3 ただ、国が、持続化給付金、納税猶予の特例、政策公庫のコロナ対策貸付・信用保証協会のセーフティーネット、雇用調整助成金といった制度を充実させたことから、倒産件数の増加は、当初それほどではありませんでした(令和2年2月26日の第1号倒産から500件までは195日、1000件までは150日)。

ところが、休業外出自粛要請が続いた結果、資金が尽きていくのか、1000件から1500件(令和3年5月26日)までの日数は110日と発生ペースが加速しだしてきています。最近(本稿アップ時の令和3年6月1日)では、休業要請の担保である休業要請支援金の給付も遅れていることから、更に当該事業種を圧迫させることになっている上、ワクチン接種が進んできとはいえ、まだ先行きは不透明です。

通常の不況であれば、融資不可→商取引サイトの伸長→税金保険料滞納→給与遅滞→倒産へと徐々に向かいますが、コロナ不況の場合は、急激な金融負債の増加→一気に倒産という形が散見されます。

4 以上が、コロナ不況の特徴ですが、要約すると、飲食を始めとする特定事業種の中でも強みはある(業種内での競争力がある)ものの、多額の金融負債を抱え(ただ、税金保険料・給与の遅れは少ない)、先行き不透明な中で、資金が尽きて倒産しようとしている会社が多いことになります。

 これを事業再生という視点から眺めた場合、いわゆる倒産初期症状の段階といえます(但し、金融負債は事業規模に比較し、格段に多いです。この状態が更に進んで税金保険料給与の遅れがでてくると、事業再生の大きな負担になります。例えば、民事再生であれば、これらは一般優先債権とされるので、カットの対象にならないからです。このような場合には、破産・事業譲渡型の手法を採らざるを得ませんが、後述する意味での事業譲渡とでは、その手段を採る目的が違っている点に注意する必要があります。)。従って、相応の資金を有するスポンサーの下で一定期間を乗り越えることさえできれば、事業再生は有望ということになります。

 スポンサー型の再生手法といえば、株式譲渡(当該会社の株式の譲渡、狭義のM&Aといわれるものです。)や第三者割当増資(最近の例としては、旅行大手HIS、ロイヤルホスト等を経営するロイヤルHD、ワタベウェディングなど)がありますが、株式譲渡では金銭の遣り取りは新旧株主間でなされるだけで直ちに当該会社に資金提供はされません。他方で、第三者割当増資では直ちにスポンサーが100%株主となり当該会社の支配権を取得できません(その上、資本金として出資する以上、原則としてその返還を求めることはできず、本来ならスポンサーとしては、流動性の高い貸金としての資金提供を望むことが多いでしょう。)。ましてや、何れの手法も多額の金融負債の問題を解消するものではありません。

そうなると、特に中小企業については、迅速に金融負債と当該事業を切り離しスポンサー会社に当該事業を譲渡した上で、先行きの不透明さをスポンサー資金により補い、当該事業の再生を図るという手法が有望視されているところです(「新型コロナと私的整理・法的整理」事業再生と債権管理172号11頁)。ちなみに、この場合に事業譲渡が注目されるのは、例えば民事再生では、再生債権確定その他で一定程度の日数を必要としますが、再生計画外での事業譲渡も許されるため、迅速性を図って事業価値の棄損を防ぐことができるからです(私的整理における事業譲渡・第二会社方式によれば、より迅速に事業価値の棄損を防げます。)。

ただ、一般的にスポンサーは同業種であることが多いのですが、同事業種一斉不況というコロナ不況の特徴から、スポンサーを見つけるのが大変だという点は意識しておかなければなりません(特に令和2年度は財布の紐が締まり、市場が冷え込んでいるようでした。)。

5 そこで、村上・新村法律事務所としては「事業再生・債務整理サイト」の開設企画の1つとして、次回以降、現在注目を浴びている「事業譲渡による事業再生」に関する連載をしようと思います。ご期待ください。

 

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事業再生・債務整理サイト

2021.05.27

村上新村法律事務所の得意とする、事業再生・法人債務整理・破産専門サイト、オープンしました。

リスケ、私的整理、ガイドラインに基づく保証解除等、最新情報満載で、よくできていると思いますので、関心ある方は、ご覧ください。

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不動産関連④賃貸業と改正民法・敷金

2021.05.18

 

 

1 敷金関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

  民法622条の2

 1 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

一 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき。

二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借契約に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

 (1)改正前民法では、敷金の定義や敷金に関する基本的な規定がありませんでした。ただ、敷金に関し形成されていた判例法理や従来の一般的な理解があったので、これを明文化した規定となります。

 (2)敷金の定義(1項括弧書)

 ここで「いかなる名目によるかを問わず」というのは、実質が賃借人の金銭債務を担保する目的であれば、この法律による「敷金」ということになるということで、例えば、関西でよく使われる「保証金」という名目でも内容としては敷金になるという意味です。逆に、「礼金」「権利金」「建設協力金」など、債務の担保として交付されるものではない金銭は、敷金とはなりません。

 (3)敷金返還債務の発生時期(622条の2第1項)

    敷金の発生時期は、賃貸借が終了し「かつ」賃貸物の返還を受けたとき等とされています。これらの返還時期についても、判例法理や従来の一般的な理解を明文化したものですが、①についていうと、賃貸借が終了しても、明渡しが完了するまでは、敷金返還債務が発生しないということ、また、明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にならないということが明らかにされました。

 (4)敷金による優先弁済(当然控除)(622条の2第1項)

    賃貸人は「敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額」を返還する義務を負うとされています。これは、別段「相殺の意思表示を要せず」他の債権者に優先して賃借人に対する債権の弁済を受けることができるということです。

 (5)敷金返還債務の発生前における敷金の効力(622条の2第2項)

   622条の2第2項は、1項により賃借人に敷金返還債務が具体的に発生する前の段階における敷金の効力の規定です。それゆえ、その段階で敷金について、賃貸人が期待できること(賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てること)と賃借人が期待できないこと(賃借人が敷金をその債務の弁済に充てること)を示しています。

 

2 敷金関連事項を契約書で定める場合の検討

(1)標準契約書における敷金関連事項条項は、以下のとおりです。

 

(敷金)

第6条 乙は、本契約から生じる債務の担保として、頭書(3)に記載する敷金を甲に交付するものとする。

2 甲は、乙が本契約から生じる債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって当該債務の弁済に充てることを請求することができない。

3 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を乙に返還しなければならない。ただし、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第15条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引いた額を返還するものとする。

4 前項ただし書の場合には、甲は、敷金から差し引く債務の額の内訳を乙に明示しなければならない。

 

 

 ア 契約条項第6条1項、2項

    この規定は、前述した改正民法の内容に文言を合わせてあります。具体的な敷金の金額については、頭書(3)に記載しておくということになります。

    滞納賃料・原状回復費用以外に「本契約から生じる債務」とは、契約期間中の修繕条項に基づく債務(修繕ブログ参照https://m2-law.com/blog/1644/。標準契約書9条)や借主の債務不履行に基づく損害賠償債務を意味します。

  イ 第6条3項、4項)

   4項は、改正民法と同じく、特段の意思表示なく、当然に賃借人の金銭債務を差し引くということが規定されております。5項は、特に民法の規定があるわけではないのですが、敷金の返還額をめぐるトラブルを防止するために内訳を明示するようにすると規定されています。

(2)敷引特約

   ちなみに、上記下線部と異なり、一定額を控除し残額を返還するという敷引特約を交わしていた場合に、これが消費者契約法10条に違反しないかが問題になります。

この点、最1小判平成23年3月24日民集65巻2号903頁(以下、平成23年判決といいます。)は「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」と一般論を述べました。

ただ、平成23年判決の敷引特約は「契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって、本件敷引金の額が、契約の経過年数や本件建物の場所、専有面積等に照らし、本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また、本件契約における賃料は月額9万6000円であって、本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。」としました。

 

上記判例を参考にすると、賃貸人としては、通常損耗・経年変化について、原状回復義務の範疇で拡張するよりも敷引の範疇で対応する方が幾分容易に思えるところがあります(原状回復ブログ参照、https://m2-law.com/blog/1798/)。その理由は何処にあるのかを詰めて考え、またそれはどこまで許されるのか検討することが、原状回復関連で述べたところと同様、弁護士の力量が試される場面と思われます。

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不動産関連③賃貸業と改正民法・原状回復

2021.05.10

 

 

1 原状回復関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

  民法621条

   賃借人は、賃貸物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃貸物の損耗並びに賃貸物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

(1)賃借人は、期間満了後、賃貸物の返還義務を負い(616条、597条1項)その内容として原状回復義務を負うとされています(598条は、賃借人からみた収去「権」と位置付けます。)。

(2)ただ、その際の通常損耗や経年変化の取り扱いが明確ではありませんでした。判例上は、通常損耗や経年変化について、賃借人は原状回復義務を負わないとされ、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも同様の考え方がとられていました。改正民法では、これらを明文化しました。

 

2 原状回復関連事項を契約書で定める場合の検討

 

(1)標準契約書における原状回復関連事項は、以下のとおりです。

 

(明渡し時の原状回復)

第15条 乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年変化を除き、本物件を原状回復しなければならない。ただし、乙の責めに帰することができない事由により生じたものについては、原状回復を要しない。

2 甲及び乙は、本物件の明渡し時において、契約時に特約を定めた場合は当該特約を含め、別表第5の規定に基づき乙が行う原状回復の内容及び方法について協議するものとする。

 

そして、上記別表には、原則的な「原状回復条件」が定められた上で「例外としての特約」を記載することができるよう空欄が設けられています。

 

 1項は、改正民法の規定に従った原則的な取扱いを示します。ちなみに、別表で貸主の負担されている主なものは、以下のとおりです。一般的に、通常損耗とされているものを水色経年変化とされているものを紫色で示します

① 床

   畳の表替え等(次の入居者確保のためのもの)

   フローリングのワックスがけ

   家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡

   畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥により発生)

② 壁・天井

   テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気やけ)

   壁等の画鋲、ピン等の穴

   エアコン設置による壁のビス穴、跡

   クロスの変色(日照などによるもの)

③ 建具等、ふすま、柱等

    網戸の張替え(次の入居者確保のため)

    網入りガラスの亀裂(構造による自然発生)

④ その他

    専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常清掃を実施)

    エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭い付着なし)

    消毒(台所・トイレ)

    浴槽、風呂釜等の取替え(次の入居者確保のため)の

    鍵の取替え(鍵紛失等のない場合)

    設備機器の故障、使用不能(機械の寿命) 

 

(2)民法621条は任意規定であり、特約による変更は可能ですが、公序良俗や消費者契約法等に違反しないこと必要であることは、修繕等や一部滅失等による賃料減額のところで、述べたとおりです。そして、例えば、標準契約書において「例外としての特約」を交わす場合の注意点は、以下の点です。

 

  ア 明確な合意

最2小判平成17年12月16日判タ1200号127頁(以下、平成17年判決といいます。)は「賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。」とした上で、建物の賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるには「少なくとも、賃借人が補修費用を負担することとなる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(通常損耗補修特約)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」と判断しました。

平成17年判決の事案は「賃借人が住宅を明け渡すときは…負担区分表に基づき修補費用を賃借人の指示により負担しなければならない」という特約があった場合において、入居説明会が開催「すまいのしおり」も配布され、1時間半かけて契約条項の重要部分の説明等がされて、負担区分表の説明がされましたが、このような場合でも、原状回復費用に関する明確な合意がないと判断されました。

なお、平成17年判決の当事者は、賃貸人大阪府供給公社、賃借人一般人でしたが、消費者契約法施行の前の事案であったことに注意する必要があります。

 

 イ 消費者契約法10条

次に、特約が、消費者契約法に違反しないということが必要になります。消費者契約法第10条は、消費者に不利な特約で、その程度が信義誠実原則に反する程度のものについては無効とすると規定しています。例えば、大阪高裁平成16年12月17日判決判時1921号61頁は、住宅の賃借人に通常損耗の原状回復費用を負担させる特約を消費者契約法10条に該当して無効であると判断しています。

参考になるものとしては、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン再改訂版」が示す、特約が有効と認められるための要件です。

 ① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

 ② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

 ③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 

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不動産関連②賃貸業と改正民法・一部滅失等

2021.04.30

1 一部滅失等関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

民法611条

1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

 

(1)1項に関する重要点は、下線に関する部分です。

 改正前民法611条では「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したとき」に、賃借人から賃料減額請求がされて初めて賃料が減額されるということになっていましたが、改正民法では、賃借人から減額請求をされなくても、当然に減額されるということになりました。

 また、改正前民法は、賃料が減額される場合は一部「滅失」に限られていましたが、改正法では「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」として、賃料が減額される場合が拡大されました。この「その他…」については、どのような場合か明確ではなく、解釈に委ねられますが、典型例としては、水害で水浸しになって賃貸目的物が使用できないような場合が考えられます。

 

(2)2項に関する重要点は、同じく下線に関する部分です。

   先ず「滅失」以外の場合は、1項の場合と同様、解釈に委ねられています。

 次に1項と比較した場合「それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは」という文言がありませんから、借主に帰責事由がある場合でも、借主から解除できることになっています。この場合に貸主が被る不利益は、帰責事由ある借主が、債務不履行の一般原則に従って、損害賠償義務を負うという形で、回復されることになります。

 

2 一部滅失関連を契約書で定める場合の検討

  民法の定めといっても、それが任意規定であれば特約(契約)によって修正できること、ただ、契約が行き過ぎると強行法規(公序良俗)に反し無効になることは、修繕関連で述べたとおりです。

  ちなみに、標準契約書における一部滅失関連条項は、以下のとおりであり、その内容を説明します。

 

(一部滅失等による賃料の減額等)

第12条 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする。

2 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、残存する部分のみでは乙が賃借をした目的を達することができないときは、乙は、本契約を解除することができる。

 

(1)重要点は、下線に関する部分です。

民法の規定では、一部滅失等の場合、当然に賃料が減額されるということになっていますが、修繕の範囲や修繕の期間などによって、一部減額する金額や期間に争いが生じうるところです。そこで、上記契約書では、民法611条1項を補完する形で、速やかな通知に基づいて借主と貸主が協議を行い、その協議によって解決を図るような定めとされています。

 

(2)なお、現実には、賃料を減額しなくても、一定期間賃料を免除するとか、代替物件を準備するとか、他の方法で借主が満足することも考えられます。そのような対応が可能かは「その他必要な事項」の中に含まれるかという解釈問題になりますが、より安全を図るのであれば、賃貸人としては「減額の程度」を「減額の要否、程度」とした方がよいと思われます。

 

3 一部滅失等とは

(1)一部滅失等とは、賃借物の物理的な破損だけでなく、設備の機能的な不具合等も含まれることは、改正民法が、賃料減額原因を「滅失」だけでなく「使用及び収益ができなくなった場合」にまで広げたことからも明らかです。

(2)旧法下の裁判例では、一部使用不能が通常の居住を不可能にするほどの状態かを重視する傾向にある(雨漏り部分を面積案分する等)とされていましたが、賃貸住宅管理業者に対するアンケート調査によれば、現場対応として「話し合い」を選択する率が70%を超えていました。それは話し合いの中で、賃料減額に限らず、謝罪、速やかな修繕等、適切な対応がなされてきたということを意味するのかもしれません。現場では、賃借物の使用収益についてトラブルが生じることは決して少ないということはなく、賃料減額原因の文言が拡大された現在、仮に裁判という段階にまでいけば、賃料減額が認められる場合はより増えるように思われます。

ですから、賃貸業者としては、問題が生じた場合は、賃借人と一層誠実に協議していくことが望まれるでしょう。賃借物を使用しているのは賃借人なので、現状は賃貸人にはよくわからないというのが本音でしょうから、賃借人に引き渡す前の段階で重要個所を写真で残しておく等、データを保管しておいた上で、いざ賃借人から修繕等の通知があったときは(これは賃借人の義務とされています、615条)、速やかに賃借物を訪問して現状を確認、今後の対応をスケージュールや費用も踏まえた上で具体的に協議すべきと思われます。

(3)ちなみに、トラブルの原因として多いものは(全てが、賃料減額原因となる訳ではないですが)、風呂が使えない、エアコンが作動しない、配水管の詰まり、上階からの漏水、雨漏りとなっています。

 

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緊急事態宣言とまん延防止等重点措置

2021.04.22

 

 

 

いずれも新型インフルエンザ等特別措置法(以下、特措法といいます。)を根拠としますが、主な違いを説明します。

 

 

 

まん防(まん延防止等重点措置)の根拠条文は、特措法31条の4です。その1項と2項では、以下のような定めがあります。ポイント部分に色付けしています。

 

 

 

第三十一条の六 都道府県知事は、第三十一条の四第一項に規定する事態において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある同項第二号に掲げる区域(以下この条において「重点区域」という。)における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該都道府県知事が定める期間及び区域において、新型インフルエンザ等の発生の状況についての政令で定める事項を勘案して措置を講ずる必要があると認める業態に属する事業を行う者に対し、営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

 

 

 

 2 都道府県知事は、第三十一条の四第一項に規定する事態において、当該都道府県の住民に対し、前項の当該都道府県知事が定める期間及び区域において同項の規定による要請に係る営業時間以外の時間に当該業態に属する事業が行われている場所にみだりに出入りしないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。

 

 

 

他方、緊急事態宣言の根拠条文は、特措法45条です。その1項と2項には、以下のような定めがあります。ポイント部分に色付けしています。

 

 

 

第四十五条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。

 

特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

 

 

 

色付け部分を比較するとわかりやすいのですが、先ず、まん防が都道府県の「区域」に関するものであるのに対し、緊急事態宣言は都道府県「全域」に関わります(ただ、今回大阪府が実施したまん防の対象区域は「大阪府全域」でした。)。

 

次に、1項と2項の定める事項が逆転していますが、まん防が要請できるのは、特定の事業者に対する関係だけでその内容は「営業時間の変更」です。ところが、緊急事態宣言では、要請の対象が学校、社会福祉施設、興行場その他施設とはるかに広い上「当該施設の使用の制限」のみならず「停止」も求めることができます(要請等に違反した場合の過料も、前者は20万円以下、後者は30万円以下と異なります。)。

 

最後に、同じく1項と2項の定める事項が逆転していますが、まん防が住民に要請できるのは、上記事業者の事業所に「出入りしないこと」であるのに対し、緊急事態宣言では、住民の「居宅」等から「外出しないこと」です。

 

 

 

ちなみに、緊急事態宣言が対象とする学校、社会福祉施設、興行場その他の施設とは、以下のようなものです。同じく、今回話題の施設について色付けしています。

 

 

 

法第四十五条第二項の政令で定める多数の者が利用する施設は、次のとおりとする。ただし、第三号から第十三号までに掲げる施設にあっては、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えるものに限る。

 

一 学校(第三号に掲げるものを除く。)

 

二 保育所、介護老人保健施設その他これらに類する通所又は短期間の入所により利用される福祉サービス又は保健医療サービスを提供する施設(通所又は短期間の入所の用に供する部分に限る。)

 

三 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する大学、同法第百二十四条に規定する専修学校(同法第百二十五条第一項に規定する高等課程を除く。)、同法第百三十四条第一項に規定する各種学校その他これらに類する教育施設

 

四 劇場、観覧場、映画館又は演芸場

 

五 集会場又は公会堂

 

六 展示場

 

七 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗(食品、医薬品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売場を除く。)

 

八 ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)

 

九 体育館、水泳場、ボーリング場その他これらに類する運動施設又は遊技場

 

十 博物館、美術館又は図書館

 

十一 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設

 

十二 理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗

 

十三 自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設

 

十四 飲食店、喫茶店その他設備を設けて客に飲食をさせる営業が行われる施設(第十一号に該当するものを除く。)

 

十五 第三号から前号までに掲げる施設であって、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えないもののうち、新型インフルザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の発生の状況、動向若しくは原因又は社会状況を踏まえ、新型インフルエンザ等のまん延を防止するため法第四十五条第二項の規定による要請を行うことが特に必要なものとして厚生労働大臣が定めて公示するもの

 

 

 

  •  大阪府において、令和3年1月に実施された緊急事態宣言では、飲食店が中心になっていましたが、今回4月に実施される緊急事態宣言では、百貨店等が対象になるかです。百貨店側としては、店舗でクラスター等は発生していないと反対していますが、大阪府としては、百貨店等を休業させることで、そこに到来する人数を減らした上で、結果として(街に出たついでに飲食等することを防ぎ)感染拡大を食い止めたいということのようです。

 

 なお、兵庫県や京都府も大阪府と横並びで対応することになりましたが、例えば、梅田で百貨店が休業しているのに三宮で百貨店が開いてると、人の流れがそっちにいってしまうという点もあるのかもしれません。

 

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不動産関連①賃貸業と改正民法・修繕

2021.04.19

 

 最近、村上新村法律事務所は、不動産業者の方とのお付き合いが増えていることから、不動産関連ブログを連載することにしました。手始めは、賃貸業と改正民法との関係について、若干。第1回目は、修繕に関する問題です。

 

1 修繕関連の令和2年改正民法の概要は、以下のとおりです。

(1)先ず、民法606条は、以下のとおり定めています。

 

 1.賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

 2.賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

 

  下線部が、令和2年改正民法による部分です。改正趣旨としては、改正前民法606条では、賃借人の責めに帰すべき事由によって賃借物の修繕が必要となった場合であっても、貸主が修繕義務を負担するのかどうか明確ではなかったので、貸主は修繕義務を負わないということを明確にしたということです。

 

(2)次に、民法607条の2が以下のとおり、追加されました。

 

賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。

 

  改正趣旨としては、改正前民法では、賃借人の修繕権限に関する明確な規定がありませんでした。解釈上、賃借人に修繕権限があるとの解釈がされていましたが、無条件に賃借人が修繕できるとすることも適当ではないため、賃借人が修繕できる場合を明確に定め、貸主と借主の利益の調整を図った規定ということになります。

 

2 修繕関連事項を契約書で定める場合の注意点

(1)ただ、改正民法606条、607条の2は任意規定として、特約による変更は可能とされています。

 そこで、どの程度の修正が可能か問題になりますが、特約の内容が公序良俗に反する場合は民法90条により、あまりに賃借人に不利な特約は消費者契約法10条により、無効となる可能性あります。

(2)具体例による説明

 ちなみに、国土交通省が提供する賃貸住宅標準契約書(以下、標準契約書といいます。)における修繕関連条項は、以下のようになっています。

 

(契約期間中の修繕)

第9条 甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合の修繕に要する費用については、乙の責めに帰すべき事由により必要となったものは乙が負担し、その他のものは甲が負担するものとする。

2 前項の規定に基づき甲が修繕を行う場合は、甲は、あらかじめ、その旨を乙に通知しなければならない。この場合において、乙は、正当な理由がある場合を除き、当該修繕の実施を拒否することができない。

3 乙は、本物件内に修繕を要する箇所を発見したときは、甲にその旨を通知し修繕の必要について協議するものとする。

4 前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められるにもかかわらず、甲が正当な理由なく修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕を行うことができる。この場合の修繕に要する費用については、第1項に準ずるものとする。

5 乙は、別表第4に掲げる修繕について、第1項に基づき甲に修繕を請求するほか、自ら行うことができる。乙が自ら修繕を行う場合においては、修繕に要する費用は乙が負担するものとし、甲への通知及び甲の承諾を要しない。

 

1項は、改正民法606条1項と同じことを述べています。

2項も基本的には改正民法と同様ですが、甲(賃貸人)としてはいきなり修繕費の請求をされても困るので、乙(賃借人)が修繕する際は前もって通知することを求めています。

3項の趣旨は、2項と同様で、甲保護の観点から、修繕前の通知と協議を求めています。民法607条の2号が求めているのは通知(+相当期間の経過)のみなので、協議は契約書で別途定める手続です。ただ、必要な修繕かどうかは、客観的なものとして、最終的には裁判所が決めるものなので「必要な修繕でない」という甲のゴリ押しを認めるものではありません。それは、4項が、正当な理由なく甲が修繕に応じない場合には、乙が修繕でき、また、その費用も1項に基づき甲に請求できる場合があることを定めていることからも明らかだと思います。乙自らが修繕する前に協議の場を踏むことで必要な修繕か否かに関する甲との紛争を事前に防止するものと解されます。

5項は、必要な修繕といっても、軽微なものに関しては、乙が自らの費用で負担し簡易な手続で修繕する方が合理的(賃貸目的物にも大きな影響を与えず、安価・迅速に済む)と考えられることから、民法607条の2の厳格な手続を排除するのと引き換えに、606条1項の例外を認めたものと解されます。

ちなみに、別表4で定めるものは、以下のようなものです。

畳表の取替え・裏返し、障子紙の張替え、ふすま紙の張替え

電球・蛍光灯・LED照明の取替え、ヒューズの取替え

給水栓の取替え、排水栓の取替え

その他費用が軽微な修繕

 

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まんぼう

2021.03.31

今日は、トピックスということで「まんぼう=まん延防止等重点措置」に関するお話です。

 

 令和3年2月に改正され、新型インフルエンザ特別措置法(以下「特措法」といいます。)に追加された「まんぼう」に関する基本的な条文は、以下のとおりです。重要部分に、色付けしています。

 

(感染を防止するための協力要請等)

  第三十一条の六 都道府県知事は、第三十一条の四第一項に規定する事態において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある同項第二号に掲げる区域(以下この条において「重点区域」という。)における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該都道府県知事が定める期間及び区域において、新型インフルエンザ等の発生の状況についての政令で定める事項を勘案して措置を講ずる必要があると認める業態に属する事業を行う者に対し、営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

 2 都道府県知事は、第三十一条の四第一項に規定する事態において、当該都道府県の住民に対し、前項の当該都道府県知事が定める期間及び区域において同項の規定による要請に係る営業時間以外の時間に当該業態に属する事業が行われている場所にみだりに出入りしないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。

 3 第一項の規定による要請を受けた者が正当な理由がないのに当該要請に応じないときは、都道府県知事は、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため特に必要があると認めるときに限り、当該者に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。

 4 都道府県知事は、第一項若しくは第二項の規定による要請又は前項の規定による命令を行う必要があるか否かを判断するに当たっては、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。

 5 都道府県知事は、第一項の規定による要請又は第三項の規定による命令をしたときは、その旨を公表することができる。

 

第八十条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、二十万円以下の過料に処する。

 第三十一条の六第三項の規定による命令に違反したとき。

 

  ポイントは、まん延防止措置が「特定の区域」ついてのもので(31条の6-1項)、要請対象が「事業者」及び「住民」になっていますが(同条1、2項)、要請よりも厳しい「命令」や「過料」の対象になっているのは事業者のみという点です(同条3項、80条1項1号)。

 

 ちなみに、上記改正部分に関する特措法施行令は、以下のとおり定めています。

 

第五条の五 法第三十一条の六第一項の政令で定める措置は、次のとおりとする。

 一 従業員に対する新型インフルエンザ等にかかっているかどうかについての検査を受けることの勧奨

 二 当該者が事業を行う場所への入場(以下この条において単に「入場」という。)をする者についての新型インフルエンザ等の感染の防止のための整理及び誘導

 三 発熱その他の新型インフルエンザ等の症状を呈している者の入場の禁止

 四 手指の消毒設備の設置

 五 当該者が事業を行う場所の消毒

 六 入場をする者に対するマスクの着用その他の新型インフルエンザ等の感染の防止に関する措置の周知

 七 正当な理由がなく前号に規定する措置を講じない者の入場の禁止

 八 前各号に掲げるもののほか、法第三十一条の四第一項に規定する事態において、新型インフルエンザ等のまん延の防止のために必要な措置として厚生労働大臣が定めて公示するもの

 

 31条の6-1項というのは、事業者(店側)に対する規定ですから、上記要請対象者が店側であることは明らかです。結果として、店側としては、マスクをしていない客の入店禁止を求められている訳ですが、その際に話題になっている「会食マスク」をどうするか、注目されるところです。

 

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顧問弁護士④クレーム対応

2021.03.24

クレームの語源は「claim」という単語で、本来は要求・請求といった意味ですが、日本語的には苦情と理解されることが多いようです(いわゆる和製英語とされています。)。ですから、ここでは「商品・サービスに対し苦情を述べられた場合の対策」として話を進め、その中での弁護士・顧問契約の位置づけを説明したいと思います。

 

1 正当か不当か

 苦情の中にも、本来的に不当なものと正当なものがあります。

 例えば、スーパーの店員の態度が気にくわないとクレームを述べ商品を受け取ったにも関わらず代金を支払わないのは明らかに不当です。しかし、商品が痛んでいるからとクレームを述べ代金返還や交換を求めることは、本当に商品が痛んでいるのであれば正当です。ただ、その場合でも過度の損害賠償請求をすると不当になります。

 また、例えば、引越しの際にグラスが壊れたこと自体、殊更問題視して、執拗に元に戻せと迫ることも不当です。グラスが壊れたことを悲しいと思っていることに共感を求めているのかもしれませんが、家族や友人ならまだしも契約の相手方にすぎない引越し業者にそれを求めることは、不当な要求です。壊れた物を元通りにすることは物理的に不能ですし、仮に、修復が可能であったとしても、1万円のグラスを30万円かけて修復するよう求めることは、社会経済的に不能を要求するものだからです。一時期話題になりましたが、土下座を求める構造と似ています。

 ここではわかりやすい例を示しましたが、実際は、不当か正当かが不明確な場合や、両社が混在している場合などもあり、それらの判断は決して容易ではありません。この点をきちんと区別しないまま対応すれば、新たなクレームに発展したり、企業の信用を低下させかねません。他方、不当なクレームに安易に応じたことで、クレーマーが勢いづいたり、他の顧客からの同様の要求を誘引してしまったりということもありえます。

この点、弁護士であれば、クレームに対して、それらが法的に不当か正当かを判断し、適切に対応することができます。

 

2 弁護士による交渉

  弁護士が企業の代理人としてクレーム対応することで、経営者・従業員の方は事業活動に専念することができます。相手が直接クレームを繰り返してきても、企業として基本的な対応(謝罪、交換、弁償等)をした後であれば、なすべきことは終えてるので「弁護士に連絡して下さい。」といえばすみます。

また、弁護士は交渉の専門家ですから、相手のクレームが悪質であったとしても、断固とした交渉を進めることができます。弁護士として刑事告訴や損害賠償請求等の法的手段について知らせることの効果は絶大です。

弁護士が電話したり、内容証明郵便で受任通知や警告書などを送付した途端に、相手からの連絡がなくなることは珍しくありません。

 

3 弁護士による法的対応

(1)刑事手続

相手方の行為がなんらかの犯罪に該当すれば、警察への告訴によって、刑事事件としてもらうことが考えられますが、警察がすべての事案を捜査してくれるというわけでもありません。

そこで、証拠を適宜収集・提出しながら、弁護士が、「告訴状」という形でクレーム行為について法的評価を加えた文書を作成し、警察や検察に相談することで、刑事事件として扱ってもらう方法があります。

(2)民事手続

金銭的なものでいえば、クレームについての損害賠償請求に対する防御、クレームの損害賠償についての債務不存在確認請求訴訟、進んで、クレーム行為に対する損害賠償請求があります。事実を告知すること自体、場合によっては名誉棄損、信用棄損にあたりますし、事実の中に間違ったことや不適切なことを織り込んでいれば、それは明らかに違法な行為です。

クレーム行為を止めさせるものとしては、仮処分手続があります。訴訟は判決に至るまで相応の期間を要しますが、それまでに仮処分手続によって裁判所から面談強要禁止の仮処分を出してもらえれば、法的には相手方からの押しかけや繰り返しの電話が止められます。また、この仮処分手続では、裁判所が相手方の言い分を聴く「審尋」というものが行われますが、その結果、相手方が納得し、クレーム消滅・和解ができることもあります。

(3)証拠収集

証拠は、事案に応じて様々なものがありますが、弁護士であれば、弁護士としての「職権」による収集が可能です。弁護士会を通じた弁護士法23条に基づく照会のように弁護士にしか用いることのできない強力な証拠収集方法もありますし、弁護士であれば、裁判所を通して行う調査嘱託や文書提出命令も的確に用いることができます。匿名、新設アカウントであれば、身元がバレないかといえば、そんなことはありません。

 

4 弁護士との顧問契約の必要性

(1)迅速対応

以上の対応に共通していえることは、迅速かつ的確な対応が大事だということです。

迂闊に交渉を進めてしまうと、思わぬところで相手方に弱みを握られることになりかねません。一度してしまった不用意な説明は、後から撤回・修正することが難しい場合があります。また、対応が遅ければ、それ自体がクレームの理由となったり、相手方を勢いづけたりすることにもなります。さらに、早期の段階で証拠を管理しておけば、後々の対応を円滑に進められます。

迅速かつ的確な対応をするためには、弁護士と顧問契約を交わし日頃から情報共有し、連携しておく必要があります。

顧問弁護士であれば、上記のような細かで手間のかかる数多くの対応もしてくれます。

 

(2)クレームの予防等

顧問弁護士は、クレームが発生する原因を少しでも減らすようにコンプライアンス体制の整備にも協力します。また、企業が顧問弁護士の存在をホームページやパンフレットで表明していれば、それだけでもクレームの予防になるでしょう。

 

当事務所と顧問契約を交わしていただければ、クレーム対策に限らず、各場面に応じて様々なサポートを提供しております。関心があれば、当事務所までご連絡ください。

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ビフォア法人破産⑧支援協の再生計画案の内容

2021.03.09

 

 

はじめに

中小企業再生支援協議会(以下、支援協といいます。)において、再生計画案の内容として記載すべき事項は、支援協事業実施基本要領(以下、要領という。)で定められています。

 

債権放棄の有無にかかわらず記載すべき事項(要領6(5)①~⑦)

(1)当該企業の自助努力が十分に反映されたものとして、①企業の概況、②財務状況(資産・負債・純資産・損益)の推移、③実態貸借対照表、④経営が困難になった原因、⑤事業再構築計画の具体的内容、⑥今後の事業見通し、⑦財務状況の今後の見通し、⑧資金繰り計画、⑨債務弁済計画、⑩金融支援(リスケジュール、追加融資、債権放棄等)を要請する場合はその内容を含むもの。

(2)金融支援を要請する場合は、その内容がリスケであろうと経営者責任の明確化を図る必要があります(要領6(5)⑤)。この点が事業再生ADRとの違いです。事業再生ADRでの役員責任は債権放棄を伴う場合にのみ不可欠とされています。他方、事業再生ADRでは責任の取り方が「退任」と明示されているのに対し、支援協では明確化が求められているに過ぎず、私財提供等でも足りるとされています。中小企業において役員を退任させると事業そのものが立ち行かなくなる場合もあるからです。

(3)権利関係の調整については、債権者間で平等であることを旨とし負担割合については衡平の観点から個別に検討されます(要領6(5)⑦)。

 

上記(1)⑤の事業再構築計画の具体的内容(要領6(5)②~④)

(1)再生計画案成立後最初に到来する事業年度開始の日等における以下の数値基準があります。

① 債務超過の状態にあるときは5年以内を目途に解消されること(但し企業の業種特性や固有の事情等に応じた合理的な理由がある場合にはこれを超える期間でも構いません。)

② 経常損失が生じているときは3年以内を目途に黒字になること(但し上記①括弧書の場合における同じ例外があります。)

③ 再生計画の終了年度(原則として実質的な債務超過を解消する年度)における有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下となること(但し上記①括弧書の場合における同種の例外があります。)

(2)これを事業再生ADRと比較した場合、支援協では中小企業者のみを対象とするという特性から、上記①に関して事業再生ADRでは「3年以内」とされているのに対し支援協では「5年以内を目途」とされかつこの期間を超えることも認めています。上記②に関しても「3年」という点は同じですが、支援協では幅があるという点で上記①と同じです。上記③に関しては事業再生ADRでは触れられていない点です。

(3)債権放棄等の要請を伴わない再生計画案の場合には、数値基準を満たさない再生計画案の策定も許されます(要領6(5)⑨)が、それも中小企業者の特性等に配慮した点です。

 

債権放棄を伴う場合に記載すべき事項

(1)再生計画案が債権放棄等を要請する内容を含む場合は、上記1、2に加えて、破産手続による債権額の回収の見込みよりも多くの回収を得られる見込みが確実など債権者にとって経済的合理性が期待できることを内容として記載する必要があり、併せて支援協の個別支援チーム弁護士における内容の相当性と実行可能性が検証されることになります(要領6(5)⑧、6(6)①)。

(2)なお、この場合にも株主責任の明確化が求められています(要領6(5)⑥)が、その方法についてまでは示されておらず、事業再生ADRでは「株主権利の全部又は一部の消滅」と明示されているのとは異なっています。

 

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