不動産

賃貸住宅管理業法③不当勧誘規制

2021.10.18

 

1 管理業法29条

次のとおり特定転貸事業者等による不当勧誘などが禁止されています。

法第二十九条 

特定転貸事業者等は、次に掲げる行為をしてはならない。

一 特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し、又はその解除を妨げるため、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者に対し、当該特定賃貸借契約に関する事項であって特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

二 前号に掲げるもののほか、特定賃貸借契約に関する行為であって、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるもの

 

規則第四十四条 法第二十九条第二号の国土交通省令で定める行為は、次に掲げるものとする。

一 特定賃貸借契約を締結若しくは更新させ、又は特定賃貸借契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者(以下「相手方等」という。)を威迫する行為

二 特定賃貸借契約の締結又は更新について相手方等に迷惑を覚えさせるような時間に電話又は訪問により勧誘する行為

三 特定賃貸借契約の締結又は更新について深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法により相手方等を困惑させる行為

四 特定賃貸借契約の締結又は更新をしない旨の意思(当該契約の締結又は更新の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示した相手方等に対して執ように勧誘する行為

 

 

2 管理業法29条1号について

(1)背景事情

オーナーに対する勧誘の際、事実でなかったり、断定できないにもかかわらず「サブリース家賃が下がることはない。入居率は確実である。家賃収入は将来にわたって確実に保証される。」、「原状回復費用・維持修繕費用はサブリース会社が全て負担する。」、「周辺相場よりも当社は高く借り上げることができる。」等の文句が使われ、多くのトラブルが発生していました。そこで、1号は、不実告知等を禁止しました。

前回ブログで指摘した誇大広告規制( https://m2-law.com/blog/2927/ )の背景事情も同様ですが、誇大広告規制に違反した場合の罰則が三十万円以下の罰金であるのに対し、不当勧誘規制の罰則は六月以下の懲役若しくは(or)五十万円以下の罰金又は、これの併科(懲役+罰金)となっており、規制の程度は強くなっています(管理業法42条2号、44条10号)。それは、一層被害を発生させやすい危険な行為と考えられるからでしょう。

(2)問題となる場面

①「勧誘をするに際し」とは

ここで「特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し」とは、特定賃貸借契約の相手方となろうとする者がいまだ契約締結の意思決定をしていないときに、特定転貸事業者又は勧誘者が、特定賃貸借契約を締結することを目的として、又は契約を締結させる意図の下に働きかけることをいいます。なお、その後実際に契約が締結されたか否かは問いません。

  ②「解除を妨げるため」とは

ここで「解除を妨げるため」とは、特定賃貸借契約の相手方の特定賃貸借契約を解除する意思を翻させたり、断念させたりするほか、契約の解除の期限を徒過するよう仕向けたり、協力しない等、その実現を阻止する目的又は意図の下に行うことをいいます。なお、実際に契約解除を妨げられたか否かは問いません。

(2)禁止される行為

   故意による事実を告げない行為・不実の告知が禁止されています。

  ② 管理業法29条1号にいう「当該特定賃貸借契約に関する事項であって特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」とは、当該事項に関して告げなかったり、事実と違うことを告げることが、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の不利益に直結するものをいいます。

  ③ 管理業法29条にいう「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」については、特定転貸事業者であれば当然に知っていると思われる事項を告げないような場合には、故意の存在が推認されることになると考えられます。

 

3 管理業法29条2号・規則44条について 

不実告知等以外にも、相手の正常な意思決定を困難にさせるような勧誘がトラブルを多く生んでおりました。そこで、2号では規則44条に定められる次のような行為を禁止しています。

(1)「威迫する行為」の禁止(規則44条1号)

ここで「威迫する行為」とは、相手方等に不安の念を抱かせる行為をいいます。脅迫と異なり、相手方等に恐怖心を生じさせることまでは要しません。

(2)「迷惑を覚えさせるような時間」における電話・訪問による勧誘の禁止(2号)

ここで「迷惑を覚えさせるような時間」とは、相手方等の職業や生活習慣等に応じ個別に判断されます。一般的には、相手方等に承諾を得ている場合を除き、特段の理由なく午後9時から午前8時までの時間帯に電話勧誘又は訪問勧誘を行うことは、本号に該当します。

(3)「相手方等を困惑させる行為」の禁止(3号)

ここでの「その者を困惑させる行為」も、個別事案ごとに判断されます。深夜勧誘や長時間勧誘のほか、例えば、相手方等が勤務時間中であることを知りながら執ような勧誘を行って相手方等を困惑させたり、面会を強要して相手方等を困惑させる行為などが該当します。

(4)「執ように勧誘する行為」の禁止(4号)

ここにいう「執ように勧誘する行為」とは、相手方等が特定賃貸借契約の締結又は更新をしない旨を意思表示した以降、又は勧誘行為そのものを拒否する旨の意思表示をした以降、再度勧誘することをいいます。一度でも再勧誘を行えば本号違反になるとされています。また、勧誘方法や勧誘場所は問いません。

投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

賃貸住宅管理業法②誇大広告規制

2021.10.04

 

 

1 はじめに

  管理業法28条では、特定転貸業者等による誇大広告等が禁止されています。条文は、次のようになっています。

第28条(誇大広告等の禁止)
 特定転貸事業者又は勧誘者(特定転貸事業者が特定賃貸借契約の締結についての勧誘を行わせる者をいう。以下同じ。)(以下「特定転貸事業者等」という。)は、第2条第5項に規定する事業にかかる特定賃貸借契約の条件について広告をするときは、特定賃貸借契約に基づき特定転貸事業者が支払うべき家賃、賃貸住宅の維持保全の実施方法、特定賃貸借契約の解除に関する事項その他の国土交通省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

 長くてわかりづらいですよね。詳しくはこれから解説しますが、おおまかにいうと、業者がサブリースの広告をするときには、実際よりも著しく優良であると誤認させるような広告をしてはならないということが規定されています。

 

2 特定転貸事業者とは

(1)ちなみに、前提として「特定転貸事業者」とは、特定賃貸借契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者をいいます(管理業法2条5項)。

(2)そして「特定賃貸借契約(マスターリース契約)」とは、賃貸住宅の賃貸借契約(賃借人が賃貸人と密接な関係を有する者として国土交通省令で定めるものを除く-賃貸人が、個人である場合の親族・法人である場合の親子会社等)であって、賃借人が当該賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結されるものをいいます(管理業法2条4項)。

 老人ホームやデイケアホームを利用契約という形で運営する場合は「賃貸住宅の賃貸借契約」に関するものではなく、特定賃貸借契約にあたりません(FAQ1(3)5)。また、個人が賃借した賃貸住宅について、事情により、一時的に第三者に転貸するような場合は「事業を営むことを目的」とするものではなく、特定賃貸借契約にあたりません(FAQ1(3)1)。

(3)ここも、少しわかりにくいですが「賃貸住宅」をサブリースする「業者」は「特定転貸事業者」に該当すると考えられます。

 

3 誇大広告等

管理業法28条のタイトルは、誇大広告「等」の禁止です。ここから、実際の条件より優良であるとみせる「誇大広告」が禁止されていることがわかります。では「等」には、何が含まれるのでしょうか。この等には、「虚偽広告」が含まれるとされています。「誇大広告」と「虚偽広告」を併せて、「誇大広告等」と表現されているのです。

ここでいう広告とは何でしょうか。広告と言えば、新聞の折込チラシやテレビCM等が思い浮かびます。最近は、インターネットでも広告を見かけることも多くなりました。管理業法28条が対象とする広告は、その媒体が限定されておらず、すべての媒体でされる広告が対象となります。

 

4 誇大広告等をしてはならない事項

  誇大広告等をしてはならない事項として、管理業法28条では、①賃料に関する事項、②物件の維持等に関する事項、③維持費の分担に関する事項、④解除に関する事項及び⑤その他国土交通省令で定める事項が規定されています。

 

5 「著しく事実に相違する表示」

  管理業法28条では「著しく事実に相違する表示」が禁止されています。どのような場合に「著しく」といえるかは、個別の表示に即して判断されることとなりますが、一般論としては、オーナーとなろうとする者が事実の相違を知ればサブリース契約を締結しようと思わないような場合に「著しく」にあたると考えられています。

 

6 「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」

 管理業法28条では、「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」が禁止されています(具体例については後述します。)。誤認するかどうかは、オーナーの知識にもよるのでは?とも考えられそうです。しかし、ここでのオーナーには、サブリース契約の内容等につき、専門的知識や情報を有していないオーナーが想定されています。したがって、専門的知識のないオーナーを誤認させるような表示は、同条の「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」に該当すると考えられています。

 

7 記載の具体例

 以下では、いくつかの具体的な記載を紹介しながら、解説を行います。ここで紹介しきれなかった具体例については、「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」をご参照ください。

(1)具体例1

 記載例

・「○年家賃保証!」「支払い家賃は計約期間内確実に保証!」

 解説

  判例上、サブリース契約にも借地借家法の適用があるとされています。そして、借地借家法32条では、賃料減額請求が規定されています。賃料減額請求とは、一定の場合に、賃借人(サブリース業者)から賃料の減額を請求できる権利です。家賃保証との記載があるとしても、実際には、賃料が減額される可能性があるのです。したがって、上記の内容のみでは、管理業法28条に違反するものと考えられます。

 管理業法28条に違反しないためには、上記の記載に加え、その記載と隣接する箇所に、「定期的な見直しがあること」等のリスク情報についても表示することが必要になるのです。さらに、実際には、記載の文字の大きさにも注意しなければなりません。

 

(2)具体例2

 記載例

 ・「いつでも自由に解約できます」

 解説

  前述したとおり、サブリース契約にも借地借家法の適用があります。借地借家法では、貸主(オーナー)側から契約を解除するには、「正当な理由」が必要です。そのため、サブリース契約は、オーナーがいつでも自由に解除できるわけではありません。

 

(3)具体例3

 記載例

 ・「30年一括借り上げ」「建物がある限り借り続けます」

 解説

  広告では上記のような記載をしていても、実際には、一定の場合には業者側から解約できる場合があります。業者側からの解約の可能性があるのに、その旨を記載しないことは、管理業法28条に違反すると考えられます。
 この場合、一定の場合には業者側から解約できることを表示しなければなりません。

 

6 まとめ

  以上のように、管理業法では、誇大広告等が禁止されています。管理業法28条の対象となる広告は、チラシやインターネット等媒体の如何を問わないので、広告媒体ごとに注意すべきポイントもあります。
 記載例もいくつか紹介しましたが、これらはあくまでも例であり、実際には広告を見たうえで具体的に検討することが必要になります。

 

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投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

賃貸住宅管理業法①賃貸住宅管理業

2021.09.21

 

1 はじめに

(1)背景事情

 近年、賃貸住宅管理業務を、建物のオーナー自らが行う割合は大幅に減少し、業者に委託するケースが増えています(平成4年度:25%→令和元年度:81.5%)。これは、オーナーの高齢化、相続等に伴う兼業化の進展とそれに伴うアマチュア化、管理内容の高度化などに起因すると考えられています。ただ、賃貸住宅に管理業者が介在することにより、オーナー・管理業者・入居者の三者間でのトラブルも増加してきました。

 これまでも、管理業者の任意登録制度と登録業者のみに課されるルールは存在しましたが、それだけではトラブルを十分に防ぐことが困難となってきたので、不良業者を排除し、業界の健全な発展・育成を図るため、「賃貸住宅の管理業務の適正化に関する法律(以下、管理業法といいます。)」が制定され、その中で新しく賃貸住宅管理業に関する規定が設けられました。

(2)賃貸住宅管理業とは

 管理業法2条2項において「賃貸住宅管理業」は、賃貸住宅の賃貸人から委託を受け事業として行う、以下の①、②の業務と定義されています。

① 賃貸住宅の維持保全業務(点検・清掃・修繕及びそれに係る契約締結の媒介・取次ぎ・代理を含む)

➡ 玄関・通路・階段等の共用部分、居室内外の電気設備・水道設備、エレベーター等の設備等について、点検・清掃等の維持を行い、これら点検等の結果を踏まえた必要な修繕を一貫して行うこととされていて、以下の場合を含みません(FAQ1(2)3)。

Ⅰ 定期清掃業者・警備業者・リフォーム工事業者等が、維持又は管理の「いずれか一方のみ」を行う場合

Ⅱ エレベーターの保守点検・修繕を行う事業者等が、賃貸住宅の「部分のみ」について維持から修繕までを一貫として行う場合

Ⅲ 入居者からの苦情対応のみを行い維持及び修繕(維持・修繕業者への発注等を含む)を行っていない場合

② 賃貸住宅の家賃、敷金、共益費等の管理業務(上記①と併せて行うものに限る。)

2 概要

(1)登録制度(管理業法3条~9条関係)

 賃貸住宅管理業を営もうとする者は、国土交通大臣の登録を受けなければなりません。なお、管理戸数が200戸未満の者の登録は任意ですが(規則3条)、登録すると以下に述べる賃貸住宅管理業者の義務も課せられ、監督処分や罰則の対象にもなることに留意しましょう(FAQ2(1)11、(3)1)。

(2)賃貸住宅管理業者の義務

① 営業所又は事務所ごとに「業務管理者」の配置(管理業法12条)

 なお「業務管理者」になるにあたっての要件は規則14条に規定されており、実務経験の有無、宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士資格の有無によって「業務管理者」になるまでの流れが異なります。

② 管理受託契約の締結前の書面交付(重要事項説明書・管理業法13条)

 管理業務においてオーナーが期待している対応がなされないというトラブルが多いことから「契約を締結するまでに」業務内容等を明確にするための重要事項を記載した書面を交付して説明しなければならないとされました。

 管理業者は、具体的な管理業務の内容・実施方法、一部の再委託に関する事項等を説明する必要があります(規則31条)。この説明は「業務管理者」によって行われることは必ずしも要しませんが「業務管理者」又は一定の実務経験を有する者など専門的な知識及び経験を有する者が行うことが推奨されています。なお、重要事項説明は、オーナーから委託を受けようとする賃貸住宅管理業者自らが主体として行うものであることに留意してください(国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方(以下、考え方といいます)」15頁)。

 なお、重要事項説明については、オーナーが契約内容を十分に理解した上で契約を締結できるよう、説明から契約締結までに1週間程度の期間をおくことが望ましいとされており、説明から契約締結までの期間を短くせざるを得ない場合には、事前に重要事項説明書を送付し、その送付から一定期間後に、説明を実施するなどして、管理受託契約を委託しようとする者が契約締結の判断を行うまでに十分な時間をとることが推奨されています(考え方15頁)。

③ 管理受託契約の締結時の書面交付(管理業法14条)

 賃貸住宅管理業者は、管理受託「契約を締結したときは」オーナーに対し、確定した契約条件を当事者同士で確認できるよう、遅滞なく、必要事項を記載した書面を交付しなければなりません。適正化法13条の重要事項説明書は、契約締結に先立って交付する書面であり、ここでいう締結時の書面とは交付するタイミングが異なる書面ですから、両書面を一体で交付することはできないとされていますので注意しましょう(FAQ3(2)3)。

④ 再委託の禁止(管理業法15条)

 再委託のせいで管理業者の責任内容が不明確になるという例が多かったので、管理業務の再委託は原則禁止になりました。

 管理受託契約に管理業務の一部の再委託に関する定めがあるときは、一部の再委託を行うことができますが、自らで再委託先の指導監督を行わず、全ての管理業務を他者に再委託すること、又は、管理業務を複数の者に分割して再委託して自ら管理業務を一切行わないことは、本条に違反します。

 なお、契約によらずに管理業務を自らの名義で他者に行わせる場合には、禁止されている名義貸し(管理業法11条)に該当する場合があるため、再委託は契約を締結して行う必要があります(以上、考え方19頁)。

⑤ 分別管理(管理業法16条)

 管理業者からの賃料・敷金等の入金の遅れ・不入金のトラブルが多かったことから、事業者の自己の固有の財産等と入居者等から受領する金銭を「分別」する義務が定められました。分別等の方法については、管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭を管理する口座と賃貸住宅管理業者の固有財産を管理する「口座を別」とした上で、管理受託「契約毎」に金銭の「出入を区別した帳簿を作成」する等により勘定上も分別管理する必要があるとされています(規則36条、考え方19頁)。

⑥ 定期報告(管理業法20条

 管理業務の実施状況の不透明や入居者の意見が反映されにくいという問題があったことから、業務の実施状況や入居者からの苦情の発生・対応状況について、オーナーに対して定期報告の義務が課されました。規則40条1項によれば、それは「契約を締結した日から一年を超えない期間ごと」とされています。 

 

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位置指定道路

2021.08.27

というのは、聞きなれない言葉かもしれませんが、建築基準法(以下、単に「法」といいます。)42条1項5号により、接道義務を充たすための道路として取り扱われるものです(接道義務については、https://m2-law.com/blog/2450/ )。例えば、広い土地を分譲して複数の建築物を建てようとした場合、道路に接していない建築物の敷地が発生することがありますが、その場合に広い土地の一部に位置指定道路を設置することで分譲後の建築物の敷地が接道義務を果たすことができるようにするものです。

ところで、ここで道路とされる「広い土地の一部」というのが、共有地を含む私有地であることが多いことから、道路の敷地所有者と通行者との間で通行方法や通行妨害に関する紛争が生じやすいので、これらの紛争に関する裁判所の基本的考え方(最1小判平成9年12月18日、以下、本件最高裁判決といいます。)について説明したいと思います。

なお、図面画像は、本件最高裁判決の「判例解説民事篇・法曹会」からの引用です。

1 事案の概要

 位置指定道路の所有者以外の者(Ⅹら)が位置指定道路所有者(Yら)に対し通行妨害排除・妨害予防請求をした事案です。

 昭和33年頃に分譲住宅団地が開発された際に各分譲地に至る通路として、幅員4mの私道が位置指定道路として指定されました(以下、本件私道といいます。)。30年以上Xらを含む近隣住民等の徒歩及び自動車による通行の用に供されてきており、自動車を利用するXらにとっては、その居住地から公道へ出るには、本件私道の通行が不可欠でした。しかし、YらがXらの自動車通行を図面(A)の近辺に簡易ゲートを置いて妨害するので、原告らは妨害排除及び妨害予防を求めました((A)とは別のもう一方の端は階段状になっていて、仮に平面上の道にしても勾配が急であるため自動車は通行できません。)。第1審はⅩらの請求を認め、第2審もYらの控訴を棄却したところ、Yらが最高裁に上告しました。

2 最高裁の判断

ア 判断枠組み

 最1小判平成9年12月18日(以下、本件最高裁判決といいます。)は「建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。」という判断枠組みを示しました。そして、Xらが位置指定道路を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しており、YらがXらの通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情があるということはできないとして、Ⅹの請求を認めた第2審の判断を支持しました。

イ 理由

 ちなみに、本件最高裁判決が理由とするのは、次の点です。即ち「道路位置指定を受け現実に開設されている道路を公衆が通行することができるのは、本来は道路位置指定に伴う反射的利益にすぎず、その通行が妨害された者であっても道路敷地所有者に対する妨害排除等の請求権を有しないのが原則であるが、生活の本拠と外部との交通は人間の基本的生活利益に属するものであって、これが阻害された場合の不利益には甚だしいものがあるから、外部との交通についての代替手段を欠くなどの理由により日常生活上不可欠なものとなった通行に関する利益は私法上も保護に値するというべきであり、他方、道路位置指定に伴い建築基準法上の建築制限などの規制を受けるに至った道路敷地所有者は、少なくとも道路の通行について日常生活上不可欠の利益を有する者がいる場合においては、右の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、右の者の通行を禁止ないし制限することについて保護に値する正当な利益を有するとはいえず、私法上の通行受忍義務を負うこととなってもやむを得ないものと考えられるからである。」というものです。

 

3 解説

 本件最高裁判決は、Xらの妨害予防・排除請求権を人格的権利として認めるべきである考えたものです。ただ、人格的権利について示された「日常生活上不可欠」という要件は、相当程度厳しいもので、妨害排除請求が必要以上に認められることを防ぐ機能を果たしています。本件のポイントは「自動車を利用するXらにとっては、その居住地から公道へ出るには、本件私道の通行が不可欠」という点にあります。例えば、他に外部の道路への通路がある場合には、係争の道路を通行する方が便利であっても「日常不可欠」とはいえないことが多いでしょう。ところが一旦、通行が日常生活上不可欠であると判断された場合には、道路敷地所有者側にそれを上回る損害が発生しているとして請求が棄却されることはあまり多くないでしょう(「特段の事情のない限り」原則として「敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する」という本件最高裁判決の判断枠組みがそのことを示しています。)。従って、通行者の請求が棄却されるのは、通行者の通行態様が乱暴であるとか、道路の維持管理費用が看過し得ないほど高額にのぼるのに通行者が応分の負担をしようとしないなどの場合に限られるでしょう。

 

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接道義務

2021.08.02

1 はじめに

 今回から暫く、不動産関連ブログの連載です。下手へた画像で申し訳ありません(笑)。ただ、ないよりあった方がマシかと思い、恥を忍んで書いて載せました。絵心があれば、フリーハンドでも、もう少しアジがでるのですが、、、

 さて、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図る法律として、建築基準法(以下、単に「法」といいます。)があります。法では、上記目的から建築物に関し様々な義務が定められており、これから説明する接道義務もそのひとつです。

 

2 接道義務(法43条)

 法43条1項は「建築物の敷地は、道路(省略。)に二メートル以上接しなければならない」と定めており、敷地までの幅員(ふくいん)が連続して2m以上であることが必要と解されています。

 建築基準法施行(昭和25年)以前に存在し若しくは工事中であった建築物の敷地に上記規定は適用されません(法3条2項、既存不適格)。他方、例えば、工事の着手が法の施行後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物の敷地については接道義務の規定が適用されます(同3項3号)ので、接道義務に反する工事を行うことができません。ちなみに、大規模の修繕や模様替とは、建築物の「主要構造部」(法2条5号)の一種以上について過半に行う場合です(同14・15号)。

 

3 建築基準法上の「道路」(法42条)

 それでは「道路」とはどのようなものかというと、それは法42条に規定されていて、1項では「道路」としては幅員4メートル以上が必要な場合を、2項は幅員4メートル未満の道でも「道路」とみなされる場合を規定しています。

 

4 位置指定道路(法42条1項5号)

 法42条1項の「道路」とは、同1号の定める道路(高速道路、国道、都道府県道、市町村道といった公道)や同3号の定める道(公道、私道を含む)等があります。

 また、位置指定道路といって「土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法によらないで築造(上記3号参照)する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの」もあります。例えば、広い土地を分譲して複数の建築物を建てようとした場合、道路に接していない建築物の敷地が発生することがあり、その場合に広い土地の一部に位置指定道路を設置することで分譲後の建築物の敷地が接道義務を果たすことができるようにするものです。

 位置指定道路の所有関係は、面する敷地の所有者らが共有したり分筆所有したりしている場合や、元の地主個人や土地を分譲した業者が所有している場合等様々です。そして、位置指定道路とされた土地の所有者は、位置指定の適法な廃止・変更がされない限り、位置指定道路内に建築物や擁壁を建築できない等の制限を受けます(法44条、45条)。

 

5 みなし道路(2項道路)

 建築基準法の施行時などに既に存在していた幅員4m未満の道は、前述のとおり原則として接道義務における道路にあたりません。しかし、道の幅員のみを理由に過度な建築制限を受けないよう建築の自由に配慮して、一定の場合には道路とみなす規定もあります。

 接道義務の規定ができた昭和25年に現に建築物が立ち並んでいる道で、特定行政庁が指定したものを、法が定める「道路」とみなすのが法42条2項です。このような道は2項道路と呼ばれています。

 2項道路に指定されると、当該道が「道路」とみなされ、道の中心線から水平距離2m後退した線が道路境界線とみなされます。その結果、その境界線よりも道路側には建築物を建てることができなくなります(法44条1項柱書)。これをセットバック義務といいます。なお、2項道路に指定されていなければ、単なる既存不適格物件に過ぎないですから、たとえセットバックをしたとしても、建築物の増築、改築、大規模修繕等は許されません(法3条2項、3項3号)。

 

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不動産関連⑤賃貸業と改正民法・借主債務の保証

2021.06.02

 

 

1 借主債務の保証に関連する改正民法の概要は、以下のとおりです。

(1)個人根保証契約

 

 民法第5款 保証債務 第2目 個人根保証契約

 465条の2

  1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負 う。

  2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

  3 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。

 

① ここで「個人根保証契約」とありますが、典型例は借主の賃料債務等の保証だとされています。

  ポイントは、2項の極度額を定めなければ効力を生じないとする点と3項です。3項で準用する446条2項、3項は、保証契約は書面等でしなければならないとされています。

  注意が必要なのは、1項が「元本、利息…その他云々について、その全部に係る極度額」とされている点です。例えば「極度額元本100万円」など、元本のみに極度額が定められていても無効となります。

② 一番の問題は「極度額」の上限はいくらかという点です。民法には極度額の上限についての規定はなく、解説書などでも抽象的に高額すぎる場合には、公序良俗に反して無効となる場合があるとしか書いておらず、明確な上限は明らかではありません。

  これと関連して、国交省が「極度額に関する参考資料」という資料を公開しており、国交省のHPからダウンロードできますが、この資料では、関係当事者間の協議にあたって参考としてくださいということが書かれているだけで、明確な基準が示されているわけではなく、家賃債務保証業者が負担した額や貸主が最終的に借主から回収できなかった金額、裁判所の判決で保証人が負担すべきとされた金額などをまとめているだけです。

 

  ただ、その中で参考になるものとして、裁判所の判決において、連帯保証人の負担として確定した金額について、最小値が賃料月額の2か月分、中央値が12か月分、平均が13.2か月分、最高値が33か月分という数字がありますが、この最高値が今後も大丈夫かどうかはよく分かりません。

  もう1つ、参考になるものとして、家賃滞納発生にかかる調査結果があり、そこでは最終明渡しまでの平均的な期間・金額として、

  ア 家賃滞納が3.1か月で合意解約の提案を行い合意解約ができたケース

家賃滞納から4.5か月経過後で明渡し、未回収家賃4.1か月分

イ 明渡しの裁判を行うケース

  家賃滞納から4.0か月経過後で訴え提起、判決確定までが7.3か月

 A 任意退去

   その後任意退去時の未回収家賃が7.2か月分

 B 強制退去

   明渡しまでに家賃滞納から9.1か月経過で、未回収家賃が9.7か月分、強制執行費用の平均が50.7万円というものがあります。

 

 ちなみに、不動産管理業者に対するアンケート調査によれば、家賃5万円と仮定した場合の極度額を、120万円以下とするもの(2年分、29.7%)と60万円以下とするもの(1年分、25.5%)が、多いようです。前者は強制退去までを見据えた数字、後者は保証人の平均的な負担額を参考にした数字といえるでしょう。

 

(2)個人根保証契約の元本確定事由

民法465条の4

1 次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
 二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
 三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。

2 前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。

一 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。

二 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

 

注意すべきは、個人根保証契約については、個人貸金等根保証契約(465条の4-2項)と異なり、借主に対する強制執行や借主の破産の場合は確定しないという点です。そもそも、家賃は居住用建物等を使用するための対価であるところ、その性質上、借主の経済状態が悪化したとしても直ぐに建物等を明渡すことにはならず、借主が破産したような場合にこそ、保証人に保証してもらう場面が生じてくるからとされています。

 

(3)債務の履行状況に関する情報提供義務

 

民法458条の2

保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

 

保証人は、必ずしも主債務者の履行状況を知り得る立場にはないので、保証人を保護するために、保証人が負担しなければならない債務について債権者が情報を提供することが求められます。

 

(4)改正附則

 

民法施行附則21条1項は「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。」としています。

 

 ① そうすると、

  ア 2020年4月1日より前に極度額の定めなく締結された連帯保証契約は有効、

  イ 2020年4月1日以降に極度額の定めなく締結された連帯保証契約は無効となります。

 ② 更新後の保証契約については、

  ア 2020年4月1日以降に賃貸借契約が更新された場合

    → 従前、極度額の定めなく締結された連帯保証契約が継続。

  イ 連帯保証人も更新契約書に署名押印した場合

    → 新たな保証契約と認定されると、極度額の定めがない場合は無効となる可能性がある。

③ 一応、このように整理しておきますが、この更新後の保証契約に関しては、議論のありうるところです。

  上記の見解は、神奈川県弁護士会で平成31年3月12日に法務省の担当者より示された見解であり、「①改正法の施行後である2020年4月1日以降に賃貸借契約が合意更新され、②この更新契約書に連帯保証人が署名押印したことにより新たな保証契約が締結されたと評価される場合には、改正民法が適用され、更新契約では連帯保証人の極度額を定めなければならない。」とされています。

  そうしますと、契約書に基づいて自動更新される場合、更新契約をせずに法定更新された場合は、新たな保証契約がないので、従前の保証が生きてきて、極度額の定めがなくても有効ということになります。そして、新たに連帯保証の契約を締結したり、更新契約に保証人が署名・押印するような場合は、新たな保証契約があるということで新報が適用され、極度額の定めがなければ無効ということになります。

  一方で、法務省の立法担当者が執筆した「一問一答民法(債権関係改正)法務商事」という本では、「契約更新について当事者の黙示の合意を根拠とするもの(例えば民法619条1項)と当事者の意思に基づかないもの(例えば借地借家法26条)に分かれ、前者は新法適用、後者は旧法適用となる。」と書かれております。民法619条1項は「賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用または収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借したものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。」という賃貸借の更新を推定した規定です。この書きぶりからすると、合意更新後の賃貸借契約には、新法が適用されるようにも読めます。ただ、保証契約は合意によって更新されていないということで、保証契約は別だとの考え方もあり得るので、そのような考え方が、前述しました法務省の見解かと思います。

  更新時に、保証人の極度額の定めをするのが一番安心でありますが、法務省の見解を前提とすると、上記のとおりとなります。

 

2 保証関連事項を契約書で定める場合の検討

(1)標準契約書における保証関連事項条項は、頭書部分に連帯保証人の住所・氏名・電話番号、極度額の記載欄があり、以下のとおりになっています。

 

(連帯保証人)

第17条 連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。

2 前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。

3 丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。

4 丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。

 

(2)1項については、賃貸借契約が更新された後、保証人が更新後の借主の債務についても責任を負うのかについては議論がありましたが、最高裁平成9年11月13日は、特段の事情がない限り、責任を負うとしています。これを契約書上明記しているものです。

   3項については、確定事由を、民法465条の4の1項3号に定める事由(借主又は保証人の死亡)のみとしています。民法の他の確定事由(保証人の財産に対する強制執行、保証人の破産、同条項1、2号)を排除する趣旨であるかは、解釈の余地があると思います。

 

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不動産関連④賃貸業と改正民法・敷金

2021.05.18

 

 

1 敷金関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

  民法622条の2

 1 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

一 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき。

二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借契約に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

 (1)改正前民法では、敷金の定義や敷金に関する基本的な規定がありませんでした。ただ、敷金に関し形成されていた判例法理や従来の一般的な理解があったので、これを明文化した規定となります。

 (2)敷金の定義(1項括弧書)

 ここで「いかなる名目によるかを問わず」というのは、実質が賃借人の金銭債務を担保する目的であれば、この法律による「敷金」ということになるということで、例えば、関西でよく使われる「保証金」という名目でも内容としては敷金になるという意味です。逆に、「礼金」「権利金」「建設協力金」など、債務の担保として交付されるものではない金銭は、敷金とはなりません。

 (3)敷金返還債務の発生時期(622条の2第1項)

    敷金の発生時期は、賃貸借が終了し「かつ」賃貸物の返還を受けたとき等とされています。これらの返還時期についても、判例法理や従来の一般的な理解を明文化したものですが、①についていうと、賃貸借が終了しても、明渡しが完了するまでは、敷金返還債務が発生しないということ、また、明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にならないということが明らかにされました。

 (4)敷金による優先弁済(当然控除)(622条の2第1項)

    賃貸人は「敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額」を返還する義務を負うとされています。これは、別段「相殺の意思表示を要せず」他の債権者に優先して賃借人に対する債権の弁済を受けることができるということです。

 (5)敷金返還債務の発生前における敷金の効力(622条の2第2項)

   622条の2第2項は、1項により賃借人に敷金返還債務が具体的に発生する前の段階における敷金の効力の規定です。それゆえ、その段階で敷金について、賃貸人が期待できること(賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てること)と賃借人が期待できないこと(賃借人が敷金をその債務の弁済に充てること)を示しています。

 

2 敷金関連事項を契約書で定める場合の検討

(1)標準契約書における敷金関連事項条項は、以下のとおりです。

 

(敷金)

第6条 乙は、本契約から生じる債務の担保として、頭書(3)に記載する敷金を甲に交付するものとする。

2 甲は、乙が本契約から生じる債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって当該債務の弁済に充てることを請求することができない。

3 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を乙に返還しなければならない。ただし、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第15条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引いた額を返還するものとする。

4 前項ただし書の場合には、甲は、敷金から差し引く債務の額の内訳を乙に明示しなければならない。

 

 

 ア 契約条項第6条1項、2項

    この規定は、前述した改正民法の内容に文言を合わせてあります。具体的な敷金の金額については、頭書(3)に記載しておくということになります。

    滞納賃料・原状回復費用以外に「本契約から生じる債務」とは、契約期間中の修繕条項に基づく債務(修繕ブログ参照https://m2-law.com/blog/1644/。標準契約書9条)や借主の債務不履行に基づく損害賠償債務を意味します。

  イ 第6条3項、4項)

   4項は、改正民法と同じく、特段の意思表示なく、当然に賃借人の金銭債務を差し引くということが規定されております。5項は、特に民法の規定があるわけではないのですが、敷金の返還額をめぐるトラブルを防止するために内訳を明示するようにすると規定されています。

(2)敷引特約

   ちなみに、上記下線部と異なり、一定額を控除し残額を返還するという敷引特約を交わしていた場合に、これが消費者契約法10条に違反しないかが問題になります。

この点、最1小判平成23年3月24日民集65巻2号903頁(以下、平成23年判決といいます。)は「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」と一般論を述べました。

ただ、平成23年判決の敷引特約は「契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって、本件敷引金の額が、契約の経過年数や本件建物の場所、専有面積等に照らし、本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また、本件契約における賃料は月額9万6000円であって、本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。」としました。

 

上記判例を参考にすると、賃貸人としては、通常損耗・経年変化について、原状回復義務の範疇で拡張するよりも敷引の範疇で対応する方が幾分容易に思えるところがあります(原状回復ブログ参照、https://m2-law.com/blog/1798/)。その理由は何処にあるのかを詰めて考え、またそれはどこまで許されるのか検討することが、原状回復関連で述べたところと同様、弁護士の力量が試される場面と思われます。

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不動産関連③賃貸業と改正民法・原状回復

2021.05.10

 

 

1 原状回復関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

  民法621条

   賃借人は、賃貸物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃貸物の損耗並びに賃貸物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

(1)賃借人は、期間満了後、賃貸物の返還義務を負い(616条、597条1項)その内容として原状回復義務を負うとされています(598条は、賃借人からみた収去「権」と位置付けます。)。

(2)ただ、その際の通常損耗や経年変化の取り扱いが明確ではありませんでした。判例上は、通常損耗や経年変化について、賃借人は原状回復義務を負わないとされ、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも同様の考え方がとられていました。改正民法では、これらを明文化しました。

 

2 原状回復関連事項を契約書で定める場合の検討

 

(1)標準契約書における原状回復関連事項は、以下のとおりです。

 

(明渡し時の原状回復)

第15条 乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年変化を除き、本物件を原状回復しなければならない。ただし、乙の責めに帰することができない事由により生じたものについては、原状回復を要しない。

2 甲及び乙は、本物件の明渡し時において、契約時に特約を定めた場合は当該特約を含め、別表第5の規定に基づき乙が行う原状回復の内容及び方法について協議するものとする。

 

そして、上記別表には、原則的な「原状回復条件」が定められた上で「例外としての特約」を記載することができるよう空欄が設けられています。

 

 1項は、改正民法の規定に従った原則的な取扱いを示します。ちなみに、別表で貸主の負担されている主なものは、以下のとおりです。一般的に、通常損耗とされているものを水色経年変化とされているものを紫色で示します

① 床

   畳の表替え等(次の入居者確保のためのもの)

   フローリングのワックスがけ

   家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡

   畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥により発生)

② 壁・天井

   テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気やけ)

   壁等の画鋲、ピン等の穴

   エアコン設置による壁のビス穴、跡

   クロスの変色(日照などによるもの)

③ 建具等、ふすま、柱等

    網戸の張替え(次の入居者確保のため)

    網入りガラスの亀裂(構造による自然発生)

④ その他

    専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常清掃を実施)

    エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭い付着なし)

    消毒(台所・トイレ)

    浴槽、風呂釜等の取替え(次の入居者確保のため)の

    鍵の取替え(鍵紛失等のない場合)

    設備機器の故障、使用不能(機械の寿命) 

 

(2)民法621条は任意規定であり、特約による変更は可能ですが、公序良俗や消費者契約法等に違反しないこと必要であることは、修繕等や一部滅失等による賃料減額のところで、述べたとおりです。そして、例えば、標準契約書において「例外としての特約」を交わす場合の注意点は、以下の点です。

 

  ア 明確な合意

最2小判平成17年12月16日判タ1200号127頁(以下、平成17年判決といいます。)は「賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。」とした上で、建物の賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるには「少なくとも、賃借人が補修費用を負担することとなる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(通常損耗補修特約)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」と判断しました。

平成17年判決の事案は「賃借人が住宅を明け渡すときは…負担区分表に基づき修補費用を賃借人の指示により負担しなければならない」という特約があった場合において、入居説明会が開催「すまいのしおり」も配布され、1時間半かけて契約条項の重要部分の説明等がされて、負担区分表の説明がされましたが、このような場合でも、原状回復費用に関する明確な合意がないと判断されました。

なお、平成17年判決の当事者は、賃貸人大阪府供給公社、賃借人一般人でしたが、消費者契約法施行の前の事案であったことに注意する必要があります。

 

 イ 消費者契約法10条

次に、特約が、消費者契約法に違反しないということが必要になります。消費者契約法第10条は、消費者に不利な特約で、その程度が信義誠実原則に反する程度のものについては無効とすると規定しています。例えば、大阪高裁平成16年12月17日判決判時1921号61頁は、住宅の賃借人に通常損耗の原状回復費用を負担させる特約を消費者契約法10条に該当して無効であると判断しています。

参考になるものとしては、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン再改訂版」が示す、特約が有効と認められるための要件です。

 ① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

 ② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

 ③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 

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不動産関連②賃貸業と改正民法・一部滅失等

2021.04.30

1 一部滅失等関連の改正民法の概要は、以下のとおりです。

 

民法611条

1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

 

(1)1項に関する重要点は、下線に関する部分です。

 改正前民法611条では「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したとき」に、賃借人から賃料減額請求がされて初めて賃料が減額されるということになっていましたが、改正民法では、賃借人から減額請求をされなくても、当然に減額されるということになりました。

 また、改正前民法は、賃料が減額される場合は一部「滅失」に限られていましたが、改正法では「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」として、賃料が減額される場合が拡大されました。この「その他…」については、どのような場合か明確ではなく、解釈に委ねられますが、典型例としては、水害で水浸しになって賃貸目的物が使用できないような場合が考えられます。

 

(2)2項に関する重要点は、同じく下線に関する部分です。

   先ず「滅失」以外の場合は、1項の場合と同様、解釈に委ねられています。

 次に1項と比較した場合「それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは」という文言がありませんから、借主に帰責事由がある場合でも、借主から解除できることになっています。この場合に貸主が被る不利益は、帰責事由ある借主が、債務不履行の一般原則に従って、損害賠償義務を負うという形で、回復されることになります。

 

2 一部滅失関連を契約書で定める場合の検討

  民法の定めといっても、それが任意規定であれば特約(契約)によって修正できること、ただ、契約が行き過ぎると強行法規(公序良俗)に反し無効になることは、修繕関連で述べたとおりです。

  ちなみに、標準契約書における一部滅失関連条項は、以下のとおりであり、その内容を説明します。

 

(一部滅失等による賃料の減額等)

第12条 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする。

2 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、残存する部分のみでは乙が賃借をした目的を達することができないときは、乙は、本契約を解除することができる。

 

(1)重要点は、下線に関する部分です。

民法の規定では、一部滅失等の場合、当然に賃料が減額されるということになっていますが、修繕の範囲や修繕の期間などによって、一部減額する金額や期間に争いが生じうるところです。そこで、上記契約書では、民法611条1項を補完する形で、速やかな通知に基づいて借主と貸主が協議を行い、その協議によって解決を図るような定めとされています。

 

(2)なお、現実には、賃料を減額しなくても、一定期間賃料を免除するとか、代替物件を準備するとか、他の方法で借主が満足することも考えられます。そのような対応が可能かは「その他必要な事項」の中に含まれるかという解釈問題になりますが、より安全を図るのであれば、賃貸人としては「減額の程度」を「減額の要否、程度」とした方がよいと思われます。

 

3 一部滅失等とは

(1)一部滅失等とは、賃借物の物理的な破損だけでなく、設備の機能的な不具合等も含まれることは、改正民法が、賃料減額原因を「滅失」だけでなく「使用及び収益ができなくなった場合」にまで広げたことからも明らかです。

(2)旧法下の裁判例では、一部使用不能が通常の居住を不可能にするほどの状態かを重視する傾向にある(雨漏り部分を面積案分する等)とされていましたが、賃貸住宅管理業者に対するアンケート調査によれば、現場対応として「話し合い」を選択する率が70%を超えていました。それは話し合いの中で、賃料減額に限らず、謝罪、速やかな修繕等、適切な対応がなされてきたということを意味するのかもしれません。現場では、賃借物の使用収益についてトラブルが生じることは決して少ないということはなく、賃料減額原因の文言が拡大された現在、仮に裁判という段階にまでいけば、賃料減額が認められる場合はより増えるように思われます。

ですから、賃貸業者としては、問題が生じた場合は、賃借人と一層誠実に協議していくことが望まれるでしょう。賃借物を使用しているのは賃借人なので、現状は賃貸人にはよくわからないというのが本音でしょうから、賃借人に引き渡す前の段階で重要個所を写真で残しておく等、データを保管しておいた上で、いざ賃借人から修繕等の通知があったときは(これは賃借人の義務とされています、615条)、速やかに賃借物を訪問して現状を確認、今後の対応をスケージュールや費用も踏まえた上で具体的に協議すべきと思われます。

(3)ちなみに、トラブルの原因として多いものは(全てが、賃料減額原因となる訳ではないですが)、風呂が使えない、エアコンが作動しない、配水管の詰まり、上階からの漏水、雨漏りとなっています。

 

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不動産関連①賃貸業と改正民法・修繕

2021.04.19

 

 最近、村上新村法律事務所は、不動産業者の方とのお付き合いが増えていることから、不動産関連ブログを連載することにしました。手始めは、賃貸業と改正民法との関係について、若干。第1回目は、修繕に関する問題です。

 

1 修繕関連の令和2年改正民法の概要は、以下のとおりです。

(1)先ず、民法606条は、以下のとおり定めています。

 

 1.賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

 2.賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

 

  下線部が、令和2年改正民法による部分です。改正趣旨としては、改正前民法606条では、賃借人の責めに帰すべき事由によって賃借物の修繕が必要となった場合であっても、貸主が修繕義務を負担するのかどうか明確ではなかったので、貸主は修繕義務を負わないということを明確にしたということです。

 

(2)次に、民法607条の2が以下のとおり、追加されました。

 

賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。

 

  改正趣旨としては、改正前民法では、賃借人の修繕権限に関する明確な規定がありませんでした。解釈上、賃借人に修繕権限があるとの解釈がされていましたが、無条件に賃借人が修繕できるとすることも適当ではないため、賃借人が修繕できる場合を明確に定め、貸主と借主の利益の調整を図った規定ということになります。

 

2 修繕関連事項を契約書で定める場合の注意点

(1)ただ、改正民法606条、607条の2は任意規定として、特約による変更は可能とされています。

 そこで、どの程度の修正が可能か問題になりますが、特約の内容が公序良俗に反する場合は民法90条により、あまりに賃借人に不利な特約は消費者契約法10条により、無効となる可能性あります。

(2)具体例による説明

 ちなみに、国土交通省が提供する賃貸住宅標準契約書(以下、標準契約書といいます。)における修繕関連条項は、以下のようになっています。

 

(契約期間中の修繕)

第9条 甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合の修繕に要する費用については、乙の責めに帰すべき事由により必要となったものは乙が負担し、その他のものは甲が負担するものとする。

2 前項の規定に基づき甲が修繕を行う場合は、甲は、あらかじめ、その旨を乙に通知しなければならない。この場合において、乙は、正当な理由がある場合を除き、当該修繕の実施を拒否することができない。

3 乙は、本物件内に修繕を要する箇所を発見したときは、甲にその旨を通知し修繕の必要について協議するものとする。

4 前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められるにもかかわらず、甲が正当な理由なく修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕を行うことができる。この場合の修繕に要する費用については、第1項に準ずるものとする。

5 乙は、別表第4に掲げる修繕について、第1項に基づき甲に修繕を請求するほか、自ら行うことができる。乙が自ら修繕を行う場合においては、修繕に要する費用は乙が負担するものとし、甲への通知及び甲の承諾を要しない。

 

1項は、改正民法606条1項と同じことを述べています。

2項も基本的には改正民法と同様ですが、甲(賃貸人)としてはいきなり修繕費の請求をされても困るので、乙(賃借人)が修繕する際は前もって通知することを求めています。

3項の趣旨は、2項と同様で、甲保護の観点から、修繕前の通知と協議を求めています。民法607条の2号が求めているのは通知(+相当期間の経過)のみなので、協議は契約書で別途定める手続です。ただ、必要な修繕かどうかは、客観的なものとして、最終的には裁判所が決めるものなので「必要な修繕でない」という甲のゴリ押しを認めるものではありません。それは、4項が、正当な理由なく甲が修繕に応じない場合には、乙が修繕でき、また、その費用も1項に基づき甲に請求できる場合があることを定めていることからも明らかだと思います。乙自らが修繕する前に協議の場を踏むことで必要な修繕か否かに関する甲との紛争を事前に防止するものと解されます。

5項は、必要な修繕といっても、軽微なものに関しては、乙が自らの費用で負担し簡易な手続で修繕する方が合理的(賃貸目的物にも大きな影響を与えず、安価・迅速に済む)と考えられることから、民法607条の2の厳格な手続を排除するのと引き換えに、606条1項の例外を認めたものと解されます。

ちなみに、別表4で定めるものは、以下のようなものです。

畳表の取替え・裏返し、障子紙の張替え、ふすま紙の張替え

電球・蛍光灯・LED照明の取替え、ヒューズの取替え

給水栓の取替え、排水栓の取替え

その他費用が軽微な修繕

 

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投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

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