2022.03.31
令和4年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。その際、一番危惧されていることは、民法上の未成年取消権を使えなくなる年齢層が増えるという点です。
未成年取消権とは、民法5条が定める制度で「未成年が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。…前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」というものです。例えば、親(法定代理人)の同意なく契約(法律行為)をしたとしても、未成年であるならば「未成年という理由だけで」契約を取り消せます。契約の目的物に問題があったというような理由は不要です。
何故、そのような制度が存在するかといえば、未成年者は判断能力に乏しく騙されやすいから定型的な保護が必要という点なのでしょうが、日本の実情からみて未成年の成熟度が増してきているのか(昔と比べて18歳にもなれば立派な判断能力がある)といえば、疑問が湧くところです。建前としては、若者の自己決定権の尊重と世界の趨勢(世界の80%では18歳からが成年)というのが成年年齢引き下げの理由になっていますが、それでいいのかということですね。
国民生活センターが関係するパイオネット情報によれば、18歳から24歳までの若者の相談件数は、以下のとおりで、その半数以上が18歳・19歳です。
全体 18・19歳 割合
2018年 7393 4035 54.5%
2019年 8571 5203 60.7%
2020年 7741 4820 62.2%
相談内容としては、ダイエットサプリ、除毛剤の定期購入、洋服などの模倣品、アダルトサイト等が多く、契約としての要保護性がどこまであるのか疑問もあり、ただ、その目的物に問題(瑕疵)があったと直ちに言い切れるかどうかもわからないので、未成年取消権という武器を失うことは、18・19歳の人には大きなことなのかもしれません。一層の注意が必要です。
以下は、国民生活センターの関連ページです。関心ある方は、どうぞ。
狙われる!?18歳・19歳「金(かね)」と「美(び)」の消費者トラブルに気をつけて!(発表情報)_国民生活センター (kokusen.go.jp)
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2022.03.25
1 はじめに
今回は、所有者不明土地関連法の一つとして制定された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」について解説します(以下「法」と言います。)また、この法に基づく制度を「相続土地国庫帰属制度」といいます。なお、法の施行は、令和5年4月27日からです(「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の施行期日を定める政令」(令和3年12月14日閣議決定))。
2 制度の概要及び制定理由
(1)制度概要
今回創設された相続土地国庫帰属制度は、相続により取得した土地を手放し、国庫に帰属させるための制度です。相続財産等を手放す仕組みとしては、相続放棄(民法939条)も考えられるところです。しかし、今回創設された相続土地国庫帰属制度は、相続放棄と比較すると、その土地のみを手放すことができるという点に特色があります。すなわち、相続放棄をすると初めから相続人とならなかったものとみなされるため、被相続人の財産の全てを取得することができません。しかし、相続土地国庫帰属制度では、取得した財産のうちで当該土地だけを手放すことができるのです。
(2)制定理由
以上のように「土地を手放すための制度」として創設された相続土地国庫帰属制度ですが、なぜこの制度が作られたのでしょうか。
その理由は、主に次の2つです。
ア 土地を手放したいと考える人の増加
まず、1つめとしては、土地を手放したいと考える人が増加していることです。
例えば、既に地元を離れて生活している場合、相続によって地元の土地を取得したとしても今後活用することが見込めなければ、土地所有者としての管理の負担ばかりがかかるということもあります。このような場合には、土地を手放すニーズがあります。
イ 所有者不明土地及び管理不全土地の発生予防
次に、所有者不明土地や管理不全土地の発生予防という理由があげられます。法1条にも、「所有者不明土地の発生の抑制を図ることを目的とする」と明記されているところです。
総論( https://m2-law.com/blog/4048/ )の記事でも述べましたが、所有者不明土地問題の解決のためにアプローチとして、発生予防の視点と利用円滑化の視点が必要です。欲しくもない土地を手放せずに所有し続ける場合について考えると、例えばそのような土地について相続登記をしようとは考えないでしょうし(相続登記がされないことは所有者不明土地の発生原因の一つです。)また、管理も積極的に行いたいとは考えないでしょう。その土地が放置されたまま、さらに相続が繰り返されると、所有者不明土地が発生してしまうことになります。
相続人が土地を手放すことができれば、このような事態を回避することができることになります。
3 要件
では、相続等により取得した土地であればどのような場合でも相続土地国庫帰属制度を使うことができるかといえば、そうではありません。この制度を使うためには、以下の要件を満たす必要があります。
(1)主体に関する要件
まず、「誰が」この国庫帰属制度を利用できるのかという点についてみていきます。
この制度を利用できるのは、原則として、相続又は遺贈により土地所有権の全部又は一部を取得した者です(法2条1項)。
(2)土地に関する要件
次に、「どのような土地」であれば、相続土地国庫帰属制度が使えるのかについてみていきます。
法には、この制度を利用できるための土地の要件として、
①土地上に建物がないこと
②担保権・用益物権が設定されてないこと
③通路など他人による使用が予定されている土地でないこと
④土壌汚染がないこと
⑤境界が不明でなく、所有権の存否、帰属又は範囲の争いがないこ
と
⑥管理・処分に過分の費用・労力を要するような崖地でないこと
⑦通常の管理・処分を阻害するような工作物、車両又は樹木等がな
いこと
⑧通常の管理・処分を阻害するような埋設物がないこと
⑨隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常
の管理又は処分をすることができない土地として政令で定める
もの
⑩その他管理・処分に過分の費用・労力を要しないこと
の10個の要件が定められています(法2条3項、5条1項)。
したがって、相続土地国庫帰属制度を使うためには、当該土地が、上記10個の要件を満たしている必要があります。
4 手続き
それでは、実際には、どのような手続きにより相続土地国庫帰属制度を利用できるのでしょうか。
この制度により土地を手放すための手続きの流れは、①承認申請(法3条)→②法務大臣(法務局)による審査(法5条)→③負担金の納付となっています(法10条)。
負担金というものが出てきました。実は、相続土地国庫帰属制度を利用して土地を手放すのは無料ではないのです。負担金の額は、10年分の土地管理費相当額とされています。負担金の具体的な額や計算方法については、今後政令で定められることとなりますが、目安として、現在の国有地の管理費用が参考になります。
国有地の標準的な管理費用10年分の額は、粗放的な管理で足りる原野で約20万円、市街地の宅地 (200㎡) で約80万円となっています。
したがって、上記負担金の額を考えるにあたっても、この額が一応の目安になると思われます。
また、上記①の承認申請時に、審査手数料も必要となります。
5 まとめ
今回は、新しく制定された相続土地国庫帰属制度につき解説しました。相続土地国庫帰属には、管理に手間のかかる土地を手放し、管理等の負担から解放されるというメリットがあります。しかし、予納金等の費用もかかるなど、全くデメリットがないとはいえないところです。
国相続土地国庫帰属制度は新しい制度で、要件等についてまだまだ様々な議論があるところです。そのため、今後の利用状況が注目されています。実際にこの制度を利用するかどうかを考えるにあたっては、今後の運用状況も参考にしつつ、メリット・デメリット等を考慮して検討する必要があります。
以上
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2022.03.08
第1 はじめに
所有者不明土地が共有地であることは少なくないですが、共有制度に起因して問題が生じている場面が指摘されていたため、共有物の管理・変更規定を見直し、共有物の管理者に関する規定の整備、共有状態の解消を促進する制度が設けられました。以下、それぞれについて、解説します。
第2 共有物の変更・管理規定の見直し
1 民法は、共有物に対する変更・管理・保存といった行為に応じて、単独で出来るのか一定程度の共有者の同意(価格の過半数・全員)が必要なのかを定めています(共有物全体の処分には全員の同意が必要と解釈されています。)。ただ、必ずしもその概念・内容・範囲が明確ではなく、実務上慎重を来す意味で、共有者全員の同意を必要と解した結果、共有者の一部の反対あるいは所在不明によって当該行為を断念せざるをえないという事態が発生していました。それと関連し、以下のような規定の見直しがされました。
2 共有物の変更・管理規定の整理
(1)旧民法と比較しながら新民法を整理すると以下のとおりになります。
旧民法 新民法
変更 全員の同意 251条 全員の同意(軽微変更を除く)251条1項
管理 過半数の同意 252条本文 過半数の同意(軽微変更・管理) 251条1項、252条1項
保存 他の共有者の同意不要 252条但書 他の共有者の同意不要 252条5項
(2)軽微変更
軽微変更とは「形状・効用の著しい変更を伴わないもの」とされています(新民法251条1項)。重要なのは「費用の多寡」が基準とされていない点で、費用が多額になりやすいもの(例えば、砂利道のアスファルト舗装、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事)も「軽微変更」として、過半数の同意で可能な場合があるとされていることです(とはいえ、軽微変更か否かは事後的客観的に裁判所が判断する解釈問題なので、慎重な対応が必要です。)。
(3)管理
従前から、共有物の賃貸については議論がありましたが、新民法252条4項では、短期賃貸借は「管理」行為とされました(例えば、山林等以外の土地賃貸借等は5年、建物の賃貸借等は3年。ただ、借地借家法が適用される場合は別といわれています。)。
(4)所在等不明共有者について
新民法251条2項は、共有物の「変更」について「共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。」としています。
また、新民法252条2項は、共有物の「管理」について「裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。」としています。
第3 共有物の管理に関する規定の整備
1 共有物を使用する一部共有者に対する明け渡し
(1)従前、無断で、共有物を使用する一部共有者に対する明け渡しであったとしても、他の共有者全員の同意を得てしなければならないとする見解が有力でした。しかし、例えば、共有物の賃貸借がされている場合であったとしても、管理行為の一環であれば、過半数の同意で可能な筈です。
(2)そこで、新民法251条1項は、第1文で「共有物の管理に関する事項…は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」とした上、第2文で「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。」としました。
このように改正された結果、原則として、共有者の過半数の同意で一部共有者に対する明け渡しをすることができると解釈されています。ただ、一部共有者の利益にも配慮し、新民法251条3項は「前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」としました。特別の影響を及ぼす場合とは、例えば、一部共有者が共有物を利用できる定めがあるときに、使用者を変更したり、使用条件(期間)を変更したり、使用目的(店舗営業・住居専用)を変更したりする場合とされています(部会資料40・3頁)。
2 共有物の管理者
(1)共有物の管理者の選任についても、過半数で決することができるのか議論があったことから、新民法251条1項括弧書は、これが可能であることを明示し「共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み…)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」としました。
(2)共有物の管理者に関する規定は、以下のとおりです。
第二百五十二条の二
1 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
ア 管理者は、決定された管理事項に従ってその職務を行わなければなりませんが(新民法252条の2-3項)、特段の定めをしていない場合には、共有者の意見を聞くなどしながら、自己の判断で、共有物を適宜管理することになります。
イ 4項では、3項違反の行為は、「共有者に対してその効力を生じない」ことと、「これをもって善意の第三者に対抗することができない」ことが定められており、第三者保護の要件としては善意のみで足りることとなっています。
第4 共有状態の解消を促進する制度
1 裁判による共有物分割
(1)裁判による共有物分割に関する新民法258条の規定は、以下のとおりです。
第二百五十八条
1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(2)ポイントは、以下の点です。
ア 1項では、分割請求できる場合について、「共有者間に協議が調わないとき」のほかに「協議をすることができないとき」が加えられました(従前も、前者に後者が含まれると解されていました。)。
イ 2項2号では、これまで判例が認めてきた価格賠償が新たに明文化されました(最大判昭和62年4月22日参照)。現物分割と価格賠償分割が並列に挙げられており、これらには優劣関係はなく事案に応じて裁判所が適切な方法を選択できます。
ただ、全面的価格賠償が認められるための要件の明文化は見送られましたので、今後も判例(最1小判平成8年10月31日)を参考にする必要があります。ちなみに、上記最高裁判例では「当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される」とされています。
ウ 3項では、競売による代金分割が現物分割・価格賠償分割に劣後するとされています。
エ 4項では、給付命令の内容が明文化されましたが「裁判所は…できる」とされているだけなので、引き換え給付を必要と考えるのであれば、裁判所の職権を促す等の対応が必要な場合があります。
2 所在等不明共有者の持分の取得・譲渡
(1)持分取得の裁判
ア 共有者が他の共有者から持分を取得しようとしても、共有者の一部が特定できない場合には裁判による共有物分割を用いることができません。また、裁判による共有物分割が可能な場合も、裁判では一定の時間がかかることや具体的な分割方法が裁判所の裁量的判断事項でその結果を予測しにくいという問題がります。
そこで、所在等不明共有者の持分を取得しようとする場合、裁判所にその請求ができるようになりました(新民法262条の2)。
イ 新民法262条の2の規定は、以下のとおりです。
第二百六十二条の二
1 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第258条第1項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ 、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。
4 第1項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2)持分譲渡権限付与の裁判
不動産の共有持分のみを売却して得る代金よりも、不動産全体を売却して持分に応じて受け取る代金の方が高額になりやすいことから、所在等不明共有者がいる場合にその持分についての譲渡権限を他の共有者が持てることは重要です。
また、不動産全体を売却する前提として共有物分割や上記持分取得制度を用いる方法では迂遠で手間や費用を要するという問題もありました。
新民法では、これらの問題を解消するため、上記(1)の持分取得の裁判に類似する形で、持分の譲渡権限付与の裁判手続についての規定が設けられました(新民法262条の3)。
以上
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