2021.02.01
私的整理の意義
私的整理とは、法的整理に対する概念です。かつては裁判所を介さない債務整理という意味で、法的整理同様、商取引債務も対象にしていました。ところが、それでは事業価値を毀損するという考えが強くなり、最近では、事業再生を念頭に入れた金融機関等のみを対象として、リスケ、DDS、債権放棄等を求めるものという位置付けが強まっています。以下、そのような意味で私的整理という言葉を扱います。
私的整理の手法
(1)相対型
法的整理の場合、破産法・民事再生法・会社更生法といった確固たる手続が存在しています。ところが、そのようなものが存在しないのが私的整理であり、古くから債権者と債務者とが直接相対で話し合うという形が採られてきました。
私的整理が金融機関等のみを対象とするという理解が強まったとしても、この傾向は変わらず、金融機関等と相対による私的整理というのは現在でもよく選択される方法です。金融機関等が多い場合、一堂に会しバンクミーティングという方法が採られることもありますが、これも債務者自身が独自に開催するのであれば、相対型の私的整理に位置付けられると思います。
(2)第三者介在型
ただ、私的整理の有用性に関する理解が広まるにつれ、現在では、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会(以下、支援協といいます。)、REVIC(地域経済活性化支援機構)といった債権者・債務者以外の第三者が介在する私的整理も発達しています。平成25年末に開発された特定調停スキームも、この1つにあたります(特定調停は、裁判所を介するが当事者間の合意形成を中心に据えた制度です。なお、支援協や特定調停は、私的整理の手法としての外、現在は、経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の解除手続としても利用されています。)。
私的整理の特徴
(1)事業価値の毀損を防げる
ここでの私的整理が、金融機関等のみを対象にした債務支払に関する交渉と理解するなら、商取引債務は対象外となり秘密裏に行われます、結果として、事業価値棄損のリスクを最大限取り除くことができるので、これが1番のメリットです。
(2)金融機関独自の論理がある
他方、相手方が金融機関等のみであることから、そこには銀行法・信金法・信組法・金融庁の監督指針等に基づく独自の論理があります。金融支援の方法にも決まりがあり、それを引き出すにもルールがあります。また、金融機関同士の公平性も重要で、例えばバンクミーティングは同一の日時場所資料により行われることから、金融機関の公平性を担保する意味もあります(ただ、全員がいる場所では本音が出て来ないのも事実です。)。単なる経済合理性だけでは済まされないことも多いです。
(3)全員一致が必要である
法的整理と異なって、多数決で押しきれません。強硬な債権者が存在する場合それを抑える的確な法的手段もありません。結果として、見通しも不安定で、十分な債権カット等ができず、中途半端な債務整理に終わる可能性もあります。
(4)その他
私的整理に共通する特徴として、それほど確固たる手続が存在しないことから、その気になって合意さえ形成できれば柔軟・迅速な対応が可能といった点もあります。
その反面、合意形成面だけでなく進行手続についても当事者間での合意に基づいて行われるものです。ですから、いかなる態度をとるかは各関係者に任されており、私的整理の進行中に強制執行等の個別執行が行われてしまう可能性を排除できません。裁判所の関与がないことから手続の透明性に欠け不公平な結果となる可能性もある、といったデメリットもあります。
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