2021.06.16
1 意義
(1)判例の立場
会社法・商法上、事業譲渡に関する定義規定がなく、解釈に委ねられています。
この点、会社法制定前の「営業譲渡」に関するものですが、最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁は「①一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、②これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に〔平成17年改正前商法〕25条〔現行商法16条、会社法21条に相当〕に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいう」としています。
そして、この解釈は「営業譲渡」が「事業譲渡」に改められた会社法の下でも生きていると考えられていて、①有機的一体性のある財産、②譲受人による事業の承継、③譲渡人の競業避止義務の3要件を満たす場合が、株主総会決議の必要な事業譲渡にあたると考えられています。
(2)競業避止義務について
言い換えると、最高裁の考え方では上記3要件を充足しない場合、株主総会の特別決議は必要でなく、例えば、要件③競業避止義務を特約によって排除した場合には株主総会決議は不要となります。
しかし、最高裁の立場には異論があり、少なくとも要件③譲渡人の競業避止義務は、不要とするのが学説の多数です。このように事業譲渡の意義に関する見解は流動的ですので、単に要件③を外せば総会決議は不要と短絡的に考えるのは危険です。後に最高裁が学説に従って見解を変え要件③は不要と解すると、結果的にそれは株主総会が必要な事業譲渡であったということになり、総会決議を経ていない以上事業譲渡は無効という結果になりかねないからです。そこで、事業譲渡にあたるか否か即ち総会決議が必要か否かは、慎重に検討すべきように思います。
(3)有機的一体性のある財産
要件①で述べたとおり、事業譲渡とは「一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」の譲渡であり、単なる事業用財産または権利義務の集合の譲渡はこれにあたりません。
有機的一体性のある財産の譲渡というためには、譲渡会社の製造・販売等に係るノウハウ等の譲受人による承継が必要であり、単に承継動産・不動産等を用いて同種の事業が行われているだけでは足りません(旭川地判平成7年8月31日判時1569号115頁)。
ちなみに、会社分割の対象は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」とされていて、事業との有機的一体性は求められておらず、その範囲は事業譲渡の場合より広くなります(会社法2条29号、30号)
(4)事業の一部の譲渡とは、たとえば、食品事業とアパレル事業を営んでいる会社が、食品事業だけを譲渡するような場合をいいます(伊藤外「LQ会社法第5版」有斐閣458頁)。
2 法的性質
(1)取引上の行為
事業譲渡は、個々の資産負債や契約上の地位を移転・承継すること(特定承継)を目的とする取引上の行為です。その結果、事業譲渡は、原則として当事者間の合意のみによって行うことができます。この点が、組織再編行為である会社分割では、原則として、株主総会の特別決議が必要とされていることとの違いです。
もっとも、単なる事業譲渡を超えて「事業の全部又は重要な一部を譲渡」する場合には、株主の重大な利害に関わることから株主保護の必要性があり、株主総会の特別決議による承認(会社法467条1項)や反対株主の株式買取請求権(会社法469条1項)が必要になります。
(2)財産の移転や債務の承継
事業譲渡は、個別の資産負債や契約上の地位を移転・承継する取引上の行為という法的性質から、個別資産の譲渡、免責的な債務の移転に関する債権者の承諾、契約上の地位の譲渡に関する相手方の承諾、労働者の移転に関する労働者の同意などについて個々の手続が必要です。この点が、組織再編行為である会社分割では、これらが一般承継として原則不要とされることと違っています(反面、会社分割では、債権者保護手続や労働契約承継法の定めに従わなければなりません。)。
ただ、個別資産の譲渡(会社分割の場合は分割契約に基づく資産承継)の対抗要件具備については、事業譲渡の場合は当然に個々に備える必要がありますが、この点は会社分割も同様です。例えば、個別資産が不動産の場合、別途対抗要件としての登記を具備しなければ第三者(事業譲渡会社・吸収分割会社から、不動産の二重譲渡を受けた者)に対抗することができません。
なお、行政上の許認可については、事業譲渡では原則として許認可の再取得が必要となるため、譲受会社が許認可を取得し直さなければなりません。
3 手続
(1)覚書の締結
会社法467条1項1乃至3号に定める事業譲渡(以下、単に「事業譲渡」といいます。)を行う場合、先ず譲渡会社は譲受会社との間で、事業譲渡の対象となる事業の範囲、事業譲渡の対価、譲渡時期、労働契約の承継の有無等について協議を行います。そして、重要点につき合意に至った場合には、事業譲渡契約の締結前に、覚書を交わすことが多いでしょう。
(2)事業譲渡及び株主総会招集に関する取締役会決議
① 重要な財産の処分及び譲受けに該当する可能性
事業譲渡とは、単なる事業用財産・権利義務の集合の譲渡を超えて「一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」を譲渡することです。したがって、当該会社にとって当然「重要な財産の処分及び譲受け」(会社法362条4項1号)に該当する場合が多いでしょう。すると、事業譲渡契約を締結する場合、取締役会設置会社ではその承認決議が必要になります。
② 株主総会の招集
譲渡会社・譲受会社は、事業譲渡について、上記事業譲渡契約締結に関する取締役会の承認決議と併せて、株主総会の招集も決めることになるでしょう。
(3)事業譲渡契約の締結
譲渡会社・譲受会社は、総会決議が必要な事業譲渡であったとしても、上記取締役会の承認が得られた段階で事業譲渡契約を締結するのが通常です。但し、それは総会決議の承認を条件としたものになります。その際に作成される事業譲渡契約書は、会社法上要求されているものではありませんが、事後の紛争を防止することを目的として作成されます。この点、組織再編行為たる会社分割の場合は、法定事項を定めた組織再編契約や組織再編計画の作成・備置等が求められることが違いです。
(4)株主総会決議
① 招集手続
事業譲渡に関する株主総会を行う場合には、原則として株主総会の2週間(非公開会社においては原則1週間)前までに、株主にその招集通知を発しなければなりません(会社法299条1項)。
② 株主総会決議を必要とする場合
原則として株主総会の特別決議により承認を受けなければならない事業譲渡は、以下の場合です(会社法309条2項11号)。
ア 事業の全部又は重要な一部の譲渡(会社法467条1項1号、2号)
イ 他の会社の事業の全部の譲受け(会社法467条1項3号)
譲渡会社と譲受会社とで違いがあるので、注意してください(事業の重要な一部を譲渡する場合の株主総会決議は、譲渡会社では必要ですが譲受会社では不要です。)
(5)反対株主の株式買取請求権
事業譲渡をする場合、反対株主は、事業譲渡をする会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法469条1項)。事業譲渡が行われた場合、会社の財産状態が大きく変動し、株主の地位に重大な影響を及ぼすことがあるからです。
(6)その他
事業譲渡の効力は、事業譲渡契約で定められた効力発生日に生じます。株主総会決議の承認が条件とされているのであれば、その日ということになるでしょう。もっとも、事業譲渡は特定承継ですから、譲渡会社の有するその他の資産、負債を引き継ぎ、従業員を雇うのであれば、個々に移転等の手続をとる必要があります。
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