2021.02.03
1 内部統制システム(リスク管理体制)とは多義的な概念ですが、法律用語としては「会社の業務の適正を確保するための体制」であると理解されており、株式会社(以下、単に会社といいます。)にはその整備が求められています(348条3項4号、362条4項6号、416条1項ホ)。
具体的には、①損失の危機の管理に関する規定その他の体制、②取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制、③使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制等の整備が求められます(会社法施行規則98条、100条、112条2項)。
2 会社には、それを動かすものとして取締役がいて、それぞれ監視義務を負っています。会社の業務執行は、取締役・従業員によってされますが、その業務執行を他の取締役が監視することで、その適正を確保する訳です。
ただ、一定規模以上の会社になると、取締役が、常時、互いを監視し、また従業員を監視していくことは不可能です。そこで、業務執行の手順を合理的に設定すると共に不祥事の徴候を早期に発見・是正できるよう人を組織化していく、このシステムが内部統制であり、これによってリスク管理をし、業務の適正を確保していくということです。
例えば、取引をする際は、契約書・伝票・領収書といった決められた書類を、作成・保存するようにしておく。そうすれば、取引の際には何をすべきか分り易く効率的な上、不祥事の際も、これを取締役が事後的に確認し是正していくことが容易になります。また、顧客から問題点の指摘があった際は、その内容を文書・記録化し、誰に伝達して誰が対応するかを決めておく。そうすれば、問題についての応対・是正も効率化し、いち早く取締役が会社の業務執行の適正を確保できる訳です。
このとおり、内部統制システムとは、不祥事に関する対応策でもありますので、システム構築には、不祥事対応にたけた弁護士の知識と経験が役立つことは当然です。また、良い内部統制システムを構築するには、会社の業務内容・組織内容を熟知する必要があり、普段から親密な付き合いのある顧問弁護士のよりよく成し得るところです。むしろ、それこそが弁護士を顧問とする最大の利点の1つといえます。
3 ちなみに、内部統制システムを理解する上で、大切なことが2つあります。
(1)1つは、不祥事を完全に予防するものではなく「その確率を費用対効果の観点において合理的な程度にまで引き下げるもの」だという点です(伊藤・大杉外「リーガルクエスト会社法第4版」有斐閣181頁)。不祥事対応のコストが100円である時、これを完全に予防すべく1000万円のコストをかけて内部統制システムを構築していくことは不合理だということです。
(2)もう1つは、内部統制システムは情勢に応じて改善していく必要があるということです。「不祥事は、起こってしまった後ではその発生のメカニズムを知ることは比較的容易であり、将来にはどうすればその再発を防止できるかを考えることは難しくはないが、発生前に将来に生じ得る不祥事を全て予見し、それを防止するための万全の体制を整えることはきわめて困難(不可能)である。」とされています(大杉「企業不祥事の前と後」法学教室360号83頁)。そこで、不祥事が起こったということは内部統制システムに何らかの問題があることが多いのですが、そのようなシステムを構築したこと自体が取締役の監視義務に違反するか否かは、不祥事がなされた時点を基準としてその予見・防止が可能であったか否かという視点から判断されなければならないとされるところです。
しかし、一度そのような不祥事が発覚し世間に知れ渡った場合、そのような不祥事に対応し得る内部統制システムを再構築していくことは、比較的容易であり、また取締役に強く求められているものです。その意味で、新たな手段による不祥事が世間に明らかになった場合、その不祥事の内容と対応を分析することが必要であり、それを的確にし得るのは不祥事対応にたけた弁護士だということです。このような弁護士を顧問とすることで、内部統制システムを改善していくことも容易になります。
4 このとおり、内部統制システム(リスク管理体制)を万全にするという意味で、弁護士を顧問とすることに大きなメリットが存在します。顧問弁護士に関心があれば、当事務所まで相談ください。
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