2023.03.07
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宅地建物取引業を行う場合には、宅地建物取引業の免許を受けなければならず(宅建業法2条2号、3条1項)、無免許で宅地建物取引業を営んだり(無免許事業)、免許を受けた宅地建物取引業者が、自己の名義をもって、他人に宅地建物取引業を営ませたりすること(名義貸し)は禁止されています(宅建業法12条1項、13条1項)。令和3年に、無免許事業等の禁止・名義貸しの禁止に関して、最高裁判所の判決(最3小判令和3年6月29日)がありましたので、今回は、その判決について紹介しようと思います。
【事案の概要】
1 X(個人)は、Aと共に、投資用不動産の売買事業(以下、「本件事業」という。)を行うことを計画し、同計画は、Xは、自らを専任の宅地建物取引士として登録する会社への勤務を継続しつつ、その人脈等を活用し、新たに設立する会社での不動産取引を継続的に行うとの内容であった。
宅地建物取引士の資格を有し、かねてから不動産業を行うことを考えていたBが同計画に加わり、Bは本件事業のためにY(株式会社)を設立、Yの専任の宅地建物取引士として登録の上、Yは宅地建物取引業の免許を取得した。
2 Xは、不動産仲介業者から土地建物(以下、「本件不動産」という。)の紹介を受け、本件事業の一環として本件不動産に関する取引(第三者Cから本件不動産をY名義で購入し別の第三者DにY名義で転売して利益を上げる、現実にはCからYに対する売却が平成29年3月に1億3000万円でなされ、YからDに対する売却が同年4月に1億6200万円でなされた。)を行うことにした。しかし、不動産業に関する知識も能力もなく、必要以上に取引リスクを問題視するBに不信感を覚え、本件不動産に係る取引に限りYの名義を使用し、以降、本件事業にB及びYを関与させないようにしようとAと協議し、XY間で以下のとおりの合意(以下、「本件合意」という。)が成立した(争いがあるが、原審である高裁では、以下のとおり、認定された。)。
①本件不動産の購入・売却にはY名義を使用するが、Xが売り先の選定、売買に必要な事務一切を行い、瑕疵担保責任等の責任もすべてXが負担する。
②本件不動産の売却代金はYが取得し、費用をまかなった上で、Xに対する名義貸し料300万円を受領の上、残額をXに交付する。
③本件不動産取引終了後、XYは共同して不動産取引を行わない。
3 Xは、Yに対し、本件合意(YのXに対する業務委託)に基づき、本件不動産の売却代金から費用、名義貸し料等を控除した残額2319万円余りをYに対して請求したところ、Yは分配に納得していないとして、Xに1000万円を支払った。
4 Xは、Yに対し、本件合意に基づき残額1319万円の支払いを求めたところ、逆に、Yは、本件合意は成立しておらず、支払い済みの1000万円は法律上の原因がないものであると主張し、Xに対し不当利得返還請求をした。
今回のケースは、宅地建物取引業の免許を受けていないXが、免許を受けているYの名義を使って投資用不動産の購入と販売という直接取引を行い、その利益を分配する合意に基づいて、XがYに対して分配の請求をした、という事案です。
なお、前提として、宅建業法12条1項、13条1項、79条、2条2号について、解説します。
【宅地建物取引業の意味】
宅地建物取引業法は、以下のとおり、定めています。
12Ⅰ 第3条1項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。
13Ⅰ 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
79 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
② 第12条第1項の規定に違反した者
③ 第13条第1項の規定に違反して他人に宅地建物取引業を営ませた者
他方、宅建業法第2条第2号に関係する国土交通省の「宅地建物取引業の解釈・運用の考え方」は、以下のとおりです。
1 「宅地建物取引業」について
(1) 本号にいう「業として行なう」とは、宅地建物の取引を社会通念上事業の遂行とみることができる程度に行う状態を指すものであり、その判断は次の事項を参考に諸要因を勘案して総合的に行われるものとする。
(2) 判断基準
① 取引の対象者
広く一般の者を対象に取引を行おうとするものは事業性が高く、取引の当事者に特定の関係が認められるものは事業性が低い。
(注)特定の関係とは、親族間、隣接する土地所有者等の代替が容易でないものが該当する。
② 取引の目的
利益を目的とするものは事業性が高く、特定の資金需要の充足を目的とするものは事業性が低い。
(注)特定の資金需要の例としては、相続税の納税、住み替えに伴う既存住 宅の処分等利益を得るために行うものではないものがある。
③ 取引対象物件の取得経緯
転売するために取得した物件の取引は事業性が高く、相続又は自ら使用するために取得した物件の取引は事業性が低い。
(注)自ら使用するために取得した物件とは、個人の居住用の住宅、事業者 の事業所、工場、社宅等の宅地建物が該当する。
④ 取引の態様
自ら購入者を募り一般消費者に直接販売しようとするものは事業性が高く、宅地建物取引業者に代理又は媒介を依頼して販売しようとするものは事業性が低い。
⑤ 取引の反復継続性
反復継続的に取引を行おうとするものは事業性が高く、1回限りの取引として行おうとするものは事業性が低い。
(注)反復継続性は、現在の状況のみならず、過去の行為並びに将来の行為 の予定及びその蓋然性も含めて判断するものとする。 また、1回の販売行為として行われるものであっても、区画割りして行う宅地の販売等複数の者に対して行われるものは反復継続的な取引に該当する。
以上を参考にすると、本件不動産に関する取引は、XY間では1回限りのものでしたが(⑤)、特定の関係が認められる当事者間での取引でもなく(①)、本件事業を行う目的の下(②)、Yが本件不動産を転売するために取得したものであって(③)、他の宅地建物取引業者に代理又は媒介を依頼して販売したものではありません(④)。従って、本件不動産に関する取引は「宅地建物取引業」にあたると考えられますが、何より、高裁までの事実認定では、本件合意は「名義貸し」によるものと認定されています。
以上の【事案の概要】と【宅地建物取引業の意味】を前提とした最高裁の判断は、以下のとおりです。
【判旨】
宅建業法は、業務の適正な運営と宅建取引の公正とを確保するとともに、宅建業の健全な発展を促進し、これにより購入者等の利益の保護等を図ることを目的とし、宅建業を営む者については免許制度を採用し、無免許者が宅建業を営むこと、宅建業者が自己の名義をもって他人に宅建業を営ませることを禁止している。
宅建業者が無免許者にその名義を貸し、無免許者が当該名義を用いて宅建業を営む行為は、宅建業法12条1項、13条1項に違反し、同法の採用する免許制度を潜脱するものであって、反社会性の強いものというべきである。そうすると、無免許者が宅建業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意は、同法12条1項、13条1項の趣旨に反し、公序良俗に反するものであり、これと併せて宅建業者の名義を借りてされた取引による利益を分配する旨の合意がされた場合は、当該合意も名義を借りる旨の合意と一体とみるべきであって、公序良俗に反し無効である。
本件合意は、無免許者であるXが宅建業者であるYから名義を借りて本件不動産にかかる取引を行い、これによる利益をXYで分配する旨を含むものであり、Xが本件合意の前後を通じて宅建業を営むことを計画していたことがうかがわれることから、本件合意は上記計画の一環としてされたものとして宅建業法12条1項、13条1項の趣旨に反するものである疑いがある。
以上のように述べて、最高裁判所は、宅建業の免許を受けない者が宅地建物取引業を営むために、免許者の名義を借り、当該名義を借りてなされた取引の利益を分配する旨の合意については、宅建業法が無免許事業及び名義貸しを禁止している趣旨に反する合意であるから、そのような合意は無効であると判断し、原審に差し戻しました。
【注意点】
本件では「名義貸し」があったことが前提になっていますので、最高裁の判断は当然と思われますが、どこまでが名義貸しなのかについては、難しいところがあります。
例えば、宅建業法2条2号は「宅地建物取引業」の定義を「宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うものという。」としています。つまり、本件のような土地建物の売買だけでなく売買を媒介する行為についても、業として行うものであれば、それは宅地建物取引業にあたる訳です。では、宅建業者が結果報酬(フルコミッション)で動く外注員を使用して不動産の売買や媒介を行った場合、それは名義貸しにあたるのか等については、事案をよく検討してみる必要があります。
以上
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投稿者:
2022.12.14
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1 今回は先日下された、いわゆる「追い出し条項」に関する最高裁の判断の解説速報です(最1小判令和4年12月12日、以下「令和4年最高裁判決」といい、そこで問題となった事案を「本件」といいます。)。
2 本件の契約書(以下「本件契約書」といいます。)は、賃貸人と賃借人及び賃借人の保証会社(以下、保証会社といいます。)に関するもので、次のような条項(以下、追い出し条項といいます。)がありました。
即ち「保証会社は、賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。」というものです。保証会社によれば、追い出し条項は、賃貸人と賃借人との契約(以下「原契約」といいます。)が終了していない場合であっても、追い出し条項の適用がある旨を主張しています。
ところが、追い出し条項は、消費者契約法(以下、法といいます。)10条に規定する消費者の利益を一方的に害する消費者契約の条項に当たると主張して、大阪の適格消費者団体(通称KC’s)が、追い出し条項の排除を求めた事案です。ポイント部分は、色付けしています。
ちなみに、法10条は「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他法令中の公の秩序に関しない規定(任意規定)の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と定めています。
3 大阪高裁は、要旨次のとおり判断して、KC’sの請求を棄却していました。即ち、追い出し条項は「①賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠ったこと、②保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡が取れない状況にあること、③電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められること、④本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存することという四つの要件(以下「本件4要件」といいます。)を満たすことにより、賃借人が本件建物の使用を終了してその占有権が消滅しているものと認められる場合に、賃借人が明示的に異議を述べない限り、保証会社が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であり、原契約が継続している場合は、これを終了させる権限を保証会社に付与する趣旨の条項であると解するのが相当である。そうすると、本件4要件を満たす場合、賃借人は、通常、原契約に係る法律関係の解消を希望し、又は予期しているものと考えられ、むしろ、追い出し条項が適用されることにより、本件建物の現実の明渡義務や賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を受けるのであるから、本件建物を明け渡したものとみなされる賃借人の不利益は限定的なものにとどまるというべきであって、追い出し条項が信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。」としていました。
ところが、令和4年最高裁判決は、大阪高裁判決の判断を是認できないとしました。その理由は、次のとおりです。即ち「追い出し条項には、原契約が終了している場合に限定して適用される条項であることを示す文言はないこと、保証会社が、本件訴訟において、原契約が終了していない場合であっても、追い出し条項の適用がある旨を主張していること等に鑑みると、追い出し条項は、原契約が終了している場合だけでなく、原契約が終了していない場合においても、本件4要件を満たすときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、保証会社が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であると解される。 そして、追い出し条項には原契約を終了させる権限を保証会社に付与する趣旨を含むことをうかがわせる文言は存しないのであるから、追い出し条項について大阪高裁判決の判断した趣旨の条項(賃借人が建物の現実の明渡義務や賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を受ける条項)であると解することはできないというべきである。」としました。
4 そして、令和4年最高裁判決は、追い出し条項が法10条に規定する消費者契約の条項に当たるか否かについて検討したところ「ア 保証会社が、原契約が終了していない場合において、追い出し条項に基づいて本件建物の明渡しがあったものとみなしたときは、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が消滅していないのに、原契約の当事者でもない保証会社の一存で、その使用収益権が制限されることとなる。そのため、追い出し条項は、この点において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである。 そして、このようなときには、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が一方的に制限されることになる上、本件建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、 賃貸人が賃借人に対して本件建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれるのであって、著しく不当というべきである。」としました。
確かに、本件4要件のうち、要件④(建物を再占有しない賃借人の意思が客観的に看取できる場合)に、賃借人には異議を述べる機会があることを加味すると、それが「一方的に消費者の利益を害する」といえるかが問題になるところ、令和4年最高裁判決は、要件④については「内容が一義的に明らかでないため、賃借人は、いかなる場合に追い出し条項の適用があるのかを的確に判断することができず、不利益を被るおそれがある。」としました。また、賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではないから、賃借人の不利益を回避する手段として十分でない。」としました。
その結果として、令和4年最高裁判決は、追い出し条項は「消費者である賃借人と事業者である保証会社の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるとい うべきである。」として、KC’sの主張を認めました。
投稿者:
2022.09.13
パロディとは「文芸・美術作品等の原作を模し、あるいは滑稽化した作品を指し、原作を揶揄するもの、社会を風刺するもの、原作を利用して新たな世界を表現するもの等」とされますが、実は著作権に関する法的問題でもあります。
例えば、絵画のパロディについていえば、他人の絵画の本質的な特徴を直接感得できることを前提として「原作を模す」といっても、そこには様々な動機や表現方法があり、必ずしも原作者の同意を得られるとは限りません。
すると、原作者の著作権としての同一性保持権(著作物等につき、その意に反して変更・削除・改変を受けない権利、著作権法20条1項)や翻案権(著作物を翻訳・編曲・変形、脚色・映画化、その他翻案〈新たな著作物を創作〉する権利、著作権法27条)を侵害するのではないかが問題になりますが、かといって、原作者の同意がなければ全てが違法といってしまうのも行き過ぎと考えられるからです。
パロディの取扱いは、国々によって異なりますが、日本では、明文の定めを置かない形を採っており、ただ、表現の自由という憲法上の権利(憲法21条)も含んだ関係で、個々に許される場合もあるのではないかが検討される傾向にあります。
ちなみに、左の画像はフェルメールの真珠の耳飾りの少女で、右は、、、(/ω\)
村上としては結構頑張ったつもりですが、そもそも「本質的な特徴を直接感得できる」のかが、争われるのかもしれません(笑)。
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投稿者:
2022.08.16
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新型コロナ感染症(以下、新型コロナという場合があります。)の取り扱いにつき、2類相当とされている現状を5類相当まで引き下げるべきかという議論が高まっています。その目的の1つが、新型コロナの現状に鑑み、保健所・病院等のひっ迫状態を解消させる点にある訳ですが、何故、そのような議論がされるのか、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)を参照に説明したいと思います。
感染症法
第一章 総則
(定義等)
第六条 この法律において「感染症」とは、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症をいう。
3 この法律において「二類感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 急性灰白髄炎
二 結核
三 ジフテリア
四 重症急性呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る。)
五 中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る。)
六 鳥インフルエンザ(病原体がインフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルスであってその血清亜型が新型インフルエンザ等感染症(第七項第三号に掲げる新型コロナウイルス感染症及び同項第四号に掲げる再興型コロナウイルス感染症を除く。第六項第一号及び第二十三項第一号において同じ。)の病原体に変異するおそれが高いものの血清亜型として政令で定めるものであるものに限る。第五項第七号において「特定鳥インフルエンザ」という。)
6 この法律において「五類感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)
二 ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く。)
三 クリプトスポリジウム症
四 後天性免疫不全症候群
五 性器クラミジア感染症
六 梅毒
七 麻しん
八 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
九 前各号に掲げるもののほか、既に知られている感染性の疾病(四類感染症を除く。)であって、前各号に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして厚生労働省令で定めるもの
7 この法律において「新型インフルエンザ等感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 新型インフルエンザ(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
二 再興型インフルエンザ(かつて世界的規模で流行したインフルエンザであってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
三 新型コロナウイルス感染症(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
四 再興型コロナウイルス感染症(かつて世界的規模で流行したコロナウイルスを病原体とする感染症であってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
➡ 第6条は定義規定ですが、通常のインフルエンザは5類に分類されているところ、新型コロナを含む新型インフルエンザ等感染症は、通常のインフルエンザとは別枠扱いになっている点がポイントです。
第三章 感染症に関する情報の収集及び公表
(医師の届出)
第十二条 医師は、次に掲げる者を診断したときは、厚生労働省令で定める場合を除き、第一号に掲げる者については直ちにその者の氏名、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を、第二号に掲げる者については七日以内にその者の年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区(以下「保健所設置市等」という。)にあっては、その長。以下この章(次項及び第三項、次条第三項及び第四項、第十四条第一項及び第六項、第十四条の二第一項及び第八項並びに第十五条第十三項を除く。)において同じ。)に届け出なければならない。
一 一類感染症の患者、二類感染症、三類感染症又は四類感染症の患者又は無症状病原体保有者、厚生労働省令で定める五類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者及び新感染症にかかっていると疑われる者
二 厚生労働省令で定める五類感染症の患者(厚生労働省令で定める五類感染症の無症状病原体保有者を含む。)
➡ 「全数把握疾患(発症例の全数を把握することとされている疾患)」の根拠とされている条文ですが、ここで「厚生労働省令で定める5類感染症」の中には通常のインフルエンザは含まれていません。その意味で、通常のインフルエンザは「定点把握疾患(定点医療機関が届出を行うのみ)」とされています。ところが、新型コロナを含む新型インフルエンザ等感染症は、ここでの対象とされているので全数把握が必要になってきます。
(感染症の発生の状況、動向及び原因の調査)
第十五条 都道府県知事は、感染症の発生を予防し、又は感染症の発生の状況、動向及び原因を明らかにするため必要があると認めるときは、当該職員に一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者、疑似症患者若しくは無症状病原体保有者、新感染症の所見がある者又は感染症を人に感染させるおそれがある動物若しくはその死体の所有者若しくは管理者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。
2 厚生労働大臣は、感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため緊急の必要があると認めるときは、当該職員に一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者、疑似症患者若しくは無症状病原体保有者、新感染症の所見がある者又は感染症を人に感染させるおそれがある動物若しくはその死体の所有者若しくは管理者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。
➡ 12条に加えて、都道府県知事は、新型コロナを含む新型インフルエンザ感染症の患者等に調査等をすることになっていて、情報公表義務を負い(16条)、就業制限通知(18条)、入院勧告(19条)等をすることになっています。この点が、現在、保健所等をひっ迫させることになっていて、この点を改善すべく新型ロロナを通常のインフルエンザと同様、5類相当と取り扱うべきという議論がされている訳です。
(情報の公表)
第十六条 厚生労働大臣及び都道府県知事は、第十二条から前条までの規定により収集した感染症に関する情報について分析を行い、感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報並びに当該感染症の予防及び治療に必要な情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により積極的に公表しなければならない。
2 前項の情報を公表するに当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない。
第四章 就業制限その他の措置
(就業制限)
第十八条 都道府県知事は、一類感染症の患者及び二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者又は無症状病原体保有者に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該者又はその保護者に対し、当該届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができる。
2 前項に規定する患者及び無症状病原体保有者は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。
※ なお、19条は、26条により2類感染症・新型インフルエンザ等についても準用されています。
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投稿者:
2022.08.09
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1 はじめに
前回の記事では、セブンイレブンに対する排除措置命令(<4D6963726F736F667420576F7264202D2030393036323220905695B794AD955C95B68169835A837583938343838C83758393816A2E646F63> (selectra.jp)を素材としてフランチャイズ契約と独禁法上の「優越的地位」に関する考え方をフランチャイズ・ガイドライン(以下、単にGLと略します。)の規定を参照しながら解説しました。
このGLですが、実は、令和3年4月、大幅に改正されています。そこで、今回は、GLについて、①優越的地位の濫用に関する改正を中心に解説するとともに、②その他の改正についても簡単に紹介することとします。
2 GL改正の背景
具体的な改正内容を紹介する前に、そもそも、なぜ今回のGL改正が行われたのかというと、それは、コンビニフランチャイズ問題が背景にあるとされています。
報道等もされているところですが、近年、コンビニエンスストアでの24時間営業に関し本部加盟店間のトラブルが生じています。このような事態を受けて、公正取引委員会は大規模な調査を行い、令和2年9月「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について」を、公表しました(ポイントは、以下のとおり。200902_03.pdf (jftc.go.jp))。
そこで明らかになった問題点をふまえて、今回のGL改正となりました。このような経緯から、内容的にもコンビニフランチャイズを念頭においたと思われる改正が多くなっています。
しかし、今回のGL改正の対象は、コンビニフランチャイズに限定されておらず、他のフランチャイズにも妥当し得るものとなっている点には注意が必要です。
3 優越的地位の濫用についてのGL改正
先ず、優越的地位の濫用に関するGL改正を見ていきます。
前回の記事で紹介したのは「優越的地位にあるかどうか」についてのGLの考え方ですが、これを前提として「優越的地位にある」本部がした行為等が「どのような場合に優越的地位の濫用に当たり得るか」といった想定事例が示されています(GL3(1)ア)。
それでは、今回のGL改正により、どのような事例が追加されたのか、具体的に紹介します。
(1)仕入数量の強制
「本部が加盟者に対して,加盟者の販売する商品又は使用する原材料について,返品が認められないにもかかわらず,実際の販売に必要な範囲を超えて,本部が仕入数量を指示すること又は加盟者の意思に反して加盟者になり代わって加盟者名で仕入発注することにより,当該数量を仕入れることを余儀なくさせること。」
下線部分が「無断発注による仕入数量の強制」として追記されました。もともと仕入数量の強制は想定事例として存在したのですが、今回の改正により、本部が加盟者に無断で仕入れを行うこと等に規制が及ぶことが明確にされました。
(2)見切り販売の制限
GL(注8)では「見切り販売を行うには,煩雑な手続を必要とすることによって加盟者が見切り販売を断念せざるを得なくなることのないよう,本部は,柔軟な売価変更が可能な仕組みを構築するとともに,加盟者が実際に見切り販売を行うことができるよう,見切り販売を行うための手続を加盟者に十分説明することが望ましい」とされました。
正当な理由のない見切り販売の制限は、今回の改正前からも想定事例として規定されていました。今回の改正では、見切り販売の「手続」についても、実質的に見切り販売が可能となるような仕組みづくりを求める注が新設されました。
なお、上記の改正の「望ましい」という部分が、仕組みの構築にまでかかるのか、それとも仕組みの構築自体は本部の義務とされているのかについては、二通りの読み方ができるように思います。この点については、GLの「原案に対する意見の概要及びそれに対する考え方」のなかで「仕組み構築を義務付けるのは行き過ぎではないか」という「意見」に対し「システム管理上やむを得ない事情により複雑なものとなっているのかについては,個別事案ごとの判断を要するものですが,本改正では,柔軟な売価変更が可能な仕組みの構築を慫慂しています」(GL原案に対する意見の概要及びそれに対する考え方No.99)という「考え方」が示されていることから、仕組みの構築自体についても義務というわけではなく「望ましい」とされているものと考えることができます。
(3)営業時間の短縮に係る協議拒絶
「本部が,加盟者に対し,契約期間中であっても両者で合意すれば契約時等に定めた営業時間の短縮が認められるとしているにもかかわらず,24時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由として営業時間の短縮を希望する加盟者に対し,正当な理由なく協議を一方的に拒絶し,協議しないまま,従前の営業時間を受け入れさせること。」
この想定事例は、今回の改正により新設されたものです。ただ、この規定はあくまでも協議の拒絶を禁止しているものですから、協議の結果として合意ができなかったとしても、直ちに優越的地位の濫用に当たると判断されるわけではありません。また、契約書中に協議に関する定めがない場合には、そもそもこの想定事例に当てはまりませんので、協議を拒絶してもそのこと自体は優越的地位の濫用と評価されません。
(4)事前取決めに反するドミナント出店等
ドミナント出店とは、特定の地域に店舗を集中させることですが、GLは、次のようなドミナント出店が「正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合」には、優越的地位の濫用に該当するとしています。
即ち「ドミナント出店を行わないとの事前の取決めがあるにもかかわらず,ドミナント出店が加盟者の損益の悪化を招く場合において,本部が,当該取決めに反してドミナント出店を行うこと。また,ドミナント出店を行う場合には,本部が,損益の悪化を招くときなどに加盟者に支援等を行うとの事前の取決めがあるにもかかわらず,当該取決めに反して加盟者に対し一切の支援等を行わないこと。」は、優越的地位の濫用にあたる場合があります。
この想定事例は、今回の改正で新設されたもので、ドミナント出店自体が直ちに独禁法に違反するものではないとの考え方を前提とした上で、優越的地位の濫用になり得る類型を規定しています。また「事前の取決め」がない場合には、ドミナント出店をしても直ちに優越的地位の濫用にあたるわけではありません。
4 その他のGL改正について
以上は、今回の改正のうち「GL3フランチャイズ契約締結後の本部と加盟者との取引」に関する「(1)優越的地位の濫用について」のものです。今回の改正では、その他に「GL2本部の加盟者募集について」に関する「(3)ぎまん的顧客誘引」の観点からも規定が新設されています。
具体的には、①「人手不足,人件費高騰等の経営に悪影響を与える情報」の開示が望ましいとする規定(GL2(2)ウ)、②ドミナント出店に関して配慮を行う旨を提示する場合にはその配慮の具体的内容を明らかにしたうえで取り決めに至るよう留意することを促す規定(GL2(2)ア(注3))及び③募集時の説明におけるモデル収益等が予想収益と誤認されないように求める規定(GL2(2)イ(注4)、が新設されています。
このうち、①は優越的地位の濫用のところで解説した時短営業等に関わるものであり、②は、優越的地位の濫用の箇所で解説したドミナント出店に関する規定と関係するものです。
時短営業やドミナント出店は、主として、契約前は「ぎまん的顧客勧誘」の観点から問題となり、契約後は「優越的地位の濫用」の観点から問題となるため、このように複数の規定がされたものと思われます。
5 まとめ
今回以上のような改正がされましたので、本部としても、この改正GLを踏まえた態勢を整えておく必要があると思われます。
また、今回解説したのは、独禁法関係の一部についてです。独禁法上問題がない場合でも、例えば民事上の問題が生じる場合もあり得るところですし、逆に民事上の問題に独禁法の問題が関係してくることもあり得ます。
本部としては、フランチャイズ・システムには複数の法規制等があることを意識して、適切な対応をとれるように契約書の整備などをしておく必要があると思われます。
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投稿者:
2022.07.21
1 はじめに
コンビニ最大手のセブン‐イレブン・ジャパン(以下「セブンイレブン」といいます。)は、公正取引委員会から排除措置命令(平成21年(措)第8号、ただし改正前の独占禁止法第二〇条第一項、同第二条第九項第五号・不公正な取引方法第十四項第四号、以下「平成21年措置命令」といいます。)を受けたことがあります(<4D6963726F736F667420576F7264202D2030393036323220905695B794AD955C95B68169835A837583938343838C83758393816A2E646F63> (selectra.jp)。
平成21年措置命令については、村上新村法律事務所のアメブロ記事で解説したことがありますが(フランチャイザーの優越的地位の濫用 | 村上・新村法律事務所のブログ (ameblo.jp))、同命令は、セブンイレブン本部が加盟者との関係で優越的地位にあることを前提にしたものであることから、今回は、フランチャイズと独禁法上の「優越的地位」について、少し掘り下げて解説してみます。
2 フランチャイズと優越的地位の濫用
(1)アメブロ記事の振返り
独占禁止法(以下「独禁法」といいます。)は、優越的地位の濫用を禁止しています(独禁法2条9項5号)。しかしながら、フランチャイズ・システムにとって、本部の統制等は、本質的なものであり、また、そのこと自体に重要な価値があります。そのため、本部による統制の全てが独禁法に違反するとすれば、それはフランチャイズ・システム自体の否定を意味します。しかし、公正取引委員会も、フランチャイズ・システム自体が直ちに独禁法に違反するとはしていません。
逆に、公正取引委員会は、フランチャイズと独禁法の関係についてのガイドラインを公表しています。そこでは、今回のテーマである「優越的地位の濫用」について、「加盟者に対して取引上優越した地位(注7)にある本部が,加盟者に対して,フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超えて,正常な商慣習に照らして不当に加盟者に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施する場合には,フランチャイズ契約又は本部の行為が独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当する。」と規定されています(フランチャイズガイドライン〈以下、FCGLということがあります。〉3(1))。
ここまでは、アメブロ記事で解説したところです。
(2)「優越した地位」
今回は、「優越的地位の濫用」の前提として、いかなる場合に本部が「優越した地位」(優越的地位)に当たると判断されるのか、その判断の要素や方法についてみてみたいと思います。もう一度前記FCGLを見てみると「「加盟者に対して取引上優越した地位(注7)」と規定されていて、その(注7)には、以下のように規定されています。
「フランチャイズ・システムにおける本部と加盟者との取引において,本部が取引上優越した地位にある場合とは,加盟者にとって本部との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,本部の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても,これを受け入れざるを得ないような場合であり,その判断に当たっては,加盟者の本部に対する取引依存度(本部による経営指導等への依存度,商品及び原材料等の本部又は本部推奨先からの仕入割合等),本部の市場における地位,加盟者の取引先の変更可能性(初期投資の額,中途解約権の有無及びその内容,違約金の有無及びその金額,契約期間等),本部及び加盟者間の事業規模の格差等を総合的に考慮する。」
細かく読みづらいかと思いますが、大まかにいうと、諸事情を総合した上で、加盟店が本部からの不利益な要請についても従わざるを得ないような場合に本部が「優越的地位」にあると判断されるというように言ってよいかと思います。そして、ここで考慮される事情というのが、①加盟者の本部に対する取引依存度、②本部の市場における地位、③加盟者の取引先の変更可能性、④本部及び加盟者間の事業規模の格差等というわけです。
3 平成21年措置命令について
ガイドラインの規定だけを見ていても抽象的で分かりづらいところがあると思いますので、上記のガイドラインに即して、セブンイレブンの平成21年措置命令の判断を説明するとどうなるかを解説してみたいと思います。
平成21年措置命令では、優越的地位に関する結論部分において、「前記アからエまでの事情等により,加盟者にとっては,セブン-イレブン・ジャパンとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなり,このため,加盟者は,セブン-イレブン・ジャパンからの要請に従わざるを得ない立場にある。したがって,セブン-イレブン・ジャパンの取引上の地位は,加盟者に対し優越している。」と判断されています。
そこで、重要なのが「前期アからエまでの事情等」になるわけですが、このアからエの概要は以下のようなものでした。
ア:セブンイレブンがコンビニフランチャイズの中で最大手の事業者であるのに対して加盟者のほとんどが中小の小売事業者であること等
イ:加盟店基本契約の期間が15年であり、基本契約のタイプに応じて、契約期間終了後に1年間の競業避止義務が課されたり、店舗の返還を求められること等
ウ:セブンイレブンが加盟店に対し、推奨商品の仕入れ先を提示し、加盟店で販売されている商品のほとんどすべてが推奨商品であること等
エ:セブンイレブンが加盟店の所在地区に経営相談員を配置し、同相談員を通じて加盟店に対し経営に関する指導,援助等を行い、加盟店がこれに従った経営を行っていること等
上記のア~エの事情が具体的にどのように評価されているのかまでは措置命令自体からは直ちに明らかではありません。
もっとも、上記アの事情は、ガイドライン(注7)のいうところの「本部の市場における地位」や「本部及び加盟者間の事業規模の格差」に関係する事情と考えられ、平成21年措置命令の事案では、本部の市場における地位は強く、本部・加盟者間の事業規模の格差も大きかった等と評価されている可能性があります。
また、上記イの事情は、加盟店の取引先の変更可能性が乏しいとの評価につながる事情と考えられます。
さらに、上記ウ及びエの事情は、加盟店の本部に対する取引依存度が大きいことを示す事情と評価されるものと思われます。
以上を踏まえると、平成21年措置命令の事案では、「コンビニフランチャイズ市場で強力な地位を占める本部とほとんどが中小事業者である加盟店の事業規模の格差は大きく、本部が商品の仕入れや経営の指導等を行うことにより、加盟店の本部への依存度は高いことに加え、契約期間や競業避止義務の関係からしても、加盟店は、その取引先を変更することが難しく、加盟店としては、加盟店が本部からの不利益な要請についても従わざるを得ないような状況にあった(=本部が優越的地位にある)」というような評価がされていたのではないかと考えられるところです。
4 まとめ
以上のように、そもそも本部が独禁法上の「優越的地位」にあるかどうかは、公正取引委員会が公表しているフランチャイズガイドラインに記載されている考慮要素を事案に応じて評価・検討して考えていくことになると思われます。
もっとも、最終的には諸事情を総合的に考慮することになりますので、微妙な判断となる可能性が高いと思われます。さらに本部が優越的地位にあることによってどのようなリスクがあるか等については、個別の事案に応じた検討が不可欠と思われます。
そのため、本部として、「優越的地位」にあるかどうか(どの程度優越的地位にあると判断される可能性があるか)や、そのことによってどのようなリスクがあり、これにどう対処すべきか等について関心があれば、当事務所などフランチャイズ契約を得意とする事務所にご相談ください。
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投稿者:
2022.07.05
画像は、中小企業庁が公表している、業況判断DI(ディフュージョンインデックス)というもので、中小企業において、景気が良いと「思っている」企業数から景気が悪いと「思っている」企業数を差し引いた指数です。2020年4月~6月期(Q1)の落ち込みが激しいのがコロナの影響とされますが、業種間差が激しい(黄色の製造業・緑色のサービス業の落ち込みが著しい)というのが、コロナ不況の特徴の一つでもあります(コロナ不況の特徴については、https://m2-law.com/blog/1958/ )。
ただ、回復傾向にあるといえ、2022年になっても全体的な業況は-20~-40ですから、依然として厳しい状況とされています。
そのような中、中小企業の事業再生スキームとして新たに定められたのが、中小企業事業再生GLで、第一弾としてその概要を解説しましたが( https://m2-law.com/blog/1216/ )、今回はGLにおける私的整理手続(再建型・廃業型)の具体的内容の解説です。
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1 再生型
(1)再生型私的整理手続の申出
ア 主要債権者(金融債権額のシェア上位50%に達するまでの対象債権者)に対し、再生型私的整理手続の申出
イ 主要債権者全員の同意を得て、第三者支援専門家を選定
(2)第三者支援専門家による支援開始
主要債権者の意向を踏まえて、再生支援を行うことが不相当ではないと判断された場合に支援が開始されます。
(3)一時停止の要請(資金繰りの安定のために必要な場合)
対象債権者全員に、書面で同時に一時停止の要請(私的整理手続一般における、一時停止の概要については、https://m2-law.com/blog/1277/ を参照下さい)
ア 中小企業者・対象債権者間で良好な取引関係が構築されていること
イ 再生の基本方針が示されていること
(4)事業再生計画案の立案
外部専門家の支援を受け、第三者支援専門家、主要債権者と協議の上、事業再生計画案を立案
※ 内容・数値基準は、以下のとおりで、中小企業再生支援協議会による再生スキームとほぼ同じです(GL第三4.(4)①イ~ニ 支援協スキームについては、https://m2-law.com/blog/1427/ を参照下さい。)。
ア 内容は、以下のとおりです。
① 企業の概況
② 財務状況(資産・負債・純資産・損益)の推移
③ 保証人がいる場合はその資産と負債の状況(債務減免等を要請する場合)
④ 実態貸借対照表(返済猶予の場合は必須ではない)
⑤ 経営が困難になった原因
⑥ 事業再生のための具体的施策
⑦ 今後の事業及び財務状況の見通し
⑧ 資金繰り計画(債務弁済計画を含む)
⑨ 金融支援(債務返済猶予や債務減免等)を要請する場合はその内容
イ 数値基準(再生計画案成立後最初に到来する事業年度開始日から起算)の内容は、以下のとおりです。
① 実質的に債務超過である場合は、5年以内を目途に実質的な債務超過を解消する(企業の業種特性や固有の事情等に応じた合理的な理由がある場合にはこれを超える期間を要する計画を排除しない)
② 経常利益が赤字である場合は、概ね3年以内を目途に黒字に転換する(但し上記①括弧書と同じ例外あり)
③ 事業再生計画の終了年度(原則として実質的な債務超過を解消する年度)における有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下となる(但し上記①括弧書と同じ例外あり)
(5)第三者支援専門家による事業再生計画案の調査
計画案の相当性、実行可能性、金融支援の必要性等の調査
(6)債権者会議の開催
ア 事業再生計画案の内容説明
イ 第三者支援専門家による調査報告
ウ 質疑応答、意見交換
エ 意見(同意不同意)表明の期限の設定
(7)事業再生計画の成立
全対象債権者が同意し第三者支援専門家がその旨を文書等で確認した時点で成立
(8)事業再生計画成立後のモニタリング
3年間を目処に
2 廃業型
(1)廃業型私的整理手続の申出
主要債権者に対し、廃業型私的整理手続の申出
(2)外部専門家による支援開始
主要債権者の意向を踏まえて、資産負債及び損益状況の調査検証、弁済計画案策定の支援等
(3)一時停止の要請(資金繰りの安定のために必要な場合)
対象債権者全員に、書面で同時に一時停止の要請
中小企業者・対象債権者間で良好な取引関係が構築されていること
(4)弁済計画案の立案
外部専門家の支援を受け、主要債権者と協議の上、弁済計画案を立案
※ 弁済計画案の内容は、以下のとおりで、再建型の場合以上に簡潔です(GL第三5.(3)①イ)。
① 企業の概要
② 財務状況(資産・負債・純資産・損益)の推移
③ 保証人がいる場合はその資産と負債の状況
④ 実態貸借対照表
⑤ 資産の換価及び処分の方針並びに金融債務以外の弁済計画、対象債権者に対する金融債務の弁済計画
⑥ 債務減免等を要請する場合はその内容
(5)第三者支援専門家による弁済計画案の調査
ア 主要債権者全員の同意を得て、第三者支援専門家を選定
イ 第三者支援専門家による弁済計画案の相当性、実行可能性等の調査
※ 廃業型の場合は、再生型と異なり、弁済計画案の調査の段階で、第三者支援専門家が入ります(GL第三5.(4)①)。
(6)債権者会議の開催
ア 弁済計画案の内容説明
イ 第三者支援専門家による調査報告
ウ 質疑応答、意見交換
エ 意見(同意不同意)表明の期限の設定
(7)弁済計画の成立
全対象債権者が同意し第三者支援専門家がその旨を文書等で確認した時点で成立
(8)弁済計画成立後のモニタリング
弁済計画に沿った資産の換価及び処分等が適時・適切に実行されているかについて、報告を受けて履行状況を確認
投稿者:
2022.06.20
1 はじめに
令和4年3月、中小企業の事業再生等に関する研究会が「中小企業の事業再生に関するガイドライン」を発表しました(以下、中小企業事業再生GL、若しくは、単にGLといいます。)。GLは3部構成になっていて、第一部では「ガイドラインの目的等」が示され、第二部では「中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方」として、有事における中小企業者と金融機関の対応等が示されています。そして、第三部が「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」です。
今回は、第三部を中心に簡単な解説をしていきます。先ずは、概要と関係者の説明です。
2 中小企業事業再生GLに定める私的整理手続の位置づけ
(1)GL第三部に定める私的整理手続は、準則型の私的整理手続で、経営困難な状況にある中小企業者である債務者を対象に、法的整理手続によらずに、債務者である中小企業者と金融機関等の債権者との合意に基づき、債務について、返済猶予、債務減免等を受けることで、中小企業者の円滑な事業再生や廃業を行うことを目的としています(私的整理手続の概要については、https://m2-law.com/blog/1216/ を参照下さい。)。
(2)似ている制度として中小企業再生支援協議会スキーム(以下、支援協スキームといいます。)を利用した私的整理手続があり、どちらも、第三者介在型の私的整理手続ですが、両者の立ち位置を図式化し比較すると以下のとおりになり、支援協スキームが「官」を介在した手続であるのに対し、中小企業事業再生GLは「民」を介在した手続となります。
【支援協スキーム】 【中小企業事業再生GL】
中小企業再生支援協議会 第三者支援専門家
対象債務者 ⇔ 対象債権者 対象債務者 ⇔ 対象債権者
両制度の大雑把な違いは以下のとおりです。
|
中小企業事業再生GL |
支援協スキーム |
手続関与者 |
第三者支援専門家(民) |
再生支援協議会(官) |
対象債権者 |
リース債権者も対象 |
リース債権者は対象外 |
対象債務者 |
学校法人、社会福祉法人等も利用可 |
学校法人、社会福祉法人等は利用不可 |
3 対象債務者・対象債権者等
(1)対象債務者
(ⅰ)中小企業者(中小企業基本法2条1項)
※ 個人である中小企業者、学校法人、社会福祉法人等も対象としています(GLQ&A3)。
※ 基本法2条5項の小規模事業者も含まれます(おおむね常時使用する従業員の数が20人以下、商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については、5人以下)。なお、小規模事業者については、後述の数値基準が緩和されています(GL第三部1.4(4)②参照)。
(ⅱ)要件
ア 再生型私的整理手続
① 収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じることで経営困難な状況に陥っており、自助努力のみによる事業再生が困難であること
② 中小企業者が対象債権者に対して中小企業者の経営状況や財産状況に関する経営情報等を適時適切かつ誠実に開示していること
③ 中小企業者及び中小企業者の主たる債務を保証する保証人が反社会的勢力又はそれと関係のある者ではなく、そのおそれもないこと
イ 廃業型私的整理手続
① 過大な債務を負い、既存債務を弁済することができないこと又は近い将来において既存債務を弁済することができないことが確実と見込まれること(法人の場合は債務超 過の場合を含む)
② 円滑かつ計画的な廃業を行うことにより、中小企業者の従業員に転職の機会を確保できる可能性があり、経営者等においても経営者保証に関するガイドラインを活用する等して、創業や就業等の再スタートの可能性があるなど、早期廃業の合理性が認められること
③ 中小企業者が対象債権者に対して中小企業者の経営状況や財産状況に関する経営情報等を適時適切かつ誠実に開示していること
④ 中小企業者及び中小企業者の主たる債務を保証する保証人が反社会的勢力又はそれと関係のある者ではなく、そのおそれもないこと
(2)対象債権者
銀行、信金、信組、労金、農協、漁協、政府系金融機関、信用保証協会(代位弁済を実行し、求償権が発生している場合。保証会社含む。)、銀行等からの債権譲渡を受けているサービサー等及び貸金業者
※ リース債権者は、廃業型の場合は原則として、再生型の場合は必要に応じて対象債権者となります(GLQ&A20)。
(3)外部専門家
中小企業者が、手続の利用にあたって、必要に応じて相談する弁護士、公認会計士、税理士等(弁護士なら、代理人として計画策定支援や交渉等にあたることになります。)。
(4)第三者支援専門家
第三者である支援専門家(弁護士、公認会計士等の専門家であって、再生型私的整理手続及び廃業型私的整理手続を遂行する適格性を有し、その適格認定を得たもの)
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投稿者:
2022.05.30
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1 相続登記の申請義務化等
(1)改正の経緯
相続登記の申請が義務とされていないことや、また、費用や手間をかけてまで登記申請したくないと考える場合も少なくないことが、相続登記未了の原因となり、結果として、所有者不明土地発生の最大の温床となっていました。そこで、相続登記申請の義務化とその義務履行を簡易にできる制度について、不動産登記法が改正されました(以下、改正不動産登記法を、単に新法といいます。)。
なお、これらの点に関する新法施行日は、令和6年4月1日になっています。
(2)相続登記の申請義務化
ア 義務内容
相続(特定財産承継遺言による場合を含むとされています。なお、特定財産承継遺言については、https://kawanishiikeda-law.jp/blog/2000/ をご覧ください。)や遺贈によって不動産を取得した相続人に対し、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました(新法76条の2)。
さらに、例えば、上記登記が遺産分割前の暫定的な法定相続分に基づく共同相続登記等である場合において、その後に遺産分割が成立したときには、その内容を踏まえた登記申請をすることも義務付けられています(新法76条の2-2項)。
イ 過料の制裁
正当な理由がないのに相続登記申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処されます(新法164条1項)。この「正当な理由」の具体的な内容は、後日、通達等であらかじめ明確化される予定です。過料を科する際の具体的手続についても、事前に義務の履行を催告することを必要とする等、後日同様に、省令等で明確に規定される予定となっています。
(3)義務履行の簡易化
①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで、上記(2)の相続登記申請義務を履行したものとみなしてもらえます(新法76条の3)。
申出をした相続人の氏名・住所等が職権で登記に付記され、これを「相続人申告登記」と呼ぶことになります。「相続人申告登記」は、単独申出可、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が不要、資料収集の負担の軽減という3つの点で簡易な方法といえます。また、令和4年度税制改正の大綱では、相続人申告登記を非課税とする方針がとられています。
(4)経過措置
施行日(令和6年4月1日)前に相続が発生していたケースについても、相続登記の申請義務は課されます。ただし、申請義務の履行期間については、施行日か要件を充足した日のいずれか遅い日から3年間として起算されます(令和6年3月31日までに発生した相続でいえば、令和9年3月31日までに申請義務を履行すべきことになります。)。
2 所有不動産記録証明制度の創設
(1)改正の経緯
相続が発生した場合にその相続人が被相続人所有名義の不動産を名寄せして知ることができる制度があれば、相続財産調査の煩雑さを軽減でき、ひいては相続登記未了の予防につながると考えられました。そこで、登記官において、特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度が新設されました(新法119条の2)。これを「所有不動産記録証明制度」と呼び、かかる制度による証明書を「所有不動産記録証明書」といいます。
なお、これらの点に関する新法施行日は、本ブログをアップした現時点では決まっていませんが、新法公布日から概ね5年とされていますので、令和8年4月1日頃と予想されます。
(2)交付請求可能者
所有不動産記録証明書の交付請求が可能な者は、以下のとおりです。
ア 新法119条の2-1項によれば「何人も…交付を請求することができる」とされているので「自らが所有権の登記名義人として記録されている者」だけでなく「所有権の登記名義人として記録されている不動産がない者」も、請求が可能です。この場合には、該当する不動産の記録がない旨の証明書が交付されます。
イ 相続人その他の一般承継人(新法119条の2-2項)。
3 住所変更登記等の申請の義務化
所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付けられ(新法76条の5)、「正当な理由」がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処されます(新法164条2項)。この「正当な理由」の具体的な内容は通達等で、過料を科す手続は省令等で明確にされる予定です。
上記変更登記は、登記官が職権ですることも可能で、その場合自然人に対しては法務局からの意思確認がなされる手続となっています。
なお、これらの点に関する新法施行日は、本ブログをアップした現時点では決まっていませんが、新法公布日から概ね5年とされていますので、令和8年4月1日頃と予想されます。
そして、住所変更登記申請の義務化についても、義務履行期間の起算日に関して経過措置が設けられ、施行日か要件を充足した日のいずれか遅い日から2年間として起算されます(令和8年3月31日までに発生した住所変更でいえば、令和10年3月31日までに申請義務を履行すべきことになります。)。
4 その他の登記手続の簡略化
(1)遺贈を原因とする所有権移転登記
従来:登記権利者(受遺者)と登記義務者(被相続人の全相続人又は遺言執行者)との共同申請
新法:相続人が受遺者である場合に限り、登記権利者である受遺者による単独申請が可能(新法63条3項)。例えば、遺贈によって共同相続人ABCの中の一部の者であるABの共有とされた不動産について、Aが単独でAB共有名義とする登記を申請することも実務上可能と考えられています(部会資料57・9頁)。
(2)法定相続分での相続登記後に、①遺産の分割の協議又は審判若しくは調停、②他の相続人の相続放棄、③特定財産承継遺言、④相続人が受遺者である遺贈による、所有権の取得に関する登記申請をする場合
従来:登記権利者と登記義務者の共同申請
新法:単独申請による更正登記が可能
これらの点に関する新法施行日は、本ブログをアップした現時点では決まっていませんが、新法公布日から概ね2年とされていますので、令和5年4月1日頃と予想されます。
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投稿者:
2022.04.26
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1 はじめに
土地法制改正の連載中ですが、所有者不明土地管理制度の解説をしたことから( https://m2-law.com/blog/4734/ )、これと関連する空家等対策特別措置法(以下「特別措置法」乃至は単に「法」ということがあります。)について解説します。ちなみに、写真は、村上の故郷の福知山で行われたかかる特別措置法に基づく代執行がされた建物です。ネット情報ですが、特別措置法については福知山という地名を見聞きすることが多く、福知山市が頑張っているように思います。
2 制定理由
空家は、適切な管理が行われず、防災、衛生及び景観を害するなど、特に地域住民の生活環境に悪影響を与えることがあります。そこで、空家に関する問題に対処し、地域住民の生命・身体・財産の保護及び生活環境の保全するとともに、空家等の活用を促進することを目的として、空家等対策特別措置法が制定されました(法1条)。
3 空家の種類
空家対策特別措置法は、空家について、「空家等」と「特定空家等」という2つの定義を置いています。おおまかにいうと、「空家等」という大きな括りの中で特に問題があるものが「特定空家等」に当たるという建付けになっています。
特定空家等に当たると、後述のとおり、指導、勧告や行政代執行の対象となり得る点が重要です。
具体的には、空家等については、「この法律において『空家等』とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。」(法2条1項)と規定されています。
また、特定空家等については、「この法律において『特定空家等』とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。」(同条2項)と規定されています。
4 制度概要
それでは、空家対策特措法は、どのような内容となっているのでしょうか。
(1)基本指針・計画の策定等
まず、国や公共団体に対しては、国が空家等に関する施策の基本指針を定めること(法5条)、市町村は国の指針に則した空家等対策計画を定めることができる旨(法6条)及び協議会を設置が可能であること(法7条)を規定しています。また、都道府県は、市町村が講ずる措置に対する助言や市町村相互の連絡調整等の必要な措置を行うように努めるものとされています(法8条)。
このように、国や地方公共団体が相互に連携して空家問題に取り組むべきであることが定められているといえるでしょう。
(2)空家等についての情報収集等
外観上危険と認められる空家等に対する情報収集のための立入り(法9条)や所有者等の把握のために固定資産税情報の内部利用(法10条)が可能であることなどが規定されています。また、市町村長が、空家等の所有者に対し、管理のための情報提供や助言などができることも定められています(法12条)。
(3)空家等及び跡地の活用・財政上の措置及び税制上の措置等
空家等の跡地の活用(法13条)や財政上の措置及び税制上の措置等(法15条)に関する規定も設けられています。財政上の措置及び税制条の措置については、以下の7で詳しく解説します。
(4)特定空家等に対する措置
空家等のうち、特定空家等については、市町村長は、特定空家等の所有者等に対し、除却、修繕、立木竹の伐採についての助言又は指導、勧告、命令が可能とされています(法14条1項乃至3項)。さらに、命令を受けたにもかかわらず対象者が必要な措置を取らない場合には、行政代執行により強制的な実現が可能と規定されています(同条9項)。また、そもそも命令の対象者が確知できない場合には、通常の代執行の手続きより簡略な略式代執行により必要な措置の実現が可能とされています(同条10項)。
また、上記のうち、「勧告」に従わなかった場合には固定資産税等の住宅用地特例の例外除外(地方税法349条の3の2第1項括弧書)、「命令」に従わなかった場合には50万円以下の過料の制裁(法16条1項)も規定されています。
5 空家等対策特措法の施行後の状況
空家等対策特措法は、平成27年2月26日に施行されました。現時点(令和4年)では、同法施行から既に5年以上が経過しています。令和3年2月4日に国土交通省から「空家対策特措法について」という資料が公開されており、同資料4頁以下に空家対策特措法の施行後の状況が記載されています。ここでは、同資料に基づき、空家対策特措法の施行後の状況を紹介します。詳細な数字については上記資料もご参照ください( 001385948.pdf (mlit.go.jp ) 。
まず、空家等対策計画についてみると、約7割の市区町村で空家等対策計画が既に策定され、かつ、今後策定する予定がある市区町村も約2割に上ります。同法に基づく行政代執行や略式代執行についても、令和2年3月31日時点で、それぞれ69件及び191件の実施件数があります。
市区町村の取組みにより除去等がされた特定空家等は、上記の代執行等の件数も併せて、1万1887物件にも上ります。もっとも、特定空家等は、市区町村が把握しているだけでも、まだ1万7636物件も残存しています。そのため、今後も、空家問題への取組みは続くものと思われます。
6 所有者不明建物・管理不全建物管理制度との関係
空家対策特措法が施行され、同法に基づく取組みも着実に増加してきました。もっとも、以前ブログで解説した通り、土地法制改正により、その中で所有者不明建物・管理不全建物管理制度が創設されています。特定空家等についても、所有者不明建物管理制度等の要件が満たされれば、この管理制度の利用(併用)も考えられるところです。
例えば、特定空家等かつ所有者不明建物を除却する場合、市町村長は、略式代執行の方法によることも考えられます。
しかし、略式代執行の要件充足性を判断することは困難であるとともに、代執行費用の予算措置が必要で、事後的に代執行費用を回収することも困難です。そのため、法的には略式代執行の方法によることができるとしても、現実には、略式代執行を行うことが難しい場合もあり得ます。
これに対し、所有者不明建物管理制度を利用した場合には、建物の管理は管理人が行うこととなり、また、一定の予納金が必要であるものの、建物の売却により予納金が回収できる場合もあり得るなどのメリットがあります。また、管理人が選任されると、この管理人は、同時に空家対策特別措置法3条にいう「管理者」に該当すると解されます。そのため、市町村長は、管理人に対し、空家対策特別措置法に規定された指導等の各種の権限行使も可能となると考えられます。もっとも、所有者不明建物管理制度は、「利害関係人」が申し立てなければなりません(民法264条の14第1項)。当該空家の隣人等は「利害関係人」に当たると考えられますが、公共団体の長が「利害関係人」に当たるかどうかは議論があったことから、所有者不明土地利用円滑化特措法新38条2項で、公共団体の長も「利害関係人」にあたるとされました(ただし、令和5年4月1日施行)。
このように、所有者不明土地関係法改正で制定された制度と空家対策特措法に基づく制度のいずれを利用するか、あるいはこれらの制度を組み合わせて利用するかは、事案に応じて具体的に検討する必要があるといえます。
7 財政上の措置及び税制上の措置(法15条関係)
(1)財政上の措置
空家の放置で税金が6倍になることがあります。
住宅用地については、固定資産税と都市計画税の課税標準の特例(地方税法349条の3の2、702条の3)があり、例えば、小規模住宅用地については特例で固定資産税の課税標準が6分の1になっています。しかし、空家を適切に管理せずに放置し続けると特定空家(法2条2項)と判断されることがあり、状態改善するよう助言・指導、勧告をされることで、上記の特例の適用対象外となってしまいます(地方税法349条の3の2)。
イ 相続した空家等の譲渡の所得税について
相続した空家の譲渡(平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間の譲渡で、当該相続の開始があつた日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にしたもの)では、譲渡所得から3,000万円を特別控除されることがあります(租税特別措置法35条3項)。ただ、この特別控除の特例を受けるための要件は多く、ご自身の譲渡が充たしているか確認する必要があります。
まず、①家屋と敷地の両方を相続②その家屋が昭和56年5月31日以前に建築③売却先が第三者(配偶者や親族、同族会社等でない)④売却金額が1億円以下であることが必要です。家屋又は家屋と敷地の売却をする場合は、⑤家屋が相続開始時から売却時まで空き家であった(相続人等の居住の用等に供されていない)⑥売却時に耐震性があることが必要ですし、相続した居住用家屋を取り壊した後その敷地の用に供されていた土地等の売却をする場合も、⑤と同じようなことが求められます。
以上
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