企業法務

販売促進活動⑥FC本部の基礎知識

2025.11.05

第1 はじめに

フランチャイチャイジー(以下、ジーといいます。)としては、本部のブランド力を活かしながら、地域の特性や顧客ニーズに応じた事業展開を期待しています。その中で活きてくるのが、フランチャイザー(以下、ザーといいます。)の「営業(経営)指導」であり、今回はその一環としての販売促進活動(以下、販促活動という場合があります。)について、裁判例を踏まえた上での注意点を説明します。

 

 

第2 販売促進活動とは?

 1 販促活動とは、顧客の購買活動を促進するための様々な施策のことです。通常の商品・サービスの販売を越えて、値引きや期間限定等を打ち出すことで、顧客の興味・関心を高め、購買意欲を掻き立てることを目的としています。一般的に、販売促進の主な目的は、商品の認知度向上、購入促進、リピーター創出の3つです。

2 フランチャイズ・チェーンでの販促活動は、①個々の加盟店での販促活動と②チェーン全体での販促活動に分類されます。[1]

(1) ジーは独立した事業者であるため、①についてはジー自らが行うのが建前ですが、販促活動はチェーンのイメージに直結するため、ジーの裁量に委ねてしまうとチェーン・イメージを崩しかねません。そこで、ザーは貸与するマニュアルなどに書かれた規格や基準を守るようにと定めることが多いです。

⑵ ②はザーが行います。主たるものとして、テレビCM、全国紙での広告、WEBサイトの運営、全国規模の割引セールなどがあります。

3 実際の裁判例では、ジーの行う販促活動に対する営業指導義務違反があるかどうかが争われた事案(千葉地方裁判所平成19年8月30日判決・判タ1283-141、上記①に分類)やFザーの行う100円マック政策がFC契約に基づく義務に反しないかが争われた事案(東京地方裁判所平成18年2月21日判決・判タ1232-314)があります。

 

 

第3 営業指導義務違反も理由として損害賠償請求が認められた裁判例(千葉地方裁判所平成19年8月30日判決・判タ1283-141)について

 1 事案の概要と争点

   原告(ジー)と被告(ザー)は、たこ焼き店のフランチャイズ契約を締結しました。当該契約17条には、「被告は、店舗の営業に必要なマニュアルを作成している場合は、これを原告に提出して指導し、原告もこれに従わなければならない」と定められていました。被告は、同条に基づき原告に対して50円割引券の配布などを指導しました。

   原告の主張は多岐にわたりますが、上記指導についても不合理であると考え、被告の営業指導義務(本件契約17条を根拠に発生する義務)に違反するとして、損害賠償請求をしました。そこでは、50円引券の配布指導が争点となりました。[2]

 2 判示事項

裁判所は、「使用対象も個数も制限がないため、割引内容が大きいことや、使用期間制限がないのに配布枚数も大量であったことに照らすと、相応に収益を圧迫していたことは容易に推認できるものであるにもかかわらず、被告は何ら事前に客観的な調査・予測などをすることなく、かつ、原告に事前に説明しその了承を得ることもなく、原告に50円引き券の配布を指導しているのであって、このような姿勢は極めて無責任」であると判示しました。

そして、最終的に裁判所は「ザーとして適切に原告(ジー)の経営を指導したものとは到底評価できない」として、営業指導義務違反を認めました。

 3 裁判例の考察

(1)ザーの営業(経営)指導義務については、多くの裁判例により抽象的な指導義務の「存在」は肯定されているものの、具体的な指導義務「違反」については、様々な事情を考慮し、個別に認定されています。[3]

(2)今回の事案についてみると、裁判所は、特に割引券の内容や配布枚数に着目して、営業指導義務違反を認めていたように思われます。それゆえ、ザーとしては、割引券の配布指導をするにあたって、使用対象や使用期間、配布枚数などについて調査をしたうえで、その合理性を考えておく必要があります。さらに、割引券の内容についてあらかじめジーに説明をしたうえで、割引券の配布について了承を得ておくと安心です。

 

第4 FC契約上の義務違反を理由とする損害賠償請求が認められなかった裁判例(東京地方裁判所平成18年2月21日判決・判タ1232-314)について

 1 事案の概要と争点

原告(Fザー側)と被告(Fジー側)は、マクドナルド方式による店舗営業を事業の目的とするフランチャイズ契約を締結しました。FC契約1条1項には、「乙(被告)はこれに従い、これを実現するために、甲が定めた次の基準と営業政策を遵守しなければならない」と定められていました。原告は、同条項に基づき100円マック政策

上記政策が不合理であると考えた被告は、当該政策を実施することがFC契約に基づく義務(合理的な営業政策を策定する義務)に違反するとして、損害賠償請求をしました。

2 判示事項

裁判所は、「100円マック政策は、原告(ザー)のスケールメリットを生かすために、既存の客以外の新規顧客を広く取り込んで、その顧客をリピーターにすることによって、利益を増加させようとするものであり、現実にも、原告はこのような政策によってTC(レジの作動回数。来店客数の目安となる)を増加させ、本件店舗に隣接する4店舗全店においては、これ以上の割合でTCを増加させることに成功している」として、Fザーの政策的判断を尊重し、「100円マック政策を採ったことがフランチャイズ契約の本質に反するものと認めるには足りず、本件契約の債務不履行にあたるということはできない」と判断しました。

 3 裁判例の考察

   裁判所は、100円マック政策が他の店舗において成功していることを理由として挙げています。それゆえ、チェーン全体での販促活動がFC契約における経営指導義務に反するかどうかは、他店舗と比較を含めたチェーン全体に、販促活動の効果が表れているかどうかも重要な考慮要素になるものと思われます。

   実際に、裁判所も「TCを前年度と比較して、既存店で月平均12.1%増加させており、また、本件店舗に隣接する4店舗全店(天神ビブレ店・ジークス天神店・薬院駅前店・天神店)においては、これ以上の割合でTCを増加させることに成功している」との事実を認定しています。これは、チェーン全体での販促活動について、個々の店舗での成果だけでなく、加盟店全体での成果を基にその合理性を判断しているからだと思われます。したがって、チェーン全体での販促活動がFC契約に違反するか特に問題になるのは、多数の加盟店で販促活動の成果が見られなかったような場合(いわゆる企画倒れ)なのかと思います(このような場合には、本部が販促企画を導入するにあたり、十分な経験を持ち、あるいは、研究をしていたのかが、重要になると思われます。)。

 

 

第5 おわりに

   本稿のまとめとして、販促活動に関与する際に、ザーが注意すべきことについて説明して終わります。

1 裁判例1との関係で、割引券の配布などの販促活動を行うにあたっては、「割引券の使用対象・使用期間が限定的かどうか」、「配布枚数が過剰に多すぎないか」等の内容の合理性に注意しましょう。また、各店舗で行う販促活動については、ジーが独立した事業者であることも考慮して、ジーの同意を得たりする工夫も必要かもしれません。

2 裁判例2との関係でいえば、例えば、販促活動により多くのジーが損失を出しているような場合は、ジーから債務不履行責任を追及される可能性があります。もっとも、一般的には、チェーン全体の視点からの営業政策は本部でなければ判断できないので、その政策判断決定の過程(事実の正確な把握と政策決定の判断)に問題がない限り、全国一斉販促活動には一応の合理性が認められる[5]と考えられています。

  また、フランチャイズ契約又は本部の行為が、加盟者に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には、独占禁止法2条9項5号(優越的地位の濫用)に、加盟者を不当に拘束するものである場合には一般指定の2条10項(抱き合わせ販売)又は同条12項(拘束条件付取引)等に該当することもあります。[6]したがって、ザーとしては、その点についても注意を払う必要があるでしょう(フランチャイズ契約における優越的地位の濫用については、https://m2-law.com/blog/6147 参照)。

                                                                           以上

[1] 「フランチャイズ契約の実務と書式」 神田孝 P.156参照

[2] 裁判例の原告・被告の主張参照

[3] 判例タイムズNo.1283(2009.2.1)P.142参照

[4] 100円マック政策。具体的には、以下の通り。「平成16年12月27日~平成17年1月3日:ビックマック200円(通常250円)、平成17年1月29・30日:ハンバーガー無料券配布、平成17年2月11日~2月20日:チキンマックナゲット100円(通常190円)、平成17年2月21日~3月4日:マックシェイク100円(通常200円)、平成17年3月18日~4月7日:マックシェイク100円(通常200円)、平成17年4月8日~4月18日:フィレオフィッシュ100円(通常190円)」

[5] 「フランチャイズ契約の法律相談」P.187参照

[6] フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方 | 公正取引委員会参照

 

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投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

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