企業法務

テリトリー権等⑦FC本部の基礎知識

2025.12.02

 

第1 はじめに
    近隣に同一のフランチャイズ店舗が出店されれば、顧客が流出し、売上が減少することもあります。こうした事態に対応するため、フランチャイズ契約(以下、「FC契約」といいます。)においてテリトリーに関する定めが設けられることがあり、それをフランチャイジーの権利とした「テリトリー権」という形で定められることもあります(もっとも、以下に述べる通り、定められない場合が多いです。)。そこで、本稿では、「テリトリー権」について解説するとともに、類似の性質を持つ「エリア・エントリー権」についても併せて説明します。

第2 テリトリー権について
 1 テリトリー権の定義
フランチャイザー(以下「ザー」といいます。)がフランチャイジー(以下「ジー」といいます。)に対して特定の地域における独占的ないし優先的な出店権や販売権を保障する場合、その権利を「テリトリー権」と言います。

 2 フランチャイズの業態とテリトリー権の関係
  ⑴ フランチャイズの業態は、①立地が重要とされる事業(店舗集客型の事業)と、②立地がそれほど重要でない事業に分類されます。
  ⑵ ①の例としては、コンビニエンスストアや学習塾が挙げられます。これらの業態は通常、生活圏内の店舗を利用するため、近隣に競合店が出店すると顧客が分散することを避けられません。したがって、テリトリー権を設定する必要性は高いと考えられます。
②の例としては、訪問出張営業型の事業が考えられます。その1類型として人材派遣事業もあるかと思います。人材派遣事業では、人材ネットワークや取引関係が重要視されるため、近隣に競合店が出店しても顧客が分散する可能性は低いと考えられます。裁判例においても、人材派遣「事業は、技術者の派遣という性質上、…営業成績(顧客の範囲・派遣単価)も、必然的にフランチャイジー独自の信用(歴史)・企業努力に左右される。」(東京地判平成21年3月9日)と判示されており、必ずしも立地に依存する事業ではないことが読み取れます。したがって、①の事業に比べると立地の重要度は相対的に低く、テリトリー権を設定する必要性も低いといえます。
  ⑶ もっとも、FC契約においては、ザーの方がジーよりも立場が強いため、テリトリー権の設定が大切なように思われる事業であっても、必ずしもテリトリー権が設定されているとは限りません。下記の表はフランチャイズチェーン協会の開示書面を参考に作成したものですが、コンビニエンスストアのように立地が重要とされる事業であっても、テリトリー権が設定されないケースがあります。

 

業種

会社名

テリトリー権の有無

小売業

コンビニエンスストア

セイコーマート

○(半径150m)

セブンイレブン

×

デイリーヤマザキ

×

ファミリーマート

×

ポプラ

○(半径300m)

ミニストップ

×

ローソン

×

自動車関係小売

アップガレージ

(カー&バイク用品のリユース)

オートバックス

(自動車用品の販売)

×

外食業

ハンバーガー

マクドナルド

×

モスバーガー

×

アイスクリーム

サーティーワン

×

 

大戸屋

×

居酒屋

つぼ八

×

餃子食堂マルケン

×

カフェ

コメダ珈琲

×

タリーズコーヒー

×

ドトールコーヒー

×

上島珈琲

×

サービス業

学習塾

京進の個別指導

「スクール・ワン」

明光義塾

×

*教室から直線距離で1km未満の地域には、第三者による教室開設は許可しないとしています。

情報開示書面|一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会から引用

 

 3 テリトリー権は何を根拠に発生するのでしょうか。
 テリトリー権はザーとジーの合意によって発生します。合意の有無を判断する際には、FC契約書にテリトリー権が記載されているかどうかが重要となります。
もっとも、FC契約書にテリトリー権が記載されていない場合であっても、信義則上「競合店を出店させない義務」を負う可能性があると判示した裁判例が存在します。以下でその事例を紹介します。

 4 裁判例(福岡地判平成23年9月15日・判時2133-80)の紹介
  ⑴ 事案の概要
コンビニエンスストアのFC本部(被告)が加盟店(原告)から500mの距離に競合店を出店させました。FC契約書には、「本部は、必要と考えるときはいつでも、加盟店の店舗の所在する同一市・町・村・区内の適当な場所において、新たに別のB店の経営をさせることができる」と規定されていました。
加盟店は、「契約条項の前文で、本部と加盟店は『相協力して事業の繁栄をはかる』旨謳っており、本部に対して加盟店の営業を妨害するようなことはしてはならないという信義則上の義務を課している」と主張しました。
⑵ 裁判所の判示事項
  裁判所は、「本件契約書前文3項が原告と被告が相協力して、事業の繁栄を図ることを本件契約の目的の一つとして掲げていること、本件契約書6条2項後段において、被告は、原告の営業努力が十分報いられるように配慮すると規定されていることの趣旨からすれば、被告が別のB店を出店させることによる本件店舗の売上げや原告の生活に与える影響の程度、それに対する被告の認識ないし認識可能性の有無によっては、別のB店の出店が信義則(民法1条2項)に反するものとして債務不履行を構成する場合や不法行為を構成する場合もあり得る」と判示しました。
  しかし、競合店が出店する前から加盟店の売り上げが低下していたことや周辺のスーパーマーケットが24時間営業に切り替わったこと、他のコンビニエンスストアが出店したことを指摘した上で、「加盟店の売上げの減少の大部分については、被告が博多相生二丁目店(B店)を出店させたことによって生じたと評価すべき事情を認めることはできない」として債務不履行責任を負わないと判示しました。

第3 エリア・エントリー権

 1 エリア・エントリー権の定義
エリア・エントリー権とは、「特定地域における期間限定の優先出店権」を意味します。加盟希望者としては、優良商圏での出店を早期に確保できるというメリットがある一方、ザーとしてもFC契約前にエリア・エントリー・フィーを取得できるというメリットがあります。
テリトリー権が、出店後における継続的かつ優先的な営業活動を保障するものであるのに対し、エリア・エントリー権はFC契約前(下記①の類型)ないし出店前(下記②の類型)における優先的な出店機会を保障するにとどまる(後述の裁判例によれば、出店が完了した時点でエリア・エントリー権の効力は終了します。)点に注意が必要です。

2 エリア・エントリー権は何を根拠に発生するのでしょうか。
エリア・エントリー権は、ザーが契約の相手方に対して特定の地域での優先出店権を付与する契約(エリア・エントリー契約)を締結することにより発生します。エリア・エントリー契約は、①店舗用物件確定後、改めてFC契約の締結を要するものと②契約書内にFC契約の基本事項も記載され、店舗用物件確定後に改めてFC契約の締結を要しないものとに分かれます。
この契約では、対象となる地域が明確に設定され、エリア・エントリー権者には当該地域における出店権が認められます。多くの契約においては、出店権の行使期間(6か月~12か月)が定められており、その期間中は、ザー自身による出店はもちろん、他のジーの出店の許諾も制限されます。

3 エリア・エントリー契約に関する裁判例の紹介
  

 ⑴ 事案の概要

原告(ジー)と被告(ザー)は、埼玉県入間市について「①契約期間を6か月、②当該期間内にフランチャイズ契約が締結された場合は、エリア・エントリー契約は効力を失う」旨を内容とするエリア・エントリー契約を締結しました。その後、両者は、入間市のある場所(以下、原告店舗)に「ゴルフ関連用品の販売及び買取り」を事業内容とするFC契約(当該契約には、テリトリー権に関する定めはありません。)を平成12年3月2日に締結しました。ところが、平成12年6月(3か月後)、原告店舗が面する国道と同一路線上の約3㎞ないし4㎞離れた地点に第三者が所沢小手指店を出店しました。さらに、平成16年4月(約4年後)、原告店舗が面する国道の延長路線上の約4㎞強の地点に第三者が狭山根岸店を出店しました。

⑵ 原告の主張

ア 本件エリア・エントリー契約に関する主張について

原告は「出店枠内で1店舗の営業収益が十分確保できる旨の市場調査の結果を受けて本件エリア・エントリー契約を締結したのであるから、同契約に基づいて、被告会社は本件店舗の近隣において加盟店の出店をさせない義務を負う」と主張しました。

イ 本件フランチャイズ契約の付随的義務に関する主張について

     原告は「本件立地診断報告書の記載を根拠に、被告会社は半径5㎞、ドライブタイム10分という商圏の範囲内でほかの加盟店を出店させない義務を負う」と主張しました。

⑶ 判示事項

ア 本件エリア・エントリー契約に関する裁判所の判断

裁判所は、「本件エリア・エントリー契約によれば、同契約の契約期間内にフランチャイズ契約が締結された場合は、エリア・エントリー契約は効力を失うと定められているのであるから、本件フランチャイズ契約が締結された平成12年3月2日において、被告会社が負う出店枠の地区内において第三者に加盟店を出店させることができない義務は、本件エリア・エントリー契約の失効とともに消滅すると解するのが相当である」と判断しました(以下「前半部分」といいます。)。

続けて裁判所は、「仮に本件エントリー契約に至るまでの原告会社(ジー)と被告会社(ザー)との交渉経緯及び同契約の趣旨に鑑みて、信義則上、フランチャイズ契約締結後の合理的期間内は加盟店の出店を許容しない義務を被告会社が負うものと解する余地があるとしても、当該義務は同契約において出店枠の地区として規定された入間市内を対象とするものと解するのが相当であるから、所沢小手指店及び狭山根岸店(いずれも入間市に所在するものではない)の出店を被告会社が許容したことは、当該義務に違反するものとはいえず、やはりこの点に関する原告会社の主張は採用できない」と判断しました(以下「後半部分」といいます。)。

イ 本件フランチャイズ契約の付随的義務に関する裁判所の判断

     裁判所は、立地診断報告書において商圏ポテンシャルが「半径5㎞、ドライブタイム10分内との記載があるものの、これは人口・世帯数及び自動車保有台数について点数化する際の基準として設定されたものと解され、これらの記載をもって、本件店舗に一定の範囲内での営業の独占権を与える趣旨の商圏を設定したものと解することはできない」こと及び「被告会社の営業戦略にとって、重大な制約を課することになる上記義務について、基本契約である本件フランチャイズ契約の契約書に規定がないということは取引通念上考えにくく、本件フランチャイズ契約の付随的義務として上記義務が存在すると解することはできない」ことを指摘して、原告主張の義務は存在しないと判断しました。

⑷ 考察

ア 本件エリア・エントリー契約に関する裁判所の判断について

判示アの前半部分について、ジーとザーの間で「当該期間内にフランチャイズ契約が締結された場合は、エリア・エントリー契約は効力を失う」旨の内容のエリア・エントリー契約が締結されていた以上、契約内容自由の原則(民法521条2項)に照らして、適切な判断と思われます。

判示アの後半部分について、裁判所は「仮に」という前置きをしたうえで「信義則上、フランチャイズ契約締結後の合理的期間内は加盟店の出店を許容しない義務を被告会社が負うものと解する余地がある」としているにすぎず、上記義務の発生を認めたわけではないことに注意が必要です。そもそも、入間市に関するエリア・エントリー契約は失効等している上、原告店舗についてもテリトリー権に関する規定はなかったようなので、入間市を超えた隣接市町村(所沢市及び狭山市)にザーや第三者が出店することは問題はありません。従って、後半部分が言う信義則上の義務が認められるのはのは、極めて例外的な場合に限られると思われます。

   イ 本件フランチャイズ契約の付随的義務に関する裁判所の判断について

     立地診断報告書とは、複数の要素を数値化することで店舗の立地を総合的に評価することを目的とするものであって、同報告書記載の商圏をジーのために保護する趣旨は含まれていないのが通常です。それゆえ、立地診断報告書の記載を根拠に商圏の範囲内で他の加盟店を出店させない義務を認めなかった裁判所の判断は適切であったと思われます。

第5 終わりに

   以上を踏まえて、ザーとして注意すべき点を整理します。

まず、テリトリー権を設定した場合には、将来的な出店機会が制限され、事業展開の柔軟性を損なう可能性があることを十分に認識しておく必要があります。そのうえで、ザーはテリトリー権を設定するかどうか決定するべきです。

ただ、テリトリー権を設定しない場合であっても、FC契約書に「被告が相協力して、事業の繁栄を図る」、「既存のジーの営業努力が報いられるように配慮する」といった文言が含まれている場合が多いです。そのような文言と合わさり、エリア・エントリー権や商圏に関するやりとりがされた場合、そのやりとりの内容によっては、ザーが合理的な期間内は加盟店の出店を許容しない義務を負う可能性も否定できないので、十分留意しておく必要があるでしょう。

                                    以上

 

フランチャイズ本部・FC本部の相談は、弁護士法人村上・新村法律事務所まで

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投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

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