2022.07.21
1 はじめに
コンビニ最大手のセブン‐イレブン・ジャパン(以下「セブンイレブン」といいます。)は、公正取引委員会から排除措置命令(平成21年(措)第8号、ただし改正前の独占禁止法第二〇条第一項、同第二条第九項第五号・不公正な取引方法第十四項第四号、以下「平成21年措置命令」といいます。)を受けたことがあります(<4D6963726F736F667420576F7264202D2030393036323220905695B794AD955C95B68169835A837583938343838C83758393816A2E646F63> (selectra.jp)。
平成21年措置命令については、村上新村法律事務所のアメブロ記事で解説したことがありますが(フランチャイザーの優越的地位の濫用 | 村上・新村法律事務所のブログ (ameblo.jp))、同命令は、セブンイレブン本部が加盟者との関係で優越的地位にあることを前提にしたものであることから、今回は、フランチャイズと独禁法上の「優越的地位」について、少し掘り下げて解説してみます。
2 フランチャイズと優越的地位の濫用
(1)アメブロ記事の振返り
独占禁止法(以下「独禁法」といいます。)は、優越的地位の濫用を禁止しています(独禁法2条9項5号)。しかしながら、フランチャイズ・システムにとって、本部の統制等は、本質的なものであり、また、そのこと自体に重要な価値があります。そのため、本部による統制の全てが独禁法に違反するとすれば、それはフランチャイズ・システム自体の否定を意味します。しかし、公正取引委員会も、フランチャイズ・システム自体が直ちに独禁法に違反するとはしていません。
逆に、公正取引委員会は、フランチャイズと独禁法の関係についてのガイドラインを公表しています。そこでは、今回のテーマである「優越的地位の濫用」について、「加盟者に対して取引上優越した地位(注7)にある本部が,加盟者に対して,フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超えて,正常な商慣習に照らして不当に加盟者に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施する場合には,フランチャイズ契約又は本部の行為が独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当する。」と規定されています(フランチャイズガイドライン〈以下、FCGLということがあります。〉3(1))。
ここまでは、アメブロ記事で解説したところです。
(2)「優越した地位」
今回は、「優越的地位の濫用」の前提として、いかなる場合に本部が「優越した地位」(優越的地位)に当たると判断されるのか、その判断の要素や方法についてみてみたいと思います。もう一度前記FCGLを見てみると「「加盟者に対して取引上優越した地位(注7)」と規定されていて、その(注7)には、以下のように規定されています。
「フランチャイズ・システムにおける本部と加盟者との取引において,本部が取引上優越した地位にある場合とは,加盟者にとって本部との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,本部の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても,これを受け入れざるを得ないような場合であり,その判断に当たっては,加盟者の本部に対する取引依存度(本部による経営指導等への依存度,商品及び原材料等の本部又は本部推奨先からの仕入割合等),本部の市場における地位,加盟者の取引先の変更可能性(初期投資の額,中途解約権の有無及びその内容,違約金の有無及びその金額,契約期間等),本部及び加盟者間の事業規模の格差等を総合的に考慮する。」
細かく読みづらいかと思いますが、大まかにいうと、諸事情を総合した上で、加盟店が本部からの不利益な要請についても従わざるを得ないような場合に本部が「優越的地位」にあると判断されるというように言ってよいかと思います。そして、ここで考慮される事情というのが、①加盟者の本部に対する取引依存度、②本部の市場における地位、③加盟者の取引先の変更可能性、④本部及び加盟者間の事業規模の格差等というわけです。
3 平成21年措置命令について
ガイドラインの規定だけを見ていても抽象的で分かりづらいところがあると思いますので、上記のガイドラインに即して、セブンイレブンの平成21年措置命令の判断を説明するとどうなるかを解説してみたいと思います。
平成21年措置命令では、優越的地位に関する結論部分において、「前記アからエまでの事情等により,加盟者にとっては,セブン-イレブン・ジャパンとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなり,このため,加盟者は,セブン-イレブン・ジャパンからの要請に従わざるを得ない立場にある。したがって,セブン-イレブン・ジャパンの取引上の地位は,加盟者に対し優越している。」と判断されています。
そこで、重要なのが「前期アからエまでの事情等」になるわけですが、このアからエの概要は以下のようなものでした。
ア:セブンイレブンがコンビニフランチャイズの中で最大手の事業者であるのに対して加盟者のほとんどが中小の小売事業者であること等
イ:加盟店基本契約の期間が15年であり、基本契約のタイプに応じて、契約期間終了後に1年間の競業避止義務が課されたり、店舗の返還を求められること等
ウ:セブンイレブンが加盟店に対し、推奨商品の仕入れ先を提示し、加盟店で販売されている商品のほとんどすべてが推奨商品であること等
エ:セブンイレブンが加盟店の所在地区に経営相談員を配置し、同相談員を通じて加盟店に対し経営に関する指導,援助等を行い、加盟店がこれに従った経営を行っていること等
上記のア~エの事情が具体的にどのように評価されているのかまでは措置命令自体からは直ちに明らかではありません。
もっとも、上記アの事情は、ガイドライン(注7)のいうところの「本部の市場における地位」や「本部及び加盟者間の事業規模の格差」に関係する事情と考えられ、平成21年措置命令の事案では、本部の市場における地位は強く、本部・加盟者間の事業規模の格差も大きかった等と評価されている可能性があります。
また、上記イの事情は、加盟店の取引先の変更可能性が乏しいとの評価につながる事情と考えられます。
さらに、上記ウ及びエの事情は、加盟店の本部に対する取引依存度が大きいことを示す事情と評価されるものと思われます。
以上を踏まえると、平成21年措置命令の事案では、「コンビニフランチャイズ市場で強力な地位を占める本部とほとんどが中小事業者である加盟店の事業規模の格差は大きく、本部が商品の仕入れや経営の指導等を行うことにより、加盟店の本部への依存度は高いことに加え、契約期間や競業避止義務の関係からしても、加盟店は、その取引先を変更することが難しく、加盟店としては、加盟店が本部からの不利益な要請についても従わざるを得ないような状況にあった(=本部が優越的地位にある)」というような評価がされていたのではないかと考えられるところです。
4 まとめ
以上のように、そもそも本部が独禁法上の「優越的地位」にあるかどうかは、公正取引委員会が公表しているフランチャイズガイドラインに記載されている考慮要素を事案に応じて評価・検討して考えていくことになると思われます。
もっとも、最終的には諸事情を総合的に考慮することになりますので、微妙な判断となる可能性が高いと思われます。さらに本部が優越的地位にあることによってどのようなリスクがあるか等については、個別の事案に応じた検討が不可欠と思われます。
そのため、本部として、「優越的地位」にあるかどうか(どの程度優越的地位にあると判断される可能性があるか)や、そのことによってどのようなリスクがあり、これにどう対処すべきか等について関心があれば、当事務所などフランチャイズ契約を得意とする事務所にご相談ください。
フランチャイズ本部の相談は、弁護士法人村上・新村法律事務所まで
大阪オフィス
https://g.page/murakamishinosaka?gm
川西池田オフィス
https://g.page/murakamishin?gm
福知山オフィス
https://g.page/murakamishinfukuchiyama?gm
投稿者:
2022.07.05
画像は、中小企業庁が公表している、業況判断DI(ディフュージョンインデックス)というもので、中小企業において、景気が良いと「思っている」企業数から景気が悪いと「思っている」企業数を差し引いた指数です。2020年4月~6月期(Q1)の落ち込みが激しいのがコロナの影響とされますが、業種間差が激しい(黄色の製造業・緑色のサービス業の落ち込みが著しい)というのが、コロナ不況の特徴の一つでもあります(コロナ不況の特徴については、https://m2-law.com/blog/1958/ )。
ただ、回復傾向にあるといえ、2022年になっても全体的な業況は-20~-40ですから、依然として厳しい状況とされています。
そのような中、中小企業の事業再生スキームとして新たに定められたのが、中小企業事業再生GLで、第一弾としてその概要を解説しましたが(https://m2-law.com/blog/1216/ )、今回はGLにおける私的整理手続(再建型・廃業型)の具体的内容の解説です。
事業再生・法人破産の相談は、弁護士法人村上・新村法律事務所まで
事業再生・法人債務整理専門サイト https://saimu-law.jp/
大阪オフィス
https://g.page/murakamishinosaka?gm
川西池田オフィス
https://g.page/murakamishin?gm
福知山オフィス
https://g.page/murakamishinfukuchiyama?gm
************************************************
1 再生型
(1)再生型私的整理手続の申出
ア 主要債権者(金融債権額のシェア上位50%に達するまでの対象債権者)に対し、再生型私的整理手続の申出
イ 主要債権者全員の同意を得て、第三者支援専門家を選定
(2)第三者支援専門家による支援開始
主要債権者の意向を踏まえて、再生支援を行うことが不相当ではないと判断された場合に支援が開始されます。
(3)一時停止の要請(資金繰りの安定のために必要な場合)
対象債権者全員に、書面で同時に一時停止の要請(私的整理手続一般における、一時停止の概要については、https://m2-law.com/blog/1277/ を参照下さい)
ア 中小企業者・対象債権者間で良好な取引関係が構築されていること
イ 再生の基本方針が示されていること
(4)事業再生計画案の立案
外部専門家の支援を受け、第三者支援専門家、主要債権者と協議の上、事業再生計画案を立案
※ 内容・数値基準は、以下のとおりで、中小企業再生支援協議会による再生スキームとほぼ同じです(GL第三4.(4)①イ~ニ 支援協スキームについては、https://m2-law.com/blog/1427/ を参照下さい。)。
ア 内容は、以下のとおりです。
① 企業の概況
② 財務状況(資産・負債・純資産・損益)の推移
③ 保証人がいる場合はその資産と負債の状況(債務減免等を要請する場合)
④ 実態貸借対照表(返済猶予の場合は必須ではない)
⑤ 経営が困難になった原因
⑥ 事業再生のための具体的施策
⑦ 今後の事業及び財務状況の見通し
⑧ 資金繰り計画(債務弁済計画を含む)
⑨ 金融支援(債務返済猶予や債務減免等)を要請する場合はその内容
イ 数値基準(再生計画案成立後最初に到来する事業年度開始日から起算)の内容は、以下のとおりです。
① 実質的に債務超過である場合は、5年以内を目途に実質的な債務超過を解消する(企業の業種特性や固有の事情等に応じた合理的な理由がある場合にはこれを超える期間を要する計画を排除しない)
② 経常利益が赤字である場合は、概ね3年以内を目途に黒字に転換する(但し上記①括弧書と同じ例外あり)
③ 事業再生計画の終了年度(原則として実質的な債務超過を解消する年度)における有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下となる(但し上記①括弧書と同じ例外あり)
(5)第三者支援専門家による事業再生計画案の調査
計画案の相当性、実行可能性、金融支援の必要性等の調査
(6)債権者会議の開催
ア 事業再生計画案の内容説明
イ 第三者支援専門家による調査報告
ウ 質疑応答、意見交換
エ 意見(同意不同意)表明の期限の設定
(7)事業再生計画の成立
全対象債権者が同意し第三者支援専門家がその旨を文書等で確認した時点で成立
(8)事業再生計画成立後のモニタリング
3年間を目処に
2 廃業型
(1)廃業型私的整理手続の申出
主要債権者に対し、廃業型私的整理手続の申出
(2)外部専門家による支援開始
主要債権者の意向を踏まえて、資産負債及び損益状況の調査検証、弁済計画案策定の支援等
(3)一時停止の要請(資金繰りの安定のために必要な場合)
対象債権者全員に、書面で同時に一時停止の要請
中小企業者・対象債権者間で良好な取引関係が構築されていること
(4)弁済計画案の立案
外部専門家の支援を受け、主要債権者と協議の上、弁済計画案を立案
※ 弁済計画案の内容は、以下のとおりで、再建型の場合以上に簡潔です(GL第三5.(3)①イ)。
① 企業の概要
② 財務状況(資産・負債・純資産・損益)の推移
③ 保証人がいる場合はその資産と負債の状況
④ 実態貸借対照表
⑤ 資産の換価及び処分の方針並びに金融債務以外の弁済計画、対象債権者に対する金融債務の弁済計画
⑥ 債務減免等を要請する場合はその内容
(5)第三者支援専門家による弁済計画案の調査
ア 主要債権者全員の同意を得て、第三者支援専門家を選定
イ 第三者支援専門家による弁済計画案の相当性、実行可能性等の調査
※ 廃業型の場合は、再生型と異なり、弁済計画案の調査の段階で、第三者支援専門家が入ります(GL第三5.(4)①)。
(6)債権者会議の開催
ア 弁済計画案の内容説明
イ 第三者支援専門家による調査報告
ウ 質疑応答、意見交換
エ 意見(同意不同意)表明の期限の設定
(7)弁済計画の成立
全対象債権者が同意し第三者支援専門家がその旨を文書等で確認した時点で成立
(8)弁済計画成立後のモニタリング
弁済計画に沿った資産の換価及び処分等が適時・適切に実行されているかについて、報告を受けて履行状況を確認
投稿者:
不動産
事業再生法人破産
企業法務
新着情報