事業再生法人破産

中小事業再生GL②手続の流れ

2022.07.05

 画像は、中小企業庁が公表している、業況判断DI(ディフュージョンインデックス)というもので、中小企業において、景気が良いと「思っている」企業数から景気が悪いと「思っている」企業数を差し引いた指数です。2020年4月~6月期(Q1)の落ち込みが激しいのがコロナの影響とされますが、業種間差が激しい(黄色の製造業・緑色のサービス業の落ち込みが著しい)というのが、コロナ不況の特徴の一つでもあります(コロナ不況の特徴については、https://m2-law.com/blog/1958/ )。

 ただ、回復傾向にあるといえ、2022年になっても全体的な業況は-20~-40ですから、依然として厳しい状況とされています。

 そのような中、中小企業の事業再生スキームとして新たに定められたのが、中小企業事業再生GLで、第一弾としてその概要を解説しましたが(https://m2-law.com/blog/1216/ )、今回はGLにおける私的整理手続(再建型・廃業型)の具体的内容の解説です。

 

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1 再生型

(1)再生型私的整理手続の申出

    ア 主要債権者(金融債権額のシェア上位50%に達するまでの対象債権者)に対し、再生型私的整理手続の申出

    イ 主要債権者全員の同意を得て、第三者支援専門家を選定

(2)第三者支援専門家による支援開始

   主要債権者の意向を踏まえて、再生支援を行うことが不相当ではないと判断された場合に支援が開始されます。

(3)一時停止の要請(資金繰りの安定のために必要な場合)

   対象債権者全員に、書面で同時に一時停止の要請(私的整理手続一般における、一時停止の概要については、https://m2-law.com/blog/1277/ を参照下さい)

   ア 中小企業者・対象債権者間で良好な取引関係が構築されていること

   イ 再生の基本方針が示されていること

(4)事業再生計画案の立案

     外部専門家の支援を受け、第三者支援専門家、主要債権者と協議の上、事業再生計画案を立案

    ※ 内容・数値基準は、以下のとおりで、中小企業再生支援協議会による再生スキームとほぼ同じです(GL第三4.(4)①イ~ニ 支援協スキームについては、https://m2-law.com/blog/1427/ を参照下さい。)。

    ア 内容は、以下のとおりです。

        ① 企業の概況

② 財務状況(資産・負債・純資産・損益)の推移

③ 保証人がいる場合はその資産と負債の状況(債務減免等を要請する場合)

④ 実態貸借対照表(返済猶予の場合は必須ではない)

⑤ 経営が困難になった原因

⑥ 事業再生のための具体的施策

⑦ 今後の事業及び財務状況の見通し

⑧ 資金繰り計画(債務弁済計画を含む)

⑨ 金融支援(債務返済猶予や債務減免等)を要請する場合はその内容

イ 数値基準(再生計画案成立後最初に到来する事業年度開始日から起算)の内容は、以下のとおりです。

 ① 実質的に債務超過である場合は、5年以内を目途に実質的な債務超過を解消する(企業の業種特性や固有の事情等に応じた合理的な理由がある場合にはこれを超える期間を要する計画を排除しない)

 ② 経常利益が赤字である場合は、概ね3年以内を目途に黒字に転換する(但し上記①括弧書と同じ例外あり)

③ 事業再生計画の終了年度(原則として実質的な債務超過を解消する年度)における有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下となる(但し上記①括弧書と同じ例外あり)

(5)第三者支援専門家による事業再生計画案の調査

   計画案の相当性、実行可能性、金融支援の必要性等の調査

(6)債権者会議の開催

  ア 事業再生計画案の内容説明

  イ 第三者支援専門家による調査報告

  ウ 質疑応答、意見交換

  エ 意見(同意不同意)表明の期限の設定

(7)事業再生計画の成立

    全対象債権者が同意し第三者支援専門家がその旨を文書等で確認した時点で成立

(8)事業再生計画成立後のモニタリング

   3年間を目処に

 

2 廃業型

(1)廃業型私的整理手続の申出

主要債権者に対し、廃業型私的整理手続の申出

(2)外部専門家による支援開始

     主要債権者の意向を踏まえて、資産負債及び損益状況の調査検証、弁済計画案策定の支援等

(3)一時停止の要請(資金繰りの安定のために必要な場合)

   対象債権者全員に、書面で同時に一時停止の要請

   中小企業者・対象債権者間で良好な取引関係が構築されていること

(4)弁済計画案の立案

   外部専門家の支援を受け、主要債権者と協議の上、弁済計画案を立案

   ※ 弁済計画案の内容は、以下のとおりで、再建型の場合以上に簡潔です(GL第三5.(3)①イ)。

    ① 企業の概要

    ② 財務状況(資産・負債・純資産・損益)の推移

    ③ 保証人がいる場合はその資産と負債の状況

    ④ 実態貸借対照表

       ⑤ 資産の換価及び処分の方針並びに金融債務以外の弁済計画、対象債権者に対する金融債務の弁済計画

     ⑥ 債務減免等を要請する場合はその内容

(5)第三者支援専門家による弁済計画案の調査

   ア 主要債権者全員の同意を得て、第三者支援専門家を選定

   イ 第三者支援専門家による弁済計画案の相当性、実行可能性等の調査

   ※ 廃業型の場合は、再生型と異なり、弁済計画案の調査の段階で、第三者支援専門家が入ります(GL第三5.(4)①)。

(6)債権者会議の開催

   ア 弁済計画案の内容説明

   イ 第三者支援専門家による調査報告

   ウ 質疑応答、意見交換

   エ 意見(同意不同意)表明の期限の設定

(7)弁済計画の成立

    全対象債権者が同意し第三者支援専門家がその旨を文書等で確認した時点で成立

(8)弁済計画成立後のモニタリング

   弁済計画に沿った資産の換価及び処分等が適時・適切に実行されているかについて、報告を受けて履行状況を確認

 

 

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中小事業再生GL①概要等

2022.06.20

1 はじめに

  令和4年3月、中小企業の事業再生等に関する研究会が「中小企業の事業再生に関するガイドライン」を発表しました(以下、中小企業事業再生GL、若しくは、単にGLといいます。)。GLは3部構成になっていて、第一部では「ガイドラインの目的等」が示され、第二部では「中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方」として、有事における中小企業者と金融機関の対応等が示されています。そして、第三部が「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」です。

 今回は、第三部を中心に簡単な解説をしていきます。先ずは、概要と関係者の説明です。

 

2 中小企業事業再生GLに定める私的整理手続の位置づけ

(1)GL第三部に定める私的整理手続は、準則型の私的整理手続で、経営困難な状況にある中小企業者である債務者を対象に、法的整理手続によらずに、債務者である中小企業者と金融機関等の債権者との合意に基づき、債務について、返済猶予、債務減免等を受けることで、中小企業者の円滑な事業再生や廃業を行うことを目的としています(私的整理手続の概要については、https://m2-law.com/blog/1216/ を参照下さい。)。

(2)似ている制度として中小企業再生支援協議会スキーム(以下、支援協スキームといいます。)を利用した私的整理手続があり、どちらも、第三者介在型の私的整理手続ですが、両者の立ち位置を図式化し比較すると以下のとおりになり、支援協スキームが「官」を介在した手続であるのに対し、中小企業事業再生GLは「民」を介在した手続となります。

      【支援協スキーム】           【中小企業事業再生GL】

      中小企業再生支援協議会          第三者支援専門家

     対象債務者 ⇔ 対象債権者       対象債務者 ⇔ 対象債権者

 

両制度の大雑把な違いは以下のとおりです。

 

中小企業事業再生GL

支援協スキーム

手続関与者

第三者支援専門家(民)

再生支援協議会(官)

対象債権者

リース債権者も対象

リース債権者は対象外

対象債務者

学校法人、社会福祉法人等も利用可

学校法人、社会福祉法人等は利用不可

 

3 対象債務者・対象債権者等

(1)対象債務者

 (ⅰ)中小企業者(中小企業基本法2条1項)

    ※ 個人である中小企業者、学校法人、社会福祉法人等も対象としています(GLQ&A3)。

※ 基本法2条5項の小規模事業者も含まれます(おおむね常時使用する従業員の数が20人以下、商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については、5人以下)。なお、小規模事業者については、後述の数値基準が緩和されています(GL第三部1.4(4)②参照)。

 (ⅱ)要件

    ア 再生型私的整理手続

     ① 収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じることで経営困難な状況に陥っており、自助努力のみによる事業再生が困難であること

     ② 中小企業者が対象債権者に対して中小企業者の経営状況や財産状況に関する経営情報等を適時適切かつ誠実に開示していること

     ③ 中小企業者及び中小企業者の主たる債務を保証する保証人が反社会的勢力又はそれと関係のある者ではなく、そのおそれもないこと

    イ 廃業型私的整理手続

     ① 過大な債務を負い、既存債務を弁済することができないこと又は近い将来において既存債務を弁済することができないことが確実と見込まれること(法人の場合は債務超  過の場合を含む)

     ② 円滑かつ計画的な廃業を行うことにより、中小企業者の従業員に転職の機会を確保できる可能性があり、経営者等においても経営者保証に関するガイドラインを活用する等して、創業や就業等の再スタートの可能性があるなど、早期廃業の合理性が認められること

     ③ 中小企業者が対象債権者に対して中小企業者の経営状況や財産状況に関する経営情報等を適時適切かつ誠実に開示していること

     ④ 中小企業者及び中小企業者の主たる債務を保証する保証人が反社会的勢力又はそれと関係のある者ではなく、そのおそれもないこと

)対象債権者

   銀行、信金、信組、労金、農協、漁協、政府系金融機関、信用保証協会(代位弁済を実行し、求償権が発生している場合。保証会社含む。)、銀行等からの債権譲渡を受けているサービサー等及び貸金業者

  ※ リース債権者は、廃業型の場合は原則として、再生型の場合は必要に応じて対象債権者となります(GLQ&A20)。

(3)外部専門家

   中小企業者が、手続の利用にあたって、必要に応じて相談する弁護士、公認会計士、税理士等(弁護士なら、代理人として計画策定支援や交渉等にあたることになります。)。

(4)第三者支援専門家

   第三者である支援専門家(弁護士、公認会計士等の専門家であって、再生型私的整理手続及び廃業型私的整理手続を遂行する適格性を有し、その適格認定を得たもの

 

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土地法制改正⑦不動産登記法

2022.05.30

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1 相続登記の申請義務化等

(1)改正の経緯

相続登記の申請が義務とされていないことや、また、費用や手間をかけてまで登記申請したくないと考える場合も少なくないことが、相続登記未了の原因となり、結果として、所有者不明土地発生の最大の温床となっていました。そこで、相続登記申請の義務化とその義務履行を簡易にできる制度について、不動産登記法が改正されました(以下、改正不動産登記法を、単に新法といいます。)。

なお、これらの点に関する新法施行日は、令和6年4月1日になっています。

(2)相続登記の申請義務化

ア 義務内容

相続(特定財産承継遺言による場合を含むとされています。なお、特定財産承継遺言については、https://kawanishiikeda-law.jp/blog/2000/ をご覧ください。)や遺贈によって不動産を取得した相続人に対し、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました(新法76条の2)。

さらに、例えば、上記登記が遺産分割前の暫定的な法定相続分に基づく共同相続登記等である場合において、その後に遺産分割が成立したときには、その内容を踏まえた登記申請をすることも義務付けられています(新法76条の2-2項)。

イ 過料の制裁

正当な理由がないのに相続登記申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処されます(新法164条1項)。この「正当な理由」の具体的な内容は、後日、通達等であらかじめ明確化される予定です。過料を科する際の具体的手続についても、事前に義務の履行を催告することを必要とする等、後日同様に、省令等で明確に規定される予定となっています。

(3)義務履行の簡易化

①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで、上記(2)の相続登記申請義務を履行したものとみなしてもらえます(新法76条の3)。

申出をした相続人の氏名・住所等が職権で登記に付記され、これを「相続人申告登記と呼ぶことになります。「相続人申告登記」は、単独申出可、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が不要、資料収集の負担の軽減という3つの点で簡易な方法といえます。また、令和4年度税制改正の大綱では、相続人申告登記を非課税とする方針がとられています。

(4)経過措置

施行日(令和6年4月1日)前に相続が発生していたケースについても、相続登記の申請義務は課されます。ただし、申請義務の履行期間については、施行日か要件を充足した日のいずれか遅い日から3年間として起算されます(令和6年3月31日までに発生した相続でいえば、令和9年3月31日までに申請義務を履行すべきことになります。)。

 

2 所有不動産記録証明制度の創設

(1)改正の経緯

相続が発生した場合にその相続人が被相続人所有名義の不動産を名寄せして知ることができる制度があれば、相続財産調査の煩雑さを軽減でき、ひいては相続登記未了の予防につながると考えられました。そこで、登記官において、特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度が新設されました(新法119条の2)。これを「所有不動産記録証明制度」と呼び、かかる制度による証明書を「所有不動産記録証明書」といいます。

なお、これらの点に関する新法施行日は、本ブログをアップした現時点では決まっていませんが、新法公布日から概ね5年とされていますので、令和8年4月1日頃と予想されます。

(2)交付請求可能者

所有不動産記録証明書の交付請求が可能な者は、以下のとおりです。

ア 新法119条の2-1項によれば「何人も…交付を請求することができる」とされているので「自らが所有権の登記名義人として記録されている者」だけでなく「所有権の登記名義人として記録されている不動産がない者」も、請求が可能です。この場合には、該当する不動産の記録がない旨の証明書が交付されます。

イ 相続人その他の一般承継人(新法119条の2-2項)。

 

3 住所変更登記等の申請の義務化

所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付けられ(新法76条の5)、「正当な理由」がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処されます(新法164条2項)。この「正当な理由」の具体的な内容は通達等で、過料を科す手続は省令等で明確にされる予定です。

上記変更登記は、登記官が職権ですることも可能で、その場合自然人に対しては法務局からの意思確認がなされる手続となっています。

なお、これらの点に関する新法施行日は、本ブログをアップした現時点では決まっていませんが、新法公布日から概ね5年とされていますので、令和8年4月1日頃と予想されます。

そして、住所変更登記申請の義務化についても、義務履行期間の起算日に関して経過措置が設けられ、施行日か要件を充足した日のいずれか遅い日から2年間として起算されます(令和8年3月31日までに発生した住所変更でいえば、令和10年3月31日までに申請義務を履行すべきことになります。)。

 

4 その他の登記手続の簡略化

(1)遺贈を原因とする所有権移転登記

従来:登記権利者(受遺者)と登記義務者(被相続人の全相続人又は遺言執行者)との共同申請

新法:相続人が受遺者である場合に限り、登記権利者である受遺者による単独申請が可能(新法63条3項)。例えば、遺贈によって共同相続人ABCの中の一部の者であるABの共有とされた不動産について、Aが単独でAB共有名義とする登記を申請することも実務上可能と考えられています(部会資料57・9頁)。

(2)法定相続分での相続登記後に、①遺産の分割の協議又は審判若しくは調停、②他の相続人の相続放棄、③特定財産承継遺言、④相続人が受遺者である遺贈による、所有権の取得に関する登記申請をする場合

従来:登記権利者と登記義務者の共同申請

新法:単独申請による更正登記が可能

これらの点に関する新法施行日は、本ブログをアップした現時点では決まっていませんが、新法公布日から概ね2年とされていますので、令和5年4月1日頃と予想されます。

 

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空家対策特別措置法

2022.04.26

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1 はじめに

土地法制改正の連載中ですが、所有者不明土地管理制度の解説をしたことから( https://m2-law.com/blog/4734/ )、これと関連する空家等対策特別措置法(以下「特別措置法」乃至は単に「法」ということがあります。)について解説します。ちなみに、写真は、村上の故郷の福知山で行われたかかる特別措置法に基づく代執行がされた建物です。ネット情報ですが、特別措置法については福知山という地名を見聞きすることが多く、福知山市が頑張っているように思います。

2 制定理由

空家は、適切な管理が行われず、防災、衛生及び景観を害するなど、特に地域住民の生活環境に悪影響を与えることがあります。そこで、空家に関する問題に対処し、地域住民の生命・身体・財産の保護及び生活環境の保全するとともに、空家等の活用を促進することを目的として、空家等対策特別措置法が制定されました(法1条)。

3 空家の種類
 空家対策特別措置法は、空家について、「空家等」と「特定空家等」という2つの定義を置いています。おおまかにいうと、「空家等」という大きな括りの中で特に問題があるものが「特定空家等」に当たるという建付けになっています。
 特定空家等に当たると、後述のとおり、指導、勧告や行政代執行の対象となり得る点が重要です。
 具体的には、空家等については、「この法律において『空家等』とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。」(法2条1項)と規定されています。
 また、特定空家等については、「この法律において『特定空家等』とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。」(同条2項)と規定されています。

4 制度概要

  それでは、空家対策特措法は、どのような内容となっているのでしょうか。

(1)基本指針・計画の策定等

  まず、国や公共団体に対しては、国が空家等に関する施策の基本指針を定めること(法5条)、市町村は国の指針に則した空家等対策計画を定めることができる旨(法6条)及び協議会を設置が可能であること(法7条)を規定しています。また、都道府県は、市町村が講ずる措置に対する助言や市町村相互の連絡調整等の必要な措置を行うように努めるものとされています(法8条)。

  このように、国や地方公共団体が相互に連携して空家問題に取り組むべきであることが定められているといえるでしょう。

(2)空家等についての情報収集等

  外観上危険と認められる空家等に対する情報収集のための立入り(法9条)や所有者等の把握のために固定資産税情報の内部利用(法10条)が可能であることなどが規定されています。また、市町村長が、空家等の所有者に対し、管理のための情報提供や助言などができることも定められています(法12条)。

(3)空家等及び跡地の活用・財政上の措置及び税制上の措置等

  空家等の跡地の活用(法13条)や財政上の措置及び税制上の措置等(法15条)に関する規定も設けられています。財政上の措置及び税制条の措置については、以下の7で詳しく解説します。

(4)特定空家等に対する措置

  空家等のうち、特定空家等については、市町村長は、特定空家等の所有者等に対し、除却、修繕、立木竹の伐採についての助言又は指導、勧告、命令が可能とされています(法14条1項乃至3項)。さらに、命令を受けたにもかかわらず対象者が必要な措置を取らない場合には、行政代執行により強制的な実現が可能と規定されています(同条9項)。また、そもそも命令の対象者が確知できない場合には、通常の代執行の手続きより簡略な略式代執行により必要な措置の実現が可能とされています(同条10項)。

  また、上記のうち、「勧告」に従わなかった場合には固定資産税等の住宅用地特例の例外除外(地方税法349条の3の2第1項括弧書)、「命令」に従わなかった場合には50万円以下の過料の制裁(法16条1項)も規定されています。

5 空家等対策特措法の施行後の状況

  空家等対策特措法は、平成27年2月26日に施行されました。現時点(令和4年)では、同法施行から既に5年以上が経過しています。令和3年2月4日に国土交通省から「空家対策特措法について」という資料が公開されており、同資料4頁以下に空家対策特措法の施行後の状況が記載されています。ここでは、同資料に基づき、空家対策特措法の施行後の状況を紹介します。詳細な数字については上記資料もご参照ください( 001385948.pdf (mlit.go.jp ) 。
 まず、空家等対策計画についてみると、約7割の市区町村で空家等対策計画が既に策定され、かつ、今後策定する予定がある市区町村も約2割に上ります。同法に基づく行政代執行や略式代執行についても、令和2年3月31日時点で、それぞれ69件及び191件の実施件数があります。
 市区町村の取組みにより除去等がされた特定空家等は、上記の代執行等の件数も併せて、1万1887物件にも上ります。もっとも、特定空家等は、市区町村が把握しているだけでも、まだ1万7636物件も残存しています。そのため、今後も、空家問題への取組みは続くものと思われます。

6 所有者不明建物・管理不全建物管理制度との関係

 空家対策特措法が施行され、同法に基づく取組みも着実に増加してきました。もっとも、以前ブログで解説した通り、土地法制改正により、その中で所有者不明建物・管理不全建物管理制度が創設されています。特定空家等についても、所有者不明建物管理制度等の要件が満たされれば、この管理制度の利用(併用)も考えられるところです。

 例えば、特定空家等かつ所有者不明建物を除却する場合、市町村長は、略式代執行の方法によることも考えられます。
 しかし、略式代執行の要件充足性を判断することは困難であるとともに、代執行費用の予算措置が必要で、事後的に代執行費用を回収することも困難です。そのため、法的には略式代執行の方法によることができるとしても、現実には、略式代執行を行うことが難しい場合もあり得ます。

 これに対し、所有者不明建物管理制度を利用した場合には、建物の管理は管理人が行うこととなり、また、一定の予納金が必要であるものの、建物の売却により予納金が回収できる場合もあり得るなどのメリットがあります。また、管理人が選任されると、この管理人は、同時に空家対策特別措置法3条にいう「管理者」に該当すると解されます。そのため、市町村長は、管理人に対し、空家対策特別措置法に規定された指導等の各種の権限行使も可能となると考えられます。もっとも、所有者不明建物管理制度は、「利害関係人」が申し立てなければなりません(民法264条の14第1項)。当該空家の隣人等は「利害関係人」に当たると考えられますが、公共団体の長が「利害関係人」に当たるかどうかは議論があったことから、所有者不明土地利用円滑化特措法新38条2項で、公共団体の長も「利害関係人」にあたるとされました(ただし、令和5年4月1日施行)。

 このように、所有者不明土地関係法改正で制定された制度と空家対策特措法に基づく制度のいずれを利用するか、あるいはこれらの制度を組み合わせて利用するかは、事案に応じて具体的に検討する必要があるといえます。

 

7 財政上の措置及び税制上の措置(法15条関係)

(1)財政上の措置

 先ず、法15条1項は「国及び都道府県は、市町村が行う空家等対策計画に基づく空家等に関する対策の適切かつ円滑な実施に資するため、空家等に関する対策の実施に要する費用に対する補助、地方交付税制度の拡充その他の必要な財政上の措置を講ずるものとする。」としています。
そして、空家の「活用」については、地方公共団体が行う場合は国費による1/2を限度とした交付を、民間が行う場合は国費による1/3・地方自治体による1/3を限度とした交付を受けることが可能です。空家の「除去」については、地方公共団体が行う場合は国費による2/5を限度とした交付を、民間が行う場合は国費による2/5・地方自治体による2/5を限度とした交付を受けることが可能です。
 
(2)税法上の措置
 
 次に、法15条2項は「国及び地方公共団体は、前項に定めるもののほか、市町村が行う空家等対策計画に基づく空家等に関する対策の適切かつ円滑な実施に資するため、必要な税制上の措置その他の措置を講ずるものとする。」としています。具体的には、以下のような措置があります。
 
ア 空家の固定資産税等について

空家の放置で税金が6倍になることがあります。

住宅用地については、固定資産税と都市計画税の課税標準の特例(地方税法349条の3の2、702条の3)があり、例えば、小規模住宅用地については特例で固定資産税の課税標準が6分の1になっています。しかし、空家を適切に管理せずに放置し続けると特定空家(法2条2項)と判断されることがあり、状態改善するよう助言・指導、勧告をされることで、上記の特例の適用対象外となってしまいます(地方税法349条の3の2)。

イ 相続した空家等の譲渡の所得税について

相続した空家の譲渡(平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間の譲渡で、当該相続の開始があつた日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にしたもの)では、譲渡所得から3,000万円を特別控除されることがあります(租税特別措置法35条3項)。ただ、この特別控除の特例を受けるための要件は多く、ご自身の譲渡が充たしているか確認する必要があります。

まず、①家屋と敷地の両方を相続②その家屋が昭和56年5月31日以前に建築③売却先が第三者(配偶者や親族、同族会社等でない)④売却金額が1億円以下であることが必要です。家屋又は家屋と敷地の売却をする場合は、⑤家屋が相続開始時から売却時まで空き家であった(相続人等の居住の用等に供されていない)⑥売却時に耐震性があることが必要ですし、相続した居住用家屋を取り壊した後その敷地の用に供されていた土地等の売却をする場合も、⑤と同じようなことが求められます。

                                                                                   以上

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土地法制改正⑥所有者不明土地管理制度等

2022.04.09

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1 はじめに

  土地法制改正①総論(https://m2-law.com/blog/4048/)でも触れましたが、所有者不明土地問題の一つの側面として、所有者不明土地が管理不全状態になりやすいという問題があります。

  今回ご紹介する「所有者不明」「土地等」管理制度・「管理不全」「土地等」管理制度(民法264条の2以下及び264条の9以下)は、こうした問題に対処しようとする制度です。
 以下では、所有者不明土地管理制度に重点を置いて解説を行い、その他の制度については簡単に解説を行うこととします。

  これらの制度の施行は、令和5年4月1日からです。

2 所有者不明「土地」・「建物」管理制度

  財産の管理に関する制度としては、これまでも、不在者管理制度(民法25条1項)や相続財産管理(民法952条)がありました。しかし、これらの制度では、不在者等の財産の全てが管理の対象になり、管理費用が高額になるという問題があります。
 今回創設された所有者不明土地等管理制度等の特徴は、従前の不在者や被相続人といった「人」に着目した管理と異なり、所有者不明土地等という「物」に着目した管理を可能とするところにあります。

(1)所有者不明「土地」管理制度

   まず、所有者不明土地管理制度について解説します。

  ア 具体例

 所有者不明土地管理制度の利用が検討される例としては、隣地が管理不全状態で草木が生い茂ったり、工作物が倒壊し又は倒壊の危険が生じているなどして、自己所有地に妨害状態が生じ又は生じるおそれがあるといった場合が考えられます。
 このような場合、当該土地の所有者は、隣地の所有者に対し、妨害状態の排除や予防を請求することが出来ます。
 しかし、そもそも隣地の所有者が不明であれば、このような請求をする相手方が不明であり、所有者が対応に窮する可能性があります。
 このような場合には、甲土地の所有者は、所有者不明土地管理制度を利用し、選任された所有者不明土地管理人に対し、妨害排除や予防を請求することができるようになります。

イ 要件等

 では、どのような場合に、所有者不明土地管理制度を利用できるのでしょうか。
 まず、対象土地について、「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない」ことが必要です(民法264条の2第1項)。所有者が誰かわからない場合だけでなく、所有者がどこにいるかわからない場合も含まれます。
 そして、この制度を利用できるのは、「利害関係人」(同項)及び「国の行政機関の長又は地方公共団体の長」(所有者不明土地利用円滑化特措法新38条2項・施行日は同じく令和5年4月1日)です。「利害関係人」についてみると、どのような人が「利害関係人」当たるかは法律には明記されていないのですが、例えば単なる隣人は「利害関係人」含まれないものの、隣地の管理不全状態により悪影響を被っている者は「利害関係人」当たると考えられています。
 上記の「利害関係人」等は、裁判所に対し、所有者不明土地管理命令の申立を行います。そして、裁判所は、「必要があると認めるとき」には、所有者不明土地管理命令を発令し、所有者不明土地管理人が選任します(民法264条の2第1項、4項)。この必要性についてですが、必要性がないと考えられる場合の例としては、不在者管理など他の財産管理制度が既に利用されている場合が考えられます。
 なお、管理費用については、当該土地の所有者が負担するのが原則です(民法264条の7第2項)。しかし、予納金が必要な場合もあるとされています(民法267条の7第1項参照)。

  ウ 効果

    このようにして、所有者不明土地管理人が選任されると、当該土地等の管理処分権は、所有者不明土地管理人にのみ帰属することになります(民法264条の3第1項)。
 所有者不明土地管理命令の効力は、当該土地と土地上の一定の動産などに及び(民法264条の2第2項)、所有者不明土地管理人は、これらの物の保存行為や対象財産の性質を変えない範囲における利用・改良行為をすることができます(民法264条の3第2項各号)。
 また、所有者不明土地管理人は、裁判所の許可を得れば、当該所有者不明土地の所有者の同意がなくても、対象土地を売却することが出来ます(民法264条の3第2項柱書本文)。そのため、民間事業や公共事業に際して所有者不明土地を買受けを希望する者(このような者も前記「利害関係人」に当たり得ます。)が同制度の申立てを行い、管理人から買受けることによって、土地利用の活性化にもつながると期待されているのです。

(2)所有者不明「建物」管理制度

   以上のような所有者不明土地管理制度とは別に、今回の改正では、建物についての所有者不明建物管理制度(民法264条の8)も定められました。
 建物についての管理制度を創設しなくても、「土地の管理制度の効力を建物に及ぼせばよいのではないか」と考えられるかもしれません。
 しかし、土地と建物は別個の物とされているため、土地と建物の所有者が異なる場合があります。その場合に同一の管理人が、土地と建物の双方とも管理するとすれば、利益相反のおそれがあるのです。例えば、土地上の家屋が老朽化している場合、土地の所有者からみれば建物の解体が利益になりますが、家屋の所有者からすれば建物の存続が利益になります。
 そのため、今回の改正では、土地と建物のそれぞれについて管理制度が創設され、それぞれ規定が整備されることとなったのです。
 もっとも、土地と建物の双方の所有者が同一の場合には、利益相反のおそれがないことから、土地と建物について同一の管理人が専任される場合も多いと思われます。

3 「管理不全」土地・建物管理制度

 以上のような所有者不明土地・建物管理制度が創設されたのですが、不動産の管理不全状態は、所有者が不明である場合にのみ生じるわけではありません。例えば、所有者が誰かが判明し、かつ、どこにいるかがわかったとしても、遠方に暮らしている等の理由により、土地等を管理する意思が希薄であるという場合も考えられます。

 このような場合に対処するため、今回の改正では、管理不全土地等管理制度(民法264条の9及び民法264条の14)も創設されました。
 管理不全土地等管理命令の発令要件は、①対象土地又は建物の所有者による管理が不適当なことによって「他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある」こと、②「利害関係人」による申立て及び③「必要があると認め」られることです(民法264条の9第1項、民法264条の14第1項)。
 管理不全土地等管理命令が発令されると、管理人は、当該対象土地等につき、保存行為等をすることができます(民法264条の10)。
 もっとも、所有者不明土地等管理命令と異なり、管理不全土地等管理管理人は、所有者の同意なく、当該土地等を処分することはできません(民法264条の10第3項)。

4 所有者不明土地等管理制度と管理不全土地等管理制度

  ここまでの解説で、所有者不明土地等管理制度(要件は「所有者不明等」です。)と管理不全土地等管理制度(要件は「管理不適当」です。)のどちらの要件もみたす場合にはどうなるのかという疑問を持たれるかもしれません。

  すなわち、所有者不明であるがゆえに管理不全状態となっている土地・建物については、どちらの制度を使えばよいのかという問題です。
 法律上は、どちらの制度を利用することも可能です。もっとも、所有者不明土地等管理制度の方が、所有者の同意なく、裁判所の許可のみで、土地等を処分できる点で管理人の権限が大きいと考えられます。

  そのため、両制度の双方の要件を満たす場合には、所有者不明土地等管理制度を利用する方がよいと思われます。

5 まとめ

  今回は、所有者不明土地等管理制度・管理不全土地等管理制度について、所有者不明土地管理制度を中心に解説をしました。もっとも、ブログ記事の性質上解説を省略した箇所もあります。
 土地・建物の管理については、本文でも言及した相続財産管理制度など、利用可能な制度が複数存在することもあります。具体的にどの制度を利用するべきかは、それぞれの制度の特色やメリット・デメリットを踏まえたうえで検討する必要があります。

                                              以上

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未成年取消権

2022.03.31

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令和4年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。その際、一番危惧されていることは、民法上の未成年取消権を使えなくなる年齢層が増えるという点です。

未成年取消権とは、民法5条が定める制度で「未成年が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。…前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」というものです。例えば、親(法定代理人)の同意なく契約(法律行為)をしたとしても、未成年であるならば「未成年という理由だけで」契約を取り消せます。契約の目的物に問題があったというような理由は不要です。

何故、そのような制度が存在するかといえば、未成年者は判断能力に乏しく騙されやすいから定型的な保護が必要という点なのでしょうが、日本の実情からみて未成年の成熟度が増してきているのか(昔と比べて18歳にもなれば立派な判断能力がある)といえば、疑問が湧くところです。建前としては、若者の自己決定権の尊重と世界の趨勢(世界の80%では18歳からが成年)というのが成年年齢引き下げの理由になっていますが、それでいいのかということですね。

国民生活センターが関係するパイオネット情報によれば、18歳から24歳までの若者の相談件数は、以下のとおりで、その半数以上が18歳・19歳です。

       全体   18・19歳   割合

2018年 7393   4035   54.5%

2019年 8571   5203   60.7%

2020年 7741   4820   62.2%

相談内容としては、ダイエットサプリ、除毛剤の定期購入、洋服などの模倣品、アダルトサイト等が多く、契約としての要保護性がどこまであるのか疑問もあり、ただ、その目的物に問題(瑕疵)があったと直ちに言い切れるかどうかもわからないので、未成年取消権という武器を失うことは、18・19歳の人には大きなことなのかもしれません。一層の注意が必要です。

以下は、国民生活センターの関連ページです。関心ある方は、どうぞ。

 

 

狙われる!?18歳・19歳「金(かね)」と「美(び)」の消費者トラブルに気をつけて!(発表情報)_国民生活センター (kokusen.go.jp)

 

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土地法制改正⑤相続土地国家帰属制度

2022.03.25

1 はじめに

  今回は、所有者不明土地関連法の一つとして制定された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」について解説します(以下「法」と言います。)また、この法に基づく制度を「相続土地国庫帰属制度」といいます。なお、法の施行は、令和5年4月27日からです(「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の施行期日を定める政令」(令和3年12月14日閣議決定))。

2 制度の概要及び制定理由

(1)制度概要

   今回創設された相続土地国庫帰属制度は、相続により取得した土地を手放し、国庫に帰属させるための制度です。相続財産等を手放す仕組みとしては、相続放棄(民法939条)も考えられるところです。しかし、今回創設された相続土地国庫帰属制度は、相続放棄と比較すると、その土地のみを手放すことができるという点に特色があります。すなわち、相続放棄をすると初めから相続人とならなかったものとみなされるため、被相続人の財産の全てを取得することができません。しかし、相続土地国庫帰属制度では、取得した財産のうちで当該土地だけを手放すことができるのです。

(2)制定理由

   以上のように「土地を手放すための制度」として創設された相続土地国庫帰属制度ですが、なぜこの制度が作られたのでしょうか。

   その理由は、主に次の2つです。

ア 土地を手放したいと考える人の増加
 まず、1つめとしては、土地を手放したいと考える人が増加していることです。
 例えば、既に地元を離れて生活している場合、相続によって地元の土地を取得したとしても今後活用することが見込めなければ、土地所有者としての管理の負担ばかりがかかるということもあります。このような場合には、土地を手放すニーズがあります。

イ 所有者不明土地及び管理不全土地の発生予防
 次に、所有者不明土地や管理不全土地の発生予防という理由があげられます。法1条にも、「所有者不明土地の発生の抑制を図ることを目的とする」と明記されているところです。
 総論( https://m2-law.com/blog/4048/ )の記事でも述べましたが、所有者不明土地問題の解決のためにアプローチとして、発生予防の視点と利用円滑化の視点が必要です。欲しくもない土地を手放せずに所有し続ける場合について考えると、例えばそのような土地について相続登記をしようとは考えないでしょうし(相続登記がされないことは所有者不明土地の発生原因の一つです。)また、管理も積極的に行いたいとは考えないでしょう。その土地が放置されたまま、さらに相続が繰り返されると、所有者不明土地が発生してしまうことになります。
 相続人が土地を手放すことができれば、このような事態を回避することができることになります。

3 要件

  では、相続等により取得した土地であればどのような場合でも相続土地国庫帰属制度を使うことができるかといえば、そうではありません。この制度を使うためには、以下の要件を満たす必要があります。

(1)主体に関する要件

   まず、「誰が」この国庫帰属制度を利用できるのかという点についてみていきます。

   この制度を利用できるのは、原則として、相続又は遺贈により土地所有権の全部又は一部を取得した者です(法2条1項)。

(2)土地に関する要件
 次に、「どのような土地」であれば、相続土地国庫帰属制度が使えるのかについてみていきます。
 法には、この制度を利用できるための土地の要件として、

   ①土地上に建物がないこと
   ②担保権・用益物権が設定されてないこと
   ③通路など他人による使用が予定されている土地でないこと
   ④土壌汚染がないこと
   ⑤境界が不明でなく、所有権の存否、帰属又は範囲の争いがないこ
    と
   ⑥管理・処分に過分の費用・労力を要するような崖地でないこと
   ⑦通常の管理・処分を阻害するような工作物、車両又は樹木等がな
    いこと
   ⑧通常の管理・処分を阻害するような埋設物がないこと
   ⑨隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常
    の管理又は処分をすることができない土地として政令で定める
    もの
   ⑩その他管理・処分に過分の費用・労力を要しないこと

の10個の要件が定められています(法2条3項、5条1項)。
 したがって、相続土地国庫帰属制度を使うためには、当該土地が、上記10個の要件を満たしている必要があります。

4 手続き

  それでは、実際には、どのような手続きにより相続土地国庫帰属制度を利用できるのでしょうか。

  この制度により土地を手放すための手続きの流れは、①承認申請(法3条)→②法務大臣(法務局)による審査(法5条)→③負担金の納付となっています(法10条)。
 負担金というものが出てきました。実は、相続土地国庫帰属制度を利用して土地を手放すのは無料ではないのです。負担金の額は、10年分の土地管理費相当額とされています。負担金の具体的な額や計算方法については、今後政令で定められることとなりますが、目安として、現在の国有地の管理費用が参考になります。
 国有地の標準的な管理費用10年分の額は、粗放的な管理で足りる原野で約20万円、市街地の宅地 (200㎡) で約80万円となっています。
 したがって、上記負担金の額を考えるにあたっても、この額が一応の目安になると思われます。
 また、上記①の承認申請時に、審査手数料も必要となります。

5 まとめ

  今回は、新しく制定された相続土地国庫帰属制度につき解説しました。相続土地国庫帰属には、管理に手間のかかる土地を手放し、管理等の負担から解放されるというメリットがあります。しかし、予納金等の費用もかかるなど、全くデメリットがないとはいえないところです。

  国相続土地国庫帰属制度は新しい制度で、要件等についてまだまだ様々な議論があるところです。そのため、今後の利用状況が注目されています。実際にこの制度を利用するかどうかを考えるにあたっては、今後の運用状況も参考にしつつ、メリット・デメリット等を考慮して検討する必要があります。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          以上

 

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土地法制改正④共有

2022.03.08

 

第1 はじめに

 所有者不明土地が共有地であることは少なくないですが、共有制度に起因して問題が生じている場面が指摘されていたため、共有物の管理・変更規定を見直し、共有物の管理者に関する規定の整備、共有状態の解消を促進する制度が設けられました。以下、それぞれについて、解説します。

 

第2 共有物の変更・管理規定の見直し

 1 民法は、共有物に対する変更・管理・保存といった行為に応じて、単独で出来るのか一定程度の共有者の同意(価格の過半数・全員)が必要なのかを定めています(共有物全体の処分には全員の同意が必要と解釈されています。)。ただ、必ずしもその概念・内容・範囲が明確ではなく、実務上慎重を来す意味で、共有者全員の同意を必要と解した結果、共有者の一部の反対あるいは所在不明によって当該行為を断念せざるをえないという事態が発生していました。それと関連し、以下のような規定の見直しがされました。

2 共有物の変更・管理規定の整理

(1)旧民法と比較しながら新民法を整理すると以下のとおりになります。

    旧民法              新民法

変更  全員の同意      251条    全員の同意(軽微変更を除く)251条1項

管理  過半数の同意     252条本文  過半数の同意(軽微変更・管理) 251条1項、252条1項

保存  他の共有者の同意不要 252条但書  他の共有者の同意不要 252条5項

(2)軽微変更

軽微変更とは「形状・効用の著しい変更を伴わないもの」とされています(新民法251条1項)。重要なのは「費用の多寡」が基準とされていない点で、費用が多額になりやすいもの(例えば、砂利道のアスファルト舗装、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事)も「軽微変更」として、過半数の同意で可能な場合があるとされていることです(とはいえ、軽微変更か否かは事後的客観的に裁判所が判断する解釈問題なので、慎重な対応が必要です。)。

(3)管理

従前から、共有物の賃貸については議論がありましたが、新民法252条4項では、短期賃貸借は「管理」行為とされました(例えば、山林等以外の土地賃貸借等は5年、建物の賃貸借等は3年。ただ、借地借家法が適用される場合は別といわれています。)。

(4)所在等不明共有者について

新民法251条2項は、共有物の「変更」について「共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。」としています。

また、新民法252条2項は、共有物の「管理」について「裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。」としています。

 

第3 共有物の管理に関する規定の整備

 1 共有物を使用する一部共有者に対する明け渡し

 (1)従前、無断で、共有物を使用する一部共有者に対する明け渡しであったとしても、他の共有者全員の同意を得てしなければならないとする見解が有力でした。しかし、例えば、共有物の賃貸借がされている場合であったとしても、管理行為の一環であれば、過半数の同意で可能な筈です。

(2)そこで、新民法251条1項は、第1文で「共有物の管理に関する事項…は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」とした上、第2文で「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。」としました。

このように改正された結果、原則として、共有者の過半数の同意で一部共有者に対する明け渡しをすることができると解釈されています。ただ、一部共有者の利益にも配慮し、新民法251条3項は「前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」としました。特別の影響を及ぼす場合とは、例えば、一部共有者が共有物を利用できる定めがあるときに、使用者を変更したり、使用条件(期間)を変更したり、使用目的(店舗営業・住居専用)を変更したりする場合とされています(部会資料40・3頁)。

 2 共有物の管理者

(1)共有物の管理者の選任についても、過半数で決することができるのか議論があったことから、新民法251条1項括弧書は、これが可能であることを明示し「共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み…)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」としました。

(2)共有物の管理者に関する規定は、以下のとおりです。

第二百五十二条の二 

1 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。

4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

 

ア 管理者は、決定された管理事項に従ってその職務を行わなければなりませんが(新民法252条の2-3項)、特段の定めをしていない場合には、共有者の意見を聞くなどしながら、自己の判断で、共有物を適宜管理することになります。

イ 4項では、3項違反の行為は、「共有者に対してその効力を生じない」ことと、「これをもって善意の第三者に対抗することができない」ことが定められており、第三者保護の要件としては善意のみで足りることとなっています。

 

第4 共有状態の解消を促進する制度

 1 裁判による共有物分割

 (1)裁判による共有物分割に関する新民法258条の規定は、以下のとおりです。

第二百五十八条 

1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。

2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。

一 共有物の現物を分割する方法

二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法

3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

(2)ポイントは、以下の点です。

  ア 1項では、分割請求できる場合について、「共有者間に協議が調わないとき」のほかに「協議をすることができないとき」が加えられました(従前も、前者に後者が含まれると解されていました。)。

  イ 2項2号では、これまで判例が認めてきた価格賠償が新たに明文化されました(最大判昭和62年4月22日参照)。現物分割と価格賠償分割が並列に挙げられており、これらには優劣関係はなく事案に応じて裁判所が適切な方法を選択できます。

ただ、全面的価格賠償が認められるための要件の明文化は見送られましたので、今後も判例(最1小判平成8年10月31日)を参考にする必要があります。ちなみに、上記最高裁判例では「当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される」とされています。

ウ 3項では、競売による代金分割が現物分割・価格賠償分割に劣後するとされています。

エ 4項では、給付命令の内容が明文化されましたが「裁判所は…できる」とされているだけなので、引き換え給付を必要と考えるのであれば、裁判所の職権を促す等の対応が必要な場合があります。

2 所在等不明共有者の持分の取得・譲渡

(1)持分取得の裁判

    共有者が他の共有者から持分を取得しようとしても、共有者の一部が特定できない場合には裁判による共有物分割を用いることができません。また、裁判による共有物分割が可能な場合も、裁判では一定の時間がかかることや具体的な分割方法が裁判所の裁量的判断事項でその結果を予測しにくいという問題がります。

そこで、所在等不明共有者の持分を取得しようとする場合、裁判所にその請求ができるようになりました(新民法262条の2)。

イ 新民法262条の2の規定は、以下のとおりです。

第二百六十二条の二

1 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。

2 前項の請求があった持分に係る不動産について第258条第1項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ 、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。

3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。

4 第1項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。

5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

(2)持分譲渡権限付与の裁判

    不動産の共有持分のみを売却して得る代金よりも、不動産全体を売却して持分に応じて受け取る代金の方が高額になりやすいことから、所在等不明共有者がいる場合にその持分についての譲渡権限を他の共有者が持てることは重要です。

また、不動産全体を売却する前提として共有物分割や上記持分取得制度を用いる方法では迂遠で手間や費用を要するという問題もありました。

新民法では、これらの問題を解消するため、上記(1)の持分取得の裁判に類似する形で、持分の譲渡権限付与の裁判手続についての規定が設けられました(新民法262条の3)。 

 

                                              以上

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土地法制改正③相隣関係

2022.02.28

相隣関係とは、隣接する不動産所有権等の相互の権利関係を意味します。相隣関係については、民法制定以来実質的な見直しがされてこなかったところ、所有者不明土地問題が生じている近年の社会情勢に合わせて見直しがされました(令和5年4月1日施行)。

 

第1 隣地使用権

隣地使用権に関する新民法の規定は、以下のとおりですが、重要点について解説します。

 

第二百九条 

1 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。

一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕

二 境界標の調査又は境界に関する測量

三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り

2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

4 第一項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

 

1 要件

(1)目的

   旧民法209条で認められていたのは「境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため」でしたが、以下の場合が追加されました。 

・「工作物の…収去」(新民法209条1項1号)

・「境界標の調査又は境界に関する測量」(2号)

・「233条3項の規定による枝の切取り」(3号)

(2)使用方法

旧民法209条で認められていたのは「必要な範囲内」での使用でしたが、その内容を明確にするため「使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者…のために損害が最も少ないものを選ばなければならない」とされました。

2 内容

(1)承諾請求権から使用権へ

旧民法209条では「隣地の使用を請求することができる」とされていましたが、新民法209条では「隣地を使用することができる」と改められ、承諾請求権構成から使用権構成に変わりました。ただし、隣地を使用する権利があると構成したとしても、その実現方法をどのように考えるのかは別の問題です。

例えば、部会資料52・2頁では「一般的に、権利がある場合であっても、自力救済は原則として禁止されているが、ここで問題になっている隣地の使用の場面に即していえば、当該隣地を実際に使用している者がいる場合に、その者の同意なく、これを使用することは、その者の平穏な使用を害するため、違法な自力救済に該当することになるのではないかと思われる。例えば、土地の所有者が、住居として現に使用されている隣地について、隣地使用権を有しているからといって、隣地使用者の同意なく門扉を開けたり、塀を乗り越えたりして隣地に入っていくことまではできないと思われる。」とされていますただ、後述する設備設置権に関してですが、それが使用者が存在しない所有者不明土地の場合にどうなるのかについては、議論があるようです「新しい土地所有法制の解説」有斐閣82頁) 

また、同じく部会資料52・2頁では「隣地使用者が通知を受けても回答をしない場合には、黙示の同意をしたと認められる事情がない限り、隣地使用について同意しなかったものと推認され、土地の所有者としては、隣地使用権の確認や隣地使用の妨害の差止めを求めて裁判手続をとることになると考えられる。」とされています。

以上から、承諾を得られないときは、原則として裁判手続をとる必要があることに変わりはなく、実務上の取扱いが大きく異なることにはならないといえます。

(2)手続

隣地使用者及び所有者の利益も保護する必要から、隣地使用の目的、日時、場所、方法を「隣地使用者と隣地所有者の両方」に通知する必要があります(新民法209条3項本文)。ただし、「あらかじめ通知することが困難なとき」は遅滞なく事後通知することで足ります(同項ただし書)。

3 住家の立入り

住家の立入りについては、従前から、判決をもって隣人の承諾に代えることはできないとされていましたが、改正後もその考えが維持されています(新209条1項ただし書)。したがって、必ず任意の承諾を得なければなりません。ただし、同条がプライバシーの保護を目的とすることから、プライバシーの保護を要しない部分(屋根、屋上、外部の非常階段等)、現に居住する者がいない場合は、上記でいうところの「任意の承諾」を得る必要はありません(判決で代替することが可能、東地判平11年1月28日参照)。

 

第2 設備設置権・設備使用権

これまで民法では、公の水流又は下水道に至るまでの排水としての低地への通水(民法220条)、通水用工作物の使用(民法221条)を定めるにとどまり、各種ライフラインの設備に関する規定は不十分であったことから、新たに条文が新設されました(新民法213条の2、3)。

その規定は、以下のとおりです(令和5年4月1日施行。それ以前の設備設置行為の適法性は旧民法時の判例法理に基づき判断されますが、設置場所の変更については新民法が適用されます。)。隣地使用権と内容が似ているので、特に異なる点を太文字・大文字・イタリックで示し、必要点のみ解説をします。

 

第二百十三条の二 

1 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第一項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。

2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

3 第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。

4 第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第二百九条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定を準用する。

5 第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。

6 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。

7 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

第二百十三条の三 

1 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第五項の規定は、適用しない。

2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

 

 

1 継続的給付として、例示されているのは電気、ガス、水道水の供給ですが「その他これらに類する」ものとして、下水道、電話等が含まれます。なお、設備設置権等は、土地の所有者に認められているもので、供給事業者対象ではありません(部会資料56・4頁)。なお、新法制定前の裁判例としては、平成31年3月19日東京地判が、給排水管とガス管について、民法220条(排水のための低地の通水)、221条(通水用工作物の使用)、下水道法11条(排水設備の設置等)を類推して、相手方の承諾を認めたものが参考になります。

2 自力救済が基本的に不可能であることや通知が必要であることは隣地使用権と同様です。ただし、設備設置権等では必ず事前通知が必要ですので(新民法209条3項参照)、通知の相手方が所在等不明の場合は、公示による意思表示等をすることになります。

 

 

第3 隣地の竹林の切除

旧民法では、隣地の竹木の境界線を越えたものが「根」である場合は、土地所有者が切り取ることができましたが「枝」である場合は、切り取りを隣地所有者に請求できるだけでした。「枝」に関するルールは、新民法233条1項でも原則的なものとして残っていますが、同3項ではそれが修正されました(以下、修正ルールといいます)。

第二百三十三条 

1 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。

3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。

一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。

二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

三 急迫の事情があるとき。

4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

 

1 修正ルール(新民法233条3項)

隣地の竹木の枝(境界線を越える部分)を自ら切除できる場合とされたのは3つです。

①「切除するよう催告したにもかかわらず…相当の期間内に切除しないとき」(1号):2週間が目安

②「竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」(2号)

③「急迫の事情があるとき」(3号)

2 竹木が共有物の場合(新233条2項)

(1)枝の切除は1項によって各共有者に対して求めることができ、当該共有者はそれに応じることができます。

(2)急迫の事情があるときは1項3号を根拠に認容判決を経ずに切除できますが、3号を根拠にできない場合は、竹木共有者全員について1号または2号の事情がなければ認容判決を経ずに切除することはできません。

    もっとも、多数の者に対し催告して自ら切除するのではなく、竹林の共有者の一人について認容判決を得て強制執行により枝の切除を実行するという方法もあります。

 3 費用負担についての明文化は見送られました。個別の事案ごとに、当事者間で協議や調整を行う必要があります。

 

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投稿者:弁護士法人村上・新村法律事務所

土地法制改正②遺産分割等

2022.02.14

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1 はじめに

  今回は、所有者不明土地の解消に向けた法改正のうち、相続に関する改正を解説します。今回解説するのは、①遺産分割に関する改正、②相続財産等の管理及び清算に関する改正です。相続に関係する改正としては、相続登記の義務化もありますが、こちらは不動産登記法の見直しについて紹介する記事で扱うことにし、今回は上記①及び②の改正について解説することとします。
 なお、今回解説する改正の施行日は、令和5年4月1日です(民法の一部を改正する法律の施行日を定める政令〔令和3年12月14日閣議決定〕)。

 

2 遺産分割に関する改正

(1)具体的相続分による遺産分割期間の制限

遺産分割期間の制限遺産分割に関する改正内容はいくつかありますが、そのなかでも重要なのは、具体的相続分による遺産分割期間の制限です。

  ア 改正内容

    今回の改正まで、遺産分割についての期間制限はありませんでした。しかし、今回の改正により、具体的相続分による遺産分割は、原則として、相続の開始時から10年間の間にしなければならないと規定されました。具体的相続分とは、生前贈与等の特別受益(民法903条)や寄与分(民法904条の2)を考慮して決まる相続分のことをいいます。
 具体的相続分による遺産分割ができないと、例えば、被相続人から生前贈与等を「受けていない」相続人の取り分が具体的相続分による場合に比べて減ってしまうことになります。
 それでは、実際にどのような条文になったのかを確認してみましょう。
 新民法904条の3柱書本文では、「前三条の規定(注:特別受益や寄与分について規定)は、相続開始のときから10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。」と規定されています。相続開始時から10年経過後にする遺産分割では、原則として、特別受益や寄与分を考慮されないこととなるのです。
 ここで、「原則として」と書いたのは、同じく、新民法904条の3で例外規定が定められているからです。
 同条ただし書では「ただし、次の各号のいずれかに該当するときには、この限りではない。」されています。そして、「次の各号」である同条1号及び2号では、例外事由として、①「相続開始のときから10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき」(1号)及び②「相続開始のときから始まる10年間の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅したときから6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき」(2号)が規定されています。
 相続開始時から、10年経過後でも、①や②に該当する事情があれば、具体的相続分による遺産分割が可能です。
 なお、上記の例外に加え、10年の経過後でも、相続人の間で具体的相続分によって遺産分割をするとの合意がされた場合は、その合意に基づく分割が可能と考えられています。

 具体的相続分(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/926)、特別受益(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/954)、寄与分(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/964)に関心ある方は、別途村上新村法律事務所のブログを参照ください。

  イ 改正理由

    それでは、なぜこのような具体的相続分による遺産分割期間の制限を設ける改正がされたのでしょうか。それは、所有者不明土地の発生予防や利用の円滑化のためと考えられます。
 本ブログの所有者不明土地関係法に関する総論の記事で、今回の改正は、所有者不明土地問題に対処するものであると解説しました。そこで解説した通り、所有者不明土地問題の解決には、発生予防の視点と利用の円滑化の視点が必要です。では、遺産分割の期間を制限することがどのように所有者不明土地の発生予防や利用の円滑化につながるのでしょうか。
 まず、所有者不明土地の発生原因として、「相続登記がされないこと」が挙げられます。相続登記がされないことに対処するため、今回の改正で相続登記の義務化もされたのですが(相続登記の義務化については別記事で解説します)、相続登記のためには遺産分割が円滑に進むことが重要です。
 ここで、具体的相続分による遺産分割ができない場合について考えると、この場合、生前贈与等を受けていなかった相続人は、具体的相続分による遺産分割と比べて、遺産分割において不利益に扱われます。そのため、具体的相続分による遺産分割を主張したい相続人には、期間内に遺産分割を行うインセンティブがあると考えることもできます。その結果として、遺産分割が促進されると考えられます。
 このように、具体的相続分による遺産分割の期間制限を設けることは、間接的に遺産分割を促進するといえるのです。すなわち、遺産分割の促進→相続登記の促進(義務化)→所有者不明土地の発生予防という関係にあるのです。
 そのため、具体的相続分による遺産分割の期間制限は、所有者不明土地の発生予防につながるのです。
 また、既に存在する遺産分割長期未了状態の土地については、法定相続分による画一的で簡明な遺産分割がされれば、遺産分割未了状態の解消が促進されます。
 そのため、具体的相続分による遺産分割の期間制限は、すでに存在する遺産分割長期未了状態の土地との関係では、遺産分割未了状態を解消し、その利用円滑化につながると考えられます。

  ウ 経過措置について

    このような上記改正の施行日については、前述のとおり令和5年4月1日からですが、遺産分割の期間制限については、経過措置に注意が必要です。
 施行日は令和5年4月1日からなのですが、同日より前に発生した相続についても、本改正は適用されます(改正法付則3条第1文)。
 もっとも、施行日から5年以内にこの10年の期間制限が経過してしまう場合には、施行日から5年を経過する時まで、家庭裁判所に遺産分割の請求(新民法904条の3第1号)をすることができます(改正付則3条第2文)。新民法904条の3第2号についても、同様の経過措置が定められています(改正付則第3条第2文)。

(2)その他の改正等

   遺産分割に関するその他の改正としては、遺産分割の調停又は審判の申立ての取下げに関する制限、遺産分割禁止に関する規定の整備などが行われました。

3 相続財産管理及び相続財産の清算に関する改正等

(1)相続財産の管理及び清算に関する改正

  今回の改正前にも、相続財産の管理に関する制度として、相続財産管理人がありました。改正前の相続財産管理では、相続財産の清算を目的とした相続財産管理制度(改正前民法951条以下)と保存のための相続財産管理制度(改正前民法918条2項、926条2項、936条3項、940条1項)の目的を異にする制度が同じ名称の「相続財産管理制度」として規定されていました。

ア 相続財産清算人
 そこで、今回の改正では、改正前の清算のための相続財産管理制度において相続財産管理人とされていたものについて、その名称を相続財産清算人と変更し、生産手続の合理化を図るなどの改正が行われました。
 具体的には、改正前は権利関係の確定に最低10カ月かかっていたところ、その期間を6カ月程度に短縮する等の改正がされています。

イ 相続財産管理
 相財産管理制度については、相続人不分明の場合や熟慮期間経過後遺産分割前の暫定的共有状態の場合にも利用できる等の改正がされました。これにより、所有者不明土地の管理についても、同制度の利用が一つの選択肢となりました。
 また、相続財産管制度が準用する不在者管理に関する規定についても、管理すべき財産の全部が供託されたことが管理人選任処分の取消事由に当たると規定され、その終了事由が明確化される等の改正がされました(家事新146条の2第1項、147条)。

(2)相続放棄をした者による管理についての改正

   改正前民法940条1項では、「相続を放棄した者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産管理を継続しなければならない。」と規定されていました。
 改正前民法では、放棄した者でも「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって管理することが要請されていることはわかりますが、被相続人と同居していない場合などの場合であっても、このような義務を負うかが明確ではありませんでした。
 改正後民法940条では、「相続を放棄したものは、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならい。」と規定されました。
 この改正により、相続放棄をした者による管理の範囲等が明確化されました。

 

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